活動方針
活動テーマ: 日本経済の再浮上に向けて
~中部から切り拓く未来~
代表幹事
ノリタケ(株)
取締役会長
加藤 博
1.世界から見た日本の経済状況
「失われた30年」と言われる長期に亘る経済停滞により、日本の名目GDP(国内総生産)は、世界第2位から第4位に転落した。今年はインドにも抜かれ、世界第5位に転落するとの予測もある。この30年間のGDPの伸びを比較すると、米国4.6倍、中国44.8倍、ドイツ2.8倍、インド11.1倍に対し、日本は1.3倍に留まっており、双方の差は歴然としている。
1990年代前半、トップに位置していたIMD(国際経営開発研究所)世界競争力ランキングは、2024年に世界第38位と過去最低に沈んでおり、日本経済の凋落は明らかである。
経済力は国富の源泉であり、国民生活や国際社会からの信頼度に大きな影響を与える。将来世代のためにも、負の流れからの転換を急がねばならない。
経済停滞には様々な要因が考えられるが、企業が注目すべきは労働生産性や実質賃金が世界から取り残されている点であろう。労働生産性(時間当たり)は、かつては20位前後で推移していたが、直近5年間は下降傾向であり、世界第29位である。また、実質賃金は、この30年間で米国1.5倍、英国1.4倍、ドイツ1.3倍に対し、日本はほぼ横這いであり、企業には、合理化・効率化の追求に加え、付加価値の創出により収益力を向上させ、賃金として還元する好循環の実現が求められる。
生産年齢人口の減少が避けられない環境下において、低迷する従業員エンゲージメントの向上も大きな課題である。生産年齢人口は、ピークを付けた1995年の約8,700万人から、2040年には約6,200万人となり、約2,500万人減少すると予測されている。また、仕事への熱意ややりがいを示すエンゲージメント指数は、米国ギャラップ社の2024年調査によると145カ国中最下位であり5年連続で世界最低水準、2025年版の世界幸福度ランキングでは147カ国中第55位である。人材の確保が難しくなる中、従業員の働きがいや働きやすさを追求し、人材を最大限に活かすことが、上述の好循環の鍵となるであろう。
日本企業は、業績の改善とともに長年の課題であったガバナンス改革が進み、再評価されている。日経平均株価は2024年2月に史上最高値を更新し、物価や賃金の上昇が定着するなど、明るい兆しも見えてきている。「成長と分配の好循環」「物価と賃金の好循環」により、「失われた30年」からの脱却が現実化してきており、まさに山が動き出したという状況にある。
トランプ大統領による関税や移民、環境などの政策変更の影響や、米中関係やロシア・ウクライナ戦争、中東問題に起因する経済安全保障への懸念が高まっている。企業は難しい経営判断が求められるが、動き出した山を止めることなく、今こそ日本経済再浮上のチャンスと捉え、この流れを加速させる取り組みに傾注すべき時であろう。
2.2025年度の重点課題
(1)新たな価値の創出
多くの日本企業は、良質な製品・サービスを低価格で提供する「コストカット型」の経営を是としてきた。結果として、長期のデフレ経済を誘引し、経済成長や実質賃金の伸びを阻害する一因になったと考えられる。この状況から脱却し、日本経済が再浮上するためには、「イノベーションの創出」や「ビジネスモデルの転換」などにより付加価値の高い製品・サービスに見合った価格で提供する「付加価値型」の経営を進めていく必要がある。
AIや量子技術、半導体、バイオテクノロジーなど様々な分野で急速な技術革新が進んでおり、既存の枠に囚われず、成長分野とも融合した新たな価値の創出への取組みが各企業に求められる。
(2)人への投資
日本は、人口減少や国民の幸福度の低迷など多くの課題を抱えているが、企業が持続的に成長していくためには、熱意をもって主体的に行動できる人材を増やしていくことが必須である。そのためには、「人への投資」により、人材育成や働きやすい環境の整備はもとより大企業・中堅中小企業・スタートアップ企業などの交流を促し、多様な人材が活躍できる機会を創出していくことが求められる。
各企業が上記の取組みを推進していくためには、経営者が夢を語り、従業員が希望を抱き、共に夢に向かって挑戦していくことが重要である。夢を持てる社会を実現していくことが、日本経済の再浮上に向けた大きな原動力となるであろう。
今年度の活動では、上記重点課題について見識を深めるため、人材育成や新事業創出、DX、ウェルビーイング、経済安全保障、地方創生など幅広いテーマについて有識者や専門家を招聘し、日本経済再浮上のための方策・処方箋を示して頂き、会員の皆様と課題解決のための取り組みを共に考えていきたい。
3.最後に
今年は、ようやく動き出した日本経済が加速するための分水嶺の年であり、その重要な年に中部経済同友会は70周年を迎える。年間活動を通じ、付加価値型の経営モデルや多くの人が夢や希望を抱き、活躍できる風土の重要性を浸透させることで、日本経済の再浮上に繋げていければと思う。
「夢なき者に理想なし、理想なき者に計画なし、計画なき者に実行なし、実行なき者に成功なし。故に、夢なき者に成功なし」。幕末に私塾“松下村塾”を開き、多くの若者に影響を与えた吉田松陰の言葉である。夢を持つことで努力や挑戦が生まれ、成功に繋がることを表している。「夢なき者に成功なし」、この言葉を胸に、1年間、会員の皆様と大いに夢を語りたいと思う。