1. 通信と放送の融合をどう捉えるのか
通信や放送のサービスや機能は、過去の既存の通信や放送の概念から、新しい技術や新たなニーズの登場で随分と中身が変化してきた。その結果、新しいビジネスの可能性が生まれたことで、それらに関連する産業も大きく変化し、同時にビジネスモデルも変化を遂げたのである。そこで、現実との矛盾や摩擦も生まれ、何かを実行しようとした場合に抵抗勢力となる問題がでてきている。これらの分野は、全てが法律の規制のうえで成り立っているという現実である。現在、法律の規制そのものを変えなくてはならないという状況にあり、廃案となってしまったが、結論としては放送法改正に行き着くのではなかろうか。
2. 通信と放送の間で今起きていること(1) −機能、サービスの革新−
現在、通信のインフラ上で、放送が提供しているような映像のサービスが大量に提供されている。特にインターネットを通して過去の番組やビデオ映像が見られるようになったことが一番大きな変化であろう。すなわち、通信が放送というサービスを侵食し始め、通信と放送の境界が無くなりつつあるのが現状である。では、通信と放送は何が違うのかといえば、放送は電波で信号が送られ、自分の視聴したい電波を選択して視聴するものであるのに対し、通信は通信網を通して、コンテンツを提供しているプロバイダへ自分から線をつなぎにいき、そこからコンテンツを自分の端末に配信してもらい視聴する点にある。しかし、ユーザーにとっては視聴という行為や見え方は双方で大差がないのが現実である。
インターネットを利用した映像配信の動きは、2001年にYahoo!BBが動画のポータルサイトを開始したことに始まり、次々と拡大、加速していった。最初は動画コンテンツの配信に止まっていたが、放送の領域で作られたコンテンツやリアルタイムの映像をネットで 配信しようという動きが進んでいる。通信と放送の融合を促した背景や原動力には、(1)デジタル化により音声や文字、画像、映像が全てデジタル符号化され、同じ通信インフラ上で一律に扱えるようになったこと、(2)インターネットの普及により音声や文字、画像、映像の違いを認識することなく、ネット上のコンテンツとして扱えるようになったこと、(3)FTTH (ファイバー・トゥー・ザ・ホーム/光ファイバー通信)によるデータ通信の高速・大容量化とコストダウンにより、家庭でも安価で利用可能となり、映像コンテンツもリアルタイムで提供が可能になったこと、(4)コンピュータのみならず、インターネットテレビ、スマートフォン、i-Padなど端末が高機能化したこと などが挙げられる。
1992年、来るべくブロードバンド利用サービス創出の取組みとして産学官共同の実験団体である新世代通信網実験協議会(BBCC)が設立され、11年前には既に、家庭情報環境モデルのコンセプトとして、現在実用化が進められているホームサーバーによる家庭内ネットワークの一元管理や生活情報を提供するローカルポータルサービスの構築に加え、ネット上の映像コンテンツのオンデマンド視聴など映像視聴機能の充実を提言したが、実用化に行き着くには様々な障害もあり、技術的には可能であってもビジネス化に至るのには時間がかかっている。
3. 通信と放送の間で今起きていること(2) −産業構造の変革、再編成・法規制の改正−
まず、法律上の通信と放送事業の定義とは、「電気通信」は有線、無線その他の電磁的方法により、符号、音響または映像を送り、伝え、受け取るという通信の手段のことをいう。一方、放送法での「放送」は公衆により直接受信されることを目的とする無線通信の送信であり、送信される情報の制作・編集まで送信者の責任で行うことになっている。この2つは性格的に全く違う定義を持ちつつ、それぞれに事業を行っている。これらを取り巻く問題として、衛星放送事業は通信設備を持たないでサービスを提供するなど、通信と放送の境界が不明確になってきたことや、インターネットでは地上放送番組の同時配信ができないなど、放送事業(放送法)の壁が障害となり、サービスやビジネスの拡大を阻害する状況などが生まれている。
これらの問題の根源は事業毎に区分された縦割りの法規制にあり、今後、望まれる産業構造変革の方向として、縦割の通信、放送事業それぞれのコンテンツ事業、プラットホーム事業、インフラ事業を横割りし、それぞれの事業でルールを決め、自由競争をさせることで、事業分野を更に発展させていくことが重要である。過去、放送事業の法規制改正に向け、平成13年に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部が事業毎の縦割り規制を機能毎の競争促進体系へ転換を提言し、平成18年には現行の通信、放送9法を縦割り体系に整理した「情報通信法」への1本化も提言されたが、平成22年国会に提出された放送法改正(案) は(廃案となってしまったが)、当初の理念からは大幅後退したものとなっていた。今後の通信と放送の融合については、技術の進歩は一層と加速することは間違いないため、横割り構造への転換が急務であり、情報通信法への1本化は避けることはできないであろう。
|