活動方針
活動テーマ: Well-being SDGsの次のゴールに向けて
~多様な人材が活躍でき、成長を実感できる社会・企業の風土づくり~
代表幹事
豊田合成(株)
取締役会長
宮﨑 直樹
1.これから求められる社会・企業のあり方とは
産業革命以降、近代から現代にかけて、世界の多くの国々において大量生産・大量消費の時代が続いた。良い品質のものを低コストで大量生産することにより、世界経済は飛躍的な成長を遂げ、多くの人々は「物質的な豊かさ」を手に入れた。一方、大量のCO2の排出が続いたことによる地球温暖化の進展や格差問題の拡大といったマイナスの側面が表面化し、「物質的な豊かさ」による幸せの追求は限界を迎えようとしている。国連が2015年に採択したSDGsは、こうした歪みにより引き起こされた様々な社会的課題を解決し、持続可能な社会を目指すものである。多くの国々においてカーボンニュートラルの実現が宣言されるなど、世界の潮流は確実に変化してきている。
日本の現状に目を向けると、SDGsの実現に向けた取り組みを通じ、環境型ビジネスやサーキュラーエコノミーが普及し、DXの推進や多様な働き方が社会全般に浸透するなど大きな変化が見られる。しかしながら、失われた30年からの脱却には至らず、経済・社会の混迷は現在も続いていると言わざるを得ない。
加えて、日本でいち早く始まった少子高齢化による労働力の減少は益々深刻化し、更に、採用が困難な環境下において、新卒3年目までの離職率は大卒32.1%、高卒36.9%と3割を超え、企業経営の根幹を揺るがしかねない状況にある。
こうした現実を踏まえると、持続可能な社会の実現にはSDGsの取組継続が必須であるが、労働力の減少が避けられない人口減少社会においては、従業員の企業に対するエンゲージメントを高め、幸福感を持って、自発的に仕事に邁進できる環境づくりが必要になってくる。
生産性の向上や利益の追求は、企業の存続や発展のために永続的な課題であり続けるであろうが、その課題を解決するためには、今まで以上に、働く人の幸せを意識した経営が求められるのではないだろうか。また、そのことが、選ばれる企業となるための重要ファクターともなるであろう。
個性が尊重され、誰もが等しく活躍できる舞台を与えられ、挑んだ結果たとえ失敗しても再び挑戦できることで幸せを実感できるWell-beingな社会や企業風土を創り上げることが、日本が再浮上を遂げる鍵ともなるのではないだろうか。
コロナ禍は、私たちの生活に大きな影響を与え、一気に働き方や生活習慣に変化をもたらし、多様な働き方が可能となった。こうした社会的変化を受け、今こそが企業変革のチャンスであり、この機会を活かした国がこれからの世界のリーダーシップをとることになろう。
SDGsは2030年までの取り組みであるが、その後に到来するであろうWell-beingな社会、企業経営を見据え、バックキャストして、今我々が知っておくべきこと、行動を起こすべきことについて、今年度、会員の皆様と共に考えてみたい。
2.Well-beingに対する各国や日本の動向
Well-beingに関する世界各国の政府の政策動向を俯瞰すると、政府施策や予算への反映、専属の担当閣僚・部局の設置など具体的な動きが始まっている。ニュージーランド政府は2019年に世界で初めて「Well-being予算」を編成した。また、アラブ首長国連邦は2016年2月発足の内閣で「幸福担当大臣」、スコットランド政府は2021年に「心的Well-being及び社会ケア担当閣外大臣」、インド中部のマディヤ・ブラデシュ州が2017年に「幸福省担当大臣」を任命している。
日本では、2021年10月の自民党政策BANKにおいて「成長戦略を通じ、格差是正を図りつつ、一人ひとりの国民が結果的にWell-beingを実感できる社会の実現を目指す」との文言が盛り込まれた。また、岸田政権の最重点課題の一つであるデジタル田園都市構想では、最上位目標に地域のWell-beingが置かれている。自民党の「日本Well-being計画推進特命委員会」では、企業利益の最大化のみを目的とすべきではなく、従業員や協力企業等も含む社会全体のWell-beingを十分に考慮する必要性が明記されている。
我々、企業経営者はこういったWell-beingに関する世界や日本の政策を見据えた経営の舵取りが必要となってきている。
3.2024年度の重点課題について
前述の内容を受け、Well-beingが最大化される未来社会を想像し、それに備えるための企業経営について考えてみたい。以下2点を重点課題として、講演会・交流会・国内外視察などの活動を通じ、本課題に対する見識を深め、企業の具体的なアクションに繋げていきたい。
(1)Well-beingが最大化される未来社会の探求
脳科学や量子、デジタルツインなどのテクノロジーの進展により、多様な価値観を認め合い、誰もが自分らしく幸せで豊かに暮らせる未来の到来が希求される。暮らし・健康・街・テクノロジー・地球環境・エネルギー・教育・スポーツなど様々な社会の構成要素の未来を想像し、Well-beingが最大化される未来社会を探求してみたい。
(2)Well-being社会に求められる企業経営の探求
Well-being社会の到来を見据え、求められる企業風土やそれを支える人事制度等の組織づくり、創出されるビジネスについて探求してみたい。
4.終わりに
国際連合の持続可能開発ソリューションが発表した2024年の世界幸福度ランキングによると、日本は143ケ国中51位とされる。米国が23位、ドイツが24位であることを考えると、経済力に比べ低い水準にある。労働生産人口の減少が続く日本において、経済の根幹にある産業の発展のためには、労働生産性や付加価値の向上は欠かせないが、働く人が幸せでなければ、その実現は困難なものとなろう。今から始められることを皆様と共に考え、具体的な行動に繋がる契機となるよう、1年間の活動に取り組んでいきたいと思う。