当社は、ポッカコーポレーションとサッポロ飲料が2013年1月に経営統合して誕生した。
私は、サッポロビールに入社し、最初の九州支店を皮切りに、本社経理部、都市開発本部ホテル開業準備室(ウェスティンホテル東京)、経営戦略部、北海道本社戦略企画部などを歴任し現在に至っている。
1. 企業は何故地域戦略をとるのか
最初に企業の地域戦略の必要性について考察したい。
大きな社会の流れとして、「モノからコトへ」の変化が指摘できる。例えば「旅」や「食」を考えると、従来の「モノ」単位への興味から、現在は「そこで何を体験できるか」という「コト」へ消費者の考え方が変化している。また、都市部への人口集中の結果、ふるさとを持たない人が増加し、「ふるさとへの憧れ」や「地元愛」への思いが強まってきている。
企業の視点から考えると、例えばサッポロビールの場合、北海道でのマーケットシェアは半分近くあるが、地理的に九州に向かって南に下るほどシェアが次第に低下していく。このような大きな地域差は当社に限ったことではない。
また、従来の「商品中心」の企業のファンづくりから、現在では、「企業の地域社会貢献の度合」や「社員」などを含めた総合力で、企業のファンがつくられるという傾向が強まっている。
このように、マーケティングを取り巻く環境は、地域により大きな差が生じている。このため、全国一律でのマーケティングでは対応できず、結果としてきめ細かい地域戦略が、必要になっているのである。名古屋の場合に於いても、サッポロビールの工場撤退により、マーケットシェアが落ちたという、地域密着性の影響を強く受けた経験がある。
2. サッポロビールグループの北海道戦略について
北海道の地域特性として、第一に「距離の壁」が挙げられる。道内の移動距離が長く、流通もあまり発達していないので、物流コストが高くなってしまうのである。また、道内の人口の半分は札幌市に集中し、他の都市は規模が小さくパワー不足である。道民気質は、新規性を好むが飽きっぽい。
このような北海道で、サッポロビールの地域戦略の中心商品は「サッポロ クラシック」だ。1985年以来、製法に拘った商品であるが、一番の特徴は「北海道限定販売」ということである。
北海道では、業務用市場では高水準のシェアを維持しているが、一方の家庭用市場では優位性が薄れつつある。理由は、サッポロビール支持層の高齢化と、若者層のロイヤルティーの低下が主要因である。若年層のロイヤルティー低下は、ビール以外の飲料のポジションが相対的に低く、ライバル社に比べ、10代からの「サッポロブランド」への囲い込みが弱いところにある。この挽回策として「飲料事業の強化」と、工場見学などの「体験型の接点の強化」にサッポロビールは取り組んでいる。
北海道市場の現状には危機感を抱いており、北海道で生まれ育った企業グループとして、道民に「北海道を代表する元気で親しみのある企業」と言われることを目指している。スローガンは「北海道はサッポロビール」だ。北海道、札幌市をはじめとする市町村・民間企業・大学との連携・協働を通して、地域に根差したイベント開催や商品開発など、数多くの取り組みをサッポロビールは推進している。
3. ポッカの名古屋戦略について
2011年の調査で、ポッカの地元企業(名古屋)としての認知度は、10%未満という驚きの結果がでた。これは地元の他社と比較すると、ミツカンの1/4、カゴメの1/2という数字の低さである。この結果を受け入れ、当社は「名古屋戦略部」を立ち上げた。「創業の地への感謝=地域貢献」を活動の基盤とすることで、地域との「協働活動」を推進するのである。その活動の結果として、ファン作りの拡大、企業ブランド価値の向上など、中長期的な営業活動の下支えになればと考えたのだ。現在は、当社工場の所在地である、北名古屋市、磐田市、豊田市とは連携協定を結び、まちづくり、文化や食の振興などの幅広いテーマで協働している。
4. まとめ
私見であるが、<北海道への提案>をしたい。
北海道の姿勢として、「閉鎖的にならず外へ出ること、外からどんどん受け入れること」である。経済、観光面では、北海道のマイナス要素となっている交通・物流網を整備して、
「物流の低コスト化」を推進すべきである。同時に、北海道ならではの自然環境を生かしたビジネスの推進も大切であろう。その為には、企業レベルで、地域戦略とブランドを最大限に活用することだ。
次に<名古屋への提案>だ。名古屋は交通網の良さ、加工技術の集積地、歴史など多くの利点を持つ。街の魅力を高めるために、尾張、伊勢、三河、飛騨のような旧の国割へ変更することはどうだろう。中心部の「都市化(現実)」と対比する、郊外の「田舎(ふるさと)」の格差を意図的に作り出すことも面白い。都市部の24時間化、域内簡易移動型車両の導入、ものづくり企業による高校・大学・企業の一本化の推進なども考えてはどうだろうか。