活動方針

活動テーマ: ~ポストコロナと世界分断の時代を迎えて~
       日本企業のあり方とリーダーの要件とは

代表幹事

代表幹事
天野エンザイム(株)
取締役社長
天野 源之

1.激動する世界情勢

 バブル崩壊後の30年の間、日本では経済の立て直しのために様々な問題提起が行われたものの、抜本的な構造改革には至っていない。その間、少子高齢化、労働力減少、財政悪化などの諸課題は、益々深刻となり、混迷度合いは増すばかりである。世界を見ると、冷戦終結を契機に1990年代から進展したグローバル資本主義は、人材・物資・資金といった経営資源の往来を自由にし、IT時代の到来とも相まって、GAFAに代表されるような巨大企業が誕生した。一方で、経済拡大に伴う大量生産・大量消費社会は、自然破壊、地球温暖化、貧富格差拡大など深刻な問題を招き、従来型の資本主義は限界を迎えたとも言われている。2015年の国連サミットで採択されたSDGsは、日本人の心情との親和性が高く、多くの企業が社会課題解決と自社事業を結びつけて、持続可能な社会の実現に向けた戦略を実行に移す契機となった。
 また、2020年初頭から猛威を振るった新型コロナウイルス(COVID-19)は、人々が既存の価値観や仕組みを見直す機会となり、デジタル化や働き方の多様化といった様々な社会変化を加速させた。国によって対応に違いはあるもののワクチン接種や治療薬の開発が進み、ポストコロナ時代を迎えつつある。その最中、ロシアによるウクライナ侵攻が勃発した。欧州諸国を中心とした激しい非難が起こり、米中対立にとどまらず、世界は民主主義国家と専制主義国家に分断される新たな段階に突入することとなった。米国がかつてほどの経済力・軍事力の優位性を失ったいま、この分断は容易には収束しないと思われる。

2.「中部経済同友会の未来を考える委員会」の活動

 2020年度の「中部経済同友会の未来を考える委員会」では、歴代代表幹事や有識者へのインタビュー、会員の皆さんへのアンケートを通して、同友会は最先端のテーマを学び、会員の相互研鑽によって共に成長する場であることを再認識した。経営者には自社の専門分野に限らず、政治、経済、科学、情報、哲学、歴史、文化など異なる領域にわたる広範な知識が求められる。これらは予測困難な時代において、中長期的な経営判断の拠り所や指針となるであろう。
 インタビューの中で特徴的だったことは「同友会は、常に最先端を学ぶ場、最先端は難解な点も多々あるが、まず触れることが重要である」、また「経済人は経営のことだけを担っていればよいわけではない。大局的に物事を考え、自分なりの国家観、座標軸を持っていることがリーダーの要件である。経済団体はそうした見識を広げる場であるべきだ」と示唆に富むお言葉を頂いたことである。ウクライナ侵攻を契機とする新たな世界分断は、我々経済人に対する現実的な問いかけとなった。

3.2023年度の重点課題と継続課題について

 このような課題認識の中、今年度は重点課題2題と継続課題1題を挙げ、講演会・交流会・提言・国内外視察などの活動を展開する。

(課題1)企業を取り巻く安全保障の本質を理解する(重点課題)

 歴史を振り返ると、1989年の冷戦終結を契機に始まったグローバル資本主義は、2022年2月ロシアのウクライナ侵攻によって終焉を迎えた。米中対立も相まって、世界は新たな分断の時代に入った。企業は、これまでの事業戦略の抜本的な見直しを余儀なくされ、経営者には、新戦略立案に必須となる多岐に亘る安全保障についての深い理解と見識が求められている。外交、経済、エネルギー、食料など世界情勢の本質と国家の進む道を学び、日本の立ち位置を認識すること、また企業単位では、サプライチェーンや製造拠点の再構築を的確に行なうことが重要である。各々の分野のトップクラスの有識者を招き、学び、議論することから、目まぐるしく変化していく世界で、経営者が持つべき軸の確立に寄与していきたい。

(課題2)日本人の普遍的な価値を世界へ(重点課題)

 経済協力開発機構(OECD)が公表する日本人1人当たり名目GDPは、1991年の世界第4位から2021年には第20位まで下落した。いわゆる失われた30年である。今や政治と経済は一体であり、その総和は国家の力である。その意味で日本経済の成長への反転は急務である。企業は日本市場に大幅な伸長が望めない中で、規模に関わらず海外市場への進出を目指していかなければならない。しかし、そこでは欧米あるいは中国やインドといったアジアなど、世界の企業との競争が待ち構えている。何を拠り所に世界と戦うのか。コモデティ市場ではなく、高付加価値のスペシャリティ市場を目指す、その拠り所はブランディングであり、ブランディングは企業価値そのものである。
 2019年度の海外視察は、スイス企業の高付加価値戦略を学ぶ旅であった。グローバル市場を見据え、徹底的な差別化戦略と品質重視で、あえて多量生産を控えることなど、「良いものを安く」ではなく「良いものは適正価格で」販売することにより、利益の配分や再投資を実現し、国家の経済力を高める姿を目の当たりにした。
 日本の差別化のキーになる要素は何か。簡単に模倣されない世界競争に勝ち続ける経営手法や研究開発、ものづくり、サービスなどは存在しないのか。世界で活躍する企業や日本人、そして、日本人の認識していない“何か”に気付いた有識者を招き、その深層に迫ってみたい。

(課題3)社会課題を解決して成長の原動力へ(継続課題)

 SDGsやカーボンニュートラル、DE&Iなどの社会課題は、今後、社会や企業が持続的な発展を遂げていくために、解決しなければならない共通課題である。SDGsは2030年を目標に掲げ、2050年にはカーボンニュートラル社会の実現が求められており、現実的に期限が迫ってきている。複雑化や多様化する中で単独では解決できない場合、産官学などが連携し、最新テクノロジーを活用してイノベーションを起こしていくことが不可欠である。
 これらの課題解決の一助となるよう、昨年度の提言書や委員会の活動を通じて、情報提供や実践的な取り組みに繋げていきたい。

4.最後に

 このように今年度は、多岐に亘る安全保障の理解と日本人の普遍的価値、社会課題解決という3つのテーマを活動の中心に据えて進めていく。各分野の有識者から示唆を受け、会員の皆さんと問題意識を共有し、相互に活発な議論を行うことで理解を深めていきたい。
 これらの活動により、日本人の高い精神性を維持しつつ、経済的にも豊かな国を実現し、自信と誇りを取り戻したい。