1. 会社概要紹介
当社は1945年に設立され、現在は主に自動車の排気系部品とボディ部品を製造している。また、環境部品として最近注目されているエネファームの中核部品も製造している。岡崎市に本社のある唯一の東証一部上場企業でもある。当社は製造部品が大きいため、商品を効率良く運搬するため、主な納入先であるトヨタ自動車に近い場所に工場が所在している。
従業員は連結で約一万人、子会社が海外に19社(北米、中国、欧州、インド、東南アジア等)ある。当社はトヨタ自動車や他の自動車メーカーが海外進出する際、客先の要請もあり近くに進出したため、海外子会社が多くなった。現在、売り上げの約6割が日本国内で、残りは海外であり、その比率を2020年には半々にしたいと考えている。
2. 過年度決算訂正
当社は、2000年頃はトヨタグループの中でも超優良会社であったが、新社長に交代後、過大な投資を行ったことに加え、会計処理の不備が重なった結果、有価証券報告書等の虚偽記載となり、2008年12月に第一次過年度決算訂正を発表した。その後、社外調査委員会を設置し、「なぜ決算訂正を行わなければならなかったか」の原因究明、虚偽記載の故意性、さらに今後会社を再生させるための方策の立案を依頼した。その結果、第一次過年度決算訂正は、当社が急激に海外事業を拡大し、多くの海外投資を行ったため、経理の能力が追いつかず、設備投資等に関して仮勘定から本勘定への振替等が行えていなかったことに問題があった事が分かった。さらに、この調査課程において、他社への不正融資が発覚し、第二次過年度決算訂正を発表せざるを得なくなった。第二次の訂正の際には、特別調査委員会を設置し、不正融資の全体像の解明、問題の真意の明確化、改善に向けた方向性の提示を依頼した。特別委員会から提出された報告書により、不正融資が表面化する以前に当時の監査役から「当該会社への融資には問題がある」と指摘を受け、取締役会議で「融資は行わない」と決定されたものの、ワンマン社長へのゆがんだ忠誠心により、経理担当役員が偽装工作し、多額の融資を実施し、それが発覚したことで刑事事件へと発展した。このようなことから、当社は、同報告書で示された再建計画を進めることとなった。
3. 改善報告書と特設注意市場銘柄
当社は二度の決算訂正を実施したため、東京証券取引所(以下、東証)から二度の改善報告書の提出を求められた。これを提出し、改善が進んでいるとの判断がされない場合、特設注意市場銘柄(後述)が解除されないため、この改善報告書の作成には、非常に多くの時間と人手をかけることになった。また、その改善書に基づき東証がひとつひとつ確認を行うため、その説明や対応にも多くの時間と人手がかかった。
2008年10月に当社の株式は、監理銘柄に割り当てられ、翌年3月に解除されると同時に、特設注意市場銘柄に指定され、当面上場を維持できることとなった。万が一、特設注意市場銘柄指定後一年以内に内部統制確認書を提出し、東証の審査に合格しない場合、一年毎に再提出となり、三年以内に審査に合格できないと上場廃止という厳しい条件がつけられている。当社は、内部統制の仕組みを確立できていなかったため、内部統制確認書の作成と共に、当社本体並びに全子会社の内部統制の仕組みの整備を進めていった。
改善報告書や内部統制確認書の作成等、全社プロジェクトとして総力をあげて取り組んだ結果、2010年6月の株主総会当日に特設注意市場銘柄解除となった。作成した書類は、確認書459ページ、事務フロー図284ページ、キングファイル33冊に及んだ。
4. 過年度決算訂正から学んだこと
一番の学びは、「優良企業であるが故の油断」で、会社のトップが交代しても優良企業を維持できるかどうか、という点である。当社内には、「何年にもわたり多額の設備投資を行っているのに、なぜ会社の利益が出ているのか不思議だった」という従業員も多くいたが、決算数値が良かったため、「当社はすごい会社なのだ」と思っていたという。従って、会社内で何か変化点があった場合、過去に優良企業であった時の状態が、現在も問題なく続いているのか、と考えてみることが必要である。
当社の場合、無理な事業拡大、実力の伴わない成長戦略、脆弱な管理体制等の問題を抱えていたが、気付いても改善提案できない企業風土があり、「少々のルール違反は問題ないだろう」とコンプライアンス違反の恒常化につながってしまった。従って、内部統制というルール作りをしっかり行い、「コンプライアンスを遵守する風土を造り上げることが、経営基盤を確立するために重要なことだ」としっかり認識しなければならない。
現在当社は、内部統制委員会組織を立ち上げ、各部門の内部統制責任者を明確にし、定期的な情報の吸い上げを実施している。また、それまで不備であった規程類を整備し、定期的なメンテナンスを実施している。さらに、リスクマトリクス表によるリスク管理を行って、リスクを吸い上げ、対策の活動状況のサポ−トおよびフォローを実施している。
5. 現在のフタバ産業
現在当社は、第二次中期経営計画の中で「VISION 2020」を策定し、(1)「安全、品質」の深化・向上と安定供給、(2)「ものづくり改革」と「コア技術強化」による収益力の向上、(3)スピーディーなグローバル展開、(4)コア技術を生かした新しい価値の創出、商品化、(5)人材育成、組織活性化の5項目を基本方針とした。そして、目指す姿として、「挑戦する人の集団」、「モノづくりで社会に貢献」、「新しい価値を世界へ提供」を掲げ、取り組みを進め、着実に成果をあげはじめている。
6. 最後に
- 行き過ぎたリーダーシップ・ワンマン経営は必ず破綻をきたす
- 10年かかって悪くなった会社は、元に戻るだけで同じ年数がかかる
- 社内ルールを設置しても、それをきっちりと守ろうとする風土がなければ、コンプライアンスは遵守されない。
- トップ次第で、会社は簡単に良くも悪くもなる