今回は「東レ(株)オートモーティブセンター」の視察会を実施した。 初めに、東レ(株)名古屋事業場 事業場長・工学博士の沖田 茂氏がご挨拶された後、オートモーティブセンター主幹(所長代理)の清水信彦氏より名古屋事業場の概要説明などが行われた。要旨は以下のとおり。
1. 東レ(株)名古屋事業場の概要 当社は国内に12の工場を保有しているが、この内5工場が中京地区に立地している。その一つであるこの名古屋事業場は、1951年(昭和26年)に操業を開始した。従業員は、関係会社の方も合わせ、約1100人である。主な製品は、ナイロン66樹脂を始めとする樹脂製品で、東レにおける樹脂材料のマザー工場となっている。 当社は現在、グリーンイノベーション事業の拡大に取り組んでいる。これは、当社が保有している「有機合成化学」、「高分子化学」、「バイオケミストリー」、「ナノテクノロジー」の4つのコア技術をベースに、繊維、樹脂、フィルムなどの基幹事業や炭素繊維、電子情報材料、ファインケミカル、水処理や医薬などの事業領分野で、先端技術・先端材料開発を進め、これを地球温暖化防止、環境負荷低減の観点で事業拡大を積極的に進めていくというものである。その中でも特に、自動車や航空機の軽量化に関する開発が重要な位置付けにあると考えている。 このグリーンイノベーションを実現するための開発エンジンとして、2008年にオートモーティブセンターを、翌年2009年にアドバンストコンポジットセンターを設立、これに1989年に設立した樹脂応用開発センターを合わせた自動車・航空機開発拠点A&Aセンター(Automotive & Aircraft Center)を名古屋事業場に設立した。現在、航空機関係では、三菱航空機(株)が開発中のMRJ(Mitsubishi Regional Jet)に使用する部品を開発しており、自動車関係では、将来CO2 の排出基準が厳しくなることから、炭素繊維を中心に自動車各社との共同開発を積極的に推進している。
2. オートモーティブセンターの概要 オートモーティブセンターはこれら自動車関連メーカーとの共同開発プロジェクトの技術マネージメントを主体に行う部署で、東レの持つ各種先端材料を、これに必要な成形、評価・分析、解析など周辺要素技術を開発し、材料と組み合わせてソリューション提案していく部署との位置付けである。従って共同開発にあたってはお客様の初期設計や構想段階から参画し、開発目標を共有化していく方式を取っている。この方式は、自動車メーカーや部品メーカーから大きく支持されており、部署開所以来、30数社との共同開発を実行中である。
3. 重点課題 オートモーティブセンターにおける現在の重点課題は、次の5つである。
- 車体軽量化対応:構造部品に炭素繊維複合材料を適用して車体の大幅な軽量化を図る
- 次世代パワートレイン対応:電動化に対応するフィルム、樹脂材料を開発し提供する
- フィルム加飾:塗装レスや新しい意匠性を付与できるをフィルム素材を開発し提供する
- 非石油系素材:内外装品の植物由来材料への置き換える
- カーエレクトロニクス:センサー等に樹脂や電子材料を開発し提案する
4. これまでの成果 A&Aセンターではグリーンイノベーション製品と位置付ける環境配慮型先端材料や技術を駆使した次世代コンセプトEV(電気自動車)“TEEWAVE@AR1”を製作した。また、自動車向けハイサイクル成形化したCFRPや高機能エンプラの量産車両への適用実績も上がっている。今後も車体の軽量化による省エネや地球環境の改善、車の利用者に対する高い安全性の提供等、自動車産業はもちろん、日本として新しくチャレンジしていく航空機産業に対しても、新しいコンセプトを提案していきたいと考えている。
概要説明後、2グループに分かれて事業場見学が行われ、ロビーギャラリーと実験棟を見学した。 ロビーギャラリーには、先に説明のあった次世代コンセプトEV(電気自動車)“TEEWAVE@AR1”をはじめ、東レグループの新素材・新技術を用いて実用化された部品、部材や、あるいは、今後の新しい課題に対する提案品などが展示されていた。“TEEWAVE@AR1”は実際の車に乗り込み新素材でできた景色の見え具合やシートの座り心地を確かめている会員の方もいた。さらに、展示品に触れたり持ち上げることもでき、これまで鉄材の使用が常識と考えていたものがCFRPや樹脂材料に置き換わることで、「こんなに軽くなるのだ」と、驚きと共に体感することができた。
また、実験棟は、歩行者保護試験機、フィルム加飾用TOM成形機ほか、自動車向け先端高分子材料の評価や解析が行える設備が整っており、お客様の課題を共同で解決するためのオープンラボが可能な状態になっていた。これらの評価装置で新しく開発された材料を、世の中に出して良いか、品質、信頼性の評価・解析がしっかり行われていることが見て取れた。 今回の視察会では、炭素繊維を使った製品の普及が、今後のものづくりの重要な役割を担う位置付けになるだろうと強く感じた。
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