1. はじめに
富士ゼロックス総合教育研究所は、お客様の経営課題・事業課題に対し人と組織の側面から、コンサルティング活動の実施、事業力・組織力・マネジメント力のアセスメントの診断、各種トレーニングサービス(研修)の企画・運営、さらには実施後の定着フォローなどを通じて、人材の開発支援を行わせていただいている。
教育業界も、他の業界に違わず現在変革を求められ、経営のイノベーションを行っていかなければならない。教育というと、以前は集合教育が中心であったが、最近は現場での実践教育も増えている。また、教育や人材育成に求められる成果も、受講者の行動変容から、最近は業績にいかに直結するかというような実利的なことが求められるようになってきた。さらに、厳しい経済状況で教育予算がどんどん削られていく中で、企業の戦略に直結した、投資的な側面を持つテーマを模索し、教育に結び付けていかなければならない。
2. 大転換時代における価値観の転換と人材の方向性
本日の演題の大転換時代であるが、経営者の皆様方は、最近は特に価値観が大きく転換している時代だということは、身にしみてお分かりだと思う。しかし、大転換といっても何が何でも全てが変わらなければならないということではなく、しっかり足元を見つめて、変わるものと変わらないものを見極めて行くべきであると考えている。
そういう中で、近年グローバル経営に非常に関心が高まってきているが、特に最近はグローバル化というものが対欧米ということのみではなくて、全世界的にもなりあるいはアジア経済圏としてどう対峙するかという意味に大きく変わってきている。成長戦略という表現のみでなく、生き残り戦略、勝ち残り戦略と、その時代に即したいろいろな表現も出てきている。そのため企業活動では、従業員はこれまで同じ価値観で同じ仕事をしていればよかったものが、これからは異なる価値観を受容し新たな仕事をしなければならないという時代になっており、順応型の人材から、変革を先導できる人材が求められるようになってきている。
3. イノベーションの考え方
イノベーションにとって重要なのは何か新しいものを発明や発見するということではなくて、新結合と言って、既存の技術やアイディアといったものを組み合わせ、新たな価値を生み出すことだとも言われている。その一例を述べるが,ゼロックスコーポレーションは、2009年にACSというビジネ スアウトソーシングの会社を買収した。それまで同社の中にも同様な部門があったが、売り上げは全体の15%くらいであった。しかし、この買収によってこの15%が今現在では55%となっている。新しい会社に生まれ変わって、テクノロジーリードの会社がサービスリードの会社に生まれ変わったという注目すべき事例である。
イノベーションを実行していくための人材として、会社の中にあるいろいろな「知」を新しい市場ニーズと新結合させ、組織全体、あるいは組織グループ全体で、ある目標に向かってそれを実現していく必要がある。それをプロデューサー型人材と呼んでいる。人材育成のためには、各企業はそこで働く人たちに共通価値を持たせ、さらに、社員が協働するメカニズムを作らなければならない。
4. イノベーションにおけるマネジメントの重要性
富士ゼロックス総合教育研究所では、いろいろな戦略を実際に現場で実行していくことがイノベーションにつながると考えており、戦略実行力というものをいかに高めるかという事をテーマにお客様に情報提供している。しかし、戦略が現場メンバーに伝わっているにもかかわらず、行動が起こされていないことに悩んでいる事業トップが多く、その要因は、組織構造や制度の仕組み以外に、ミドルマネージャーのマネジメントにも影響力があると考えている。これを打破するためには、部門長は、組織間のネットワークを作り自分達の組織の総力を発揮できるような状況を創り出すとともに、人組織を動かすための人間力というものを身につけることが重要である。逆に課長は、メンバー一人一人を理解し、個々人の力を引き出すとともに、実務能力にたけ、メンバーに信頼されるということが重要である。
5. リーダーシップについて
イノベーションを進めて行く上で、責任の原則、成果の創出、人と仕事への敬意というこの三つがリーダーシップの中で重要である。また、リーダーとして大事なことは、志と覚悟を持つということである。生涯「道」を求め、一貫して貫き通すものが志で、それはイコール覚悟を持つということである。そのためには、まずプロフェッショナルにならなければならない。それは日本語で「玄人」と表現され、その意味は玄い(くらい)所が見える人、である。ところが、一番玄い所で良く分からないのは人の心の中で、その人の気持ちを的確に理解できる人を人間通と言っている。
最後に「徳」についてであるが、日常の中で自己の最善を尽くしきるということが徳につながり、仕事こそが徳をふるえるチャンスである。それによって、感謝の人間関係が作れるので、我々は、人間通と言われる人、あるいは、徳を実践する人を目指すよう、これからを担う若い人たちに伝え、育てて行かなければならない。 |