今回の産業懇談会視察会は、名古屋城本丸御殿(名古屋市中区本丸1-1)を見学した。
出席者の皆様にはウェスティンナゴヤキャッスルにお集まりいただき、昼食後、同会場にて各務世話人のご挨拶の後、株式会社間組執行役員名古屋支店長の木下壽昌様より、会社概要、本丸御殿の概要及び工事の進捗状況、現場での見どころについてご講演いただいた。本丸御殿を視察した後は、建設現場内事務所にて奥野始弘様のご講演を拝聴した。
◆名古屋城本丸御殿概要
焼失前の名古屋城本丸御殿は、天守閣のある本丸のほぼ中央に建てられた広さ約3000平米の南向きの建物。建物手前側から玄関、表書院、対面所、上洛殿、黒木書院、御湯殿書院と奥に続いていた。高さは一番高い場所で12.7m、各部屋ごとにテーマが定められ、障壁画等が飾られるなど、非常に華やかで豪華絢爛な建物であった。
本丸御殿は1612年に建設が開始され、1615年に完成した。1945年に戦災で焼失するまでの約330年の間にも何度か増改築が繰り返されてきた。歴史的には、第I期‐創建期、第II期‐寛永期、第III期‐享保期、第IV期‐明治期以降と大きく4つの時期に分けられ、この度の復元は、第II期‐寛永期の本丸御殿復元を目指している。何故なら、寛永期には3代将軍徳川家光が上洛の際に宿泊するため上洛殿が建設されるなど、本丸御殿の歴史の中で一番豪華絢爛で文化的価値、歴史的意義が高いためである。
また、本丸御殿の復元は「ものづくりの技、心、自然環境の大切さ」を後世に伝える一大文化事業と位置付けられている。復元過程を広く一般に公開することで、市民の新たな誇りの創出、名古屋城の価値と魅力の向上、名古屋圏の観光振興活性化、匠の熟練の技を後世に継承するなどの大きな意義もある。
◆本丸御殿視察内容
復元工事は第1期、第2期、第3期に分けられており、各工事終了毎に公開を予定している。
- 第1期−平成25年3月に完成予定(玄関・表書院・中之口部屋など)
- 第2期−平成28年3月に完成予定(対面所・上台所・梅之間など)
- 第3期−平成30年3月に完成予定(上洛殿・黒木書院・御湯殿書院など)
9年半の復元計画のうち、現在は第1期のうち、玄関と大廊下の復元工事中である。また、10月16日〜26日まで、名古屋開府400年に合わせて、玄関部分の工事状況を一般に公開した。
今回の視察では、素屋根内部、工事見学コーナー、木材加工場・原寸場の順に3ヶ所を視察した。
まず、素屋根内部を視察した。素屋根は本丸御殿全体を囲う大きな屋根のことである。一般向けの公開時には、高さ9mの位置に設けられた見学通路から全体を見渡す形となるが、今回は特別に地上から見上げる形で視察を行った。全員ヘルメットを着用し、工事現場内を歩きながら、玄関棟の組み立ての様子を見学し、伝統的な木造の建築方法について学んだ。
続いて、工事見学コーナーを視察した。このコーナーは、工事現場に隣接して設けられている為、窓からその様子を見学することも可能である。また、本丸御殿復元工事に関する説明ボード(障壁画模写の進捗等)や復元に使用されている木材について(木材の種類及びその部位)を学ぶ為に実物も掲示されていた。加えて宮大工が使用する大工道具等も展示されており、大変興味深いコーナーとなっていた。
最後は、木材加工場・原寸場を視察した。こちらも隣接して設けられた通路から木材加工の様子を見ることが出来る。通常は窓ガラス越しの見学となるが、今回は特別に窓を開けていただいた為、ヒノキ材の大変良い香りが通路に立ち込めていた。加工場では、墨付け作業(木材面に加工の基準となる線や記号、符号を付ける)や継手刻み作業(木材の仕口や継手部分に穴を彫ったり、削ったりする加工作業)が行われていた。また、原寸場では、図面で表現しきれない部分を原寸図(縮尺1/1で描いた図面)で作図し、寸法や納まりの確認、実際に加工する為の形状の型取りが行われていた。
今回の視察会では、各自デジタルカメラや携帯電話で記念撮影をしながら、係の方の説明に熱心に耳を傾けている様子が印象的であった。本丸御殿は、現存した昭和初期の109枚の実測図や約200枚の古写真をはじめ、1049面もの障壁画など、豊富な史料が大切に保管されている。歴史的文化遺産である城郭の史料が、これほど多く残されている例は他にはない。これら第一級の史料をもとにした実証的な復元は名古屋城でしか成し得ないプロジェクトである。そのような意味でも、今回の視察では歴史的に貴重な工事現場を視察することができ、大変有意義なものとなった。
視察、奥野様ご講演後の質疑応答も活発に行われ、最後に片桐世話人よりご挨拶をいただき、視察会は閉会となった。
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