冒頭、日本福祉大学 黒川専務理事から説明いただいた。
日本福祉大学は、1953年に中部社会事業短期大学として名古屋市昭和区に開学し、入学生83人の熱い想いは現在も1万2千人の在学生に脈々と引き継がれている。建学の精神は、「この悩める時代の苦難に身をもって当たり、大慈悲心 大友愛心を身に負うて社会の革新と進歩のために挺身する志の人を、この大学を中心として輩出させたいのであります。それは単なる学究ではなく、また、自己保身栄達のみに汲々たる気風ではなく、人類愛の精神に燃えて立ち上がる学風が、本大学に満ち溢れたいものであります」。1957年には日本福祉大学に改組し、日本初の四年制社会福祉学部を発足させた。1983年、知多郡美浜町に総合移転し、社会福祉学部をはじめ経済学部、健康科学部、子ども発達学部、国際福祉開発学部及び福祉経営学部(通信制)の六つの学部を置いている。
引き続き、日本福祉大学 学園事業顧問 野村 忠生氏から本題について説明があった。
1.ヘルスケア産業の開発支援
福祉用具及び福祉ビジネスは、産学官等の連携により開発・事業化されている。ユーザのニーズに基づき、企業が開発・事業化を行い、行政が制度・事業を行う中で、当大学は行政や企業に対し、研究や開発支援などを行っている。身体的な障害や身体機能の低下している人専用に開発される「狭義の福祉用具」には、車いす、杖・歩行器、眼鏡、補聴器、段差解消機、ポータブルトイレ等がある。一方、多様な人々の身体・知覚特性に対応しやすい「共用品」としては、点字・凸文字・音声・光などの機能を有したエレベーター、自販機、ATM機、玩具、シャンプーなどがある。「両者に共通するもの」として温水洗浄便座、座席シフト乗用車、低床型バス、ホームエレベーターがある。それら全てを「広義」の福祉用具と定義している。福祉用具(広義)の市場は1993年7千7百億円から2007年4兆3千億円に大幅に伸びている。一方、狭義の福祉用具は、1兆2千億円程度でほぼ横ばいで推移している。また、在宅サービスのための介護保険給付費は、2000年1兆2千億円から2007年3兆1千億円まで急拡大している。
産学官等の連携による開発支援・市場化の事例として、「臥位からの起上り補助装置」があるが、これは和布団用の臥位からの起上り動作を補助する装置で、自分でリモコン操作することで高齢者の自立を促すことができる。本装置は介護保険制度の体位変換器として認定されている。このほか「旅行用軽量携帯型車いす」等もある。また、中国や韓国などの福祉用具の海外販路開拓支援も行っている。こうした福祉用具の開発は、ニーズ把握不足、評価不足、資金不足などの原因により、失敗した事例もある。したがって、今後の福祉用具・生活支援用具への新規参入事業者の留意点は、(1)要支援の高齢者のニーズ把握と自社の得意分野とのマッチングに留意すること、(2)高齢者の長期のライフスタイルを想定したデザイン・使いやすさに留意すること、(3)高齢社会に突入している東南アジア市場を視野に入れて展開を図ること、(4)ユーザ、流通、デザイン関係者を入れて事業化のための開発を行うことである。
2.成功・継続事例の現状―新たな開発支援―
新しいヘルスケアビジネスは、ハード・ソフトの星雲型産業と言えるもので、介護サービス、リハビリサービス、バリアフリー住宅、医療機器、福祉機器、マッサージ、鍼・灸、温泉など多種多様である。政府の産業構造ビジョン2010の方針では、健康関連産業の創出、医薬品・医療機器の研究開発環境改善、医療ツーリズムの受け入れ拡大、子育てサービスの産業化などが挙げられている。産学連携の成功事例には、障害者自立支援機器、人工透析用木製チェアベッド、起立補助椅子、などがある。一方、東海地域の車いす製造業の多くは、介護保険制度施行による市場停滞を考慮し、中国・上海郊外にて生産拠点を設けるなど、海外展開を進めている。
3.中部経済産業局ミッション派遣事業 調査
中部地域の福祉機器産業は集積が厚く、車いす生産では全国シェア8割、福祉車両販売では全国シェア7割を占めている。しかし、日本市場の拡大は望めないこと、東南アジアへの事業展開が本格的に進んでいないこと、中国では高齢者人口1億6千万人を超えていることから、中国政府との懇談会に参加し、中国福祉博覧会の視察も実施した。日中両国の最新動向の説明や日本企業のプレゼンを行い、中国市場への展開方法について中国側からアドバイスを受けた。中国市場での日本企業への期待は、福祉機器企業の現地生産、施設の建設、バリアフリー設計、人材育成、共同研究などであった。
「中国福祉博覧会2010」では、41社の日本企業がジャパンブースもしくは単独出展で参加した。2011年11月の同展には30数社の企業が出展予定で、中国市場への期待と展開方策が検討されている。
4.NEDO事業「我が国の福祉機器企業の中国市場への展開方策に関する情報収集」
平成23年3月の同報告書が作成され、中国の政策・制度、市場ニ−ズ・市場動向、日本の製品に対する評価、中国市場への展開方策などが報告された。
5.その他、中国における地方都市の調査など
北京市、上海市のほか、地方都市の事情との違い等を確認するため、江蘇省江陰市の老年人(高齢者)用品展示センターを訪問し、民生局関係者と懇談を行った。北京市よりも1年早く2009年6月に補助器具センターを開設。北京より早く建設・開設したことを誇示していた。しかし、機器の種類が不足、展示場の運営ノウハウが不足していることが示された。北京では2011年5月に4000平米の展示場が開設されているが、天津市でも同様の展示場建設が進められている。
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