■自己紹介
大学を卒業して、民間企業へ5年半勤務した後、内閣府の青年国際交流事業「世界青年の船」へ参加した。ここでの経験はまさに「ダイバーシティ」そのものであった。その後、フランスのMBAを取得し、現在の三菱UFJリサーチ&コンサルティングに転職した。人事制度の改定支援コンサルティングをする中で、多くの企業で男性中心に物事が決まっていくことに違和感を覚えた。また、自身が育児休業中に出会った育児中の女性たちが、社会の中で十分に活かされていないということにも問題意識を持つようになった。育児休業から復職した2012年に、東海地域の企業における女性活躍推進に関するアンケート調査を実施した。東海地域は女性活躍推進が遅れているという調査結果への反響は大きく、企業の関心の高さを伺い知ることができた。現在、女性活躍やダイバーシティという視点からコンサルティングを行っている。
■企業が女性活躍推進に取組む理由
グローバル化、少子高齢化、働く人の価値観の変化などを背景に、多様な人材を活かすことのできる「ダイバーシティ経営」が求められている。ダイバーシティ経営とは「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義される。企業がダイバーシティ経営に取組むメリットとしては、多様化する市場ニーズへの対応、視点や発想の多様化による問題解決やイノベーションの促進、優秀な人材の確保といったことがあげられる。男女雇用機会均等法が制定され30年が経つが、日本企業における女性活躍は遅々として進んでいない。人材が多様化している今、男女の区別、時間制約の有無に関係なく、すべての人が能力を発揮できる組織マネジメント・職場風土の構築が喫緊の課題だ。
■女性の働き方の現実と、法律の整備
2009年の育児・介護休業法の改正により、3歳未満の子どもを養育する労働者に対し、短時間勤務制度(1日原則6時間)を設けることが事業主に義務付けられた。これにより、女性が出産を期に離職することは少なくなった。しかし、「就業継続」はできるようになってきたものの、「活躍」には課題が残る。多様な人材を公正に処遇する評価・報酬システムや、時間制約の有無に関わらず成長を促す職務経験・教育機会づくり、長時間労働の是正が求められる。本年4月には女性活躍推進法が施行された。また、2017年1月には育児・介護休業法、男女雇用機会均等法が改正され、いわゆるマタハラなどの防止措置を講じることが事業主に義務付けられる。コンプライアンスの観点からも、しっかりとご対応いただければと思う。
■東海地域での女性活躍推進
東海4県(愛知・岐阜・三重・静岡)は、全産業中、製造業が最も多い。しかし、従業員に占める女性の割合や、管理職に占める女性の割合はともに低い。女性活躍推進に向けては、高いハードルといえるだろう。
女性は男性に比べ「管理職(課長以上)」を目指す人が少なく、「今の役職のままでよい」と考える傾向が強いが、東海地域の女性はこれらの傾向がいずれもさらに強い。東海の女性に顕著な考え方として、女性本人が「能力不足」、「経験不足」を認識することである。ここに、女性の育成プロセスの問題を見ることができる。つまり、同じ総合職でも、配属や異動、仕事の与え方において、男女で機会差があるのではないかということだ。また、管理職自身が、仕事と家庭の両方を充実させていなかったり、「長時間労働」=「頑張っている」とポジティブに捉えることも問題である。「人材育成のプロセス」、「職場・管理職の働き方」について、再確認する必要がある。
■まとめ
社会が大きく変化する中、従来の男性中心の規範・慣例・常識といった既成概念によるマネジメントから脱却し、多様な価値観やライフスタイルを受容できる職場の実現が求められている。企業として、本気でこの課題に取組むことで、未来に向けた強い組織の礎が形成される。東海地域の女性活躍の取組みは、まだ始まったばかりだ。経営トップがコミットして、取組むことが非常に重要である。