1. はじめに
水曜会の皆様へのスピーチは今日が2回目。1回目は当社の概要を中心にご紹介した。今回は、「VEは我が社の企業文化」をテーマに、私がアイシン開発の社長時代の02年から09年6月までの7年間の全社活動と、社長退任後に特別顧問となってからの5ヵ月間を振り返って、特に印象に残っていることをお話ししたい。本題に入る前に、テーマにあるVEの歴史を述べたい。
2. VE50年の歴史について
VEの創始者は米国GE社のL.D.マイルズ氏で、1947年頃から開発・体系化され、米国で発展した。当初はVAと言っていた。当時は第二次世界大戦後の物不足で、物資調達に困難を極める中、マイルズ氏は「顧客は単に物を求めているのではなく、機能を求めているのだ」。良い製品を安く調達するためには、顧客がその製品にどのような機能を求めているか、研究・実証を重ねて考案した方法論をVAと命名し、GE社で実践し多大な成果を上げた。
一方、当時「いかに少ない予算で膨大な装備を維持するか」が課題であった米国防省は、GE社のVA効果に注目し、1952年にGE社にVA調査団を送り込み、1961年には軍事調達規程にVEの条項を盛り込んだ。1963年にVEと名称変更し、1975年には連邦政府調達局。1988年には大統領府、行政管理予算局、運輸省連邦道路庁がVE適用の法律を制定した。以上のようにVEは米国政府の公共事業を中心に発展し、民間へと拡大していった。
日本へは1960年頃、VAとして導入された。
3. SAVE50周年国際大会に参加して
今年の6月29日から7月の2日まで、世界18カ国から241名が参加して、GMの本社がある米国ミシガン州デトロイト市のマリオット・ルネッサンスセンター・ビル内のホテルで開催された。今年は米国VE協会が1959年に設立されてから50周年を迎えた記念大会であった。大会には日本セッションが設けられ、日本VE協会が日本使節団を結成し、私は団長として参加し、基調講演のスピーチを行った。席上、はからずも私は、米国VE協会のデビッド・ウイルソン会長よりVE最優秀経営者賞の会長賞を受賞し、記念として基調講演の感謝状をいただいた。
私は基調講演「VEは我が社の企業文化」の前段では、長寿企業について述べ、200年以上の歴史がある企業は世界に約5580社あり、日本企業は約3140社で半数以上を占めて第1位。2位がドイツ、3位がオランダ、4位がフランスと続き、米国は14社で2.5%となっている。世界最古の企業は、西暦578年創業の日本の建設会社「金剛組」である。世界最古の旅館も718年創業の日本の旅館「法師」である。和菓子では793年創業の「虎屋黒川」。酒造では1141年創業の「須藤本家」がある。創業100年以上の企業は日本には1万社以上あると言われている。なぜ日本に長寿企業が多いのか。長寿企業に共通している特長の一つは、人づくりに力を注いできたことである。モノづくりでは職人の技能を徒弟制度により伝承してきた。商店では、番頭・丁稚制度があり、弟子の時代から読み書きソロバンなどを習わせた。これら企業内に家族的な人材育成教育の仕組みをつくり、実施してきた結果であり、日本的経営の特長の一つであると思う。
当社も経営するに当り、長寿企業となるように、人づくり、企業体質の強化をはかるためにVEの全社展開により、エクセレントカンパニーをめざしているという内容を述べた。
会場となったGM社は、世界最大の自動車メーカーで米国経済の中心的役割を果たしてきた。栄枯盛衰は世の常とは言え、GM社の破綻は私が十数年前に同社を訪問した時、「百年かけても日本にはこの企業を越す会社は出ない」と感じたことが信じられなかった。人っ子一人いないオフィスビルを眺めながら、複雑な思いの1週間にわたる滞在であった。
4. 入社後の略歴と、当社の業種紹介
英語にExperience is the best teacher「経験は最良の教師である」という格言がある。
私は会社生活で経営に関する多くのことを学んできたが、大きく3つの時代に分かれる。入社後の空手指導員を兼ねた12年間の欧州駐在時代。帰国後の11年間の秘書勤務時代。続いてアイシン精機(株)9年間の役員時代およびアイシン開発(株)での7年間の社長時代、合わせて16年間の役員時代を過ごしてきた。欧州駐在時代は約8年間、会社の仕事より空手の主席指導員(チーフインストラクター)としてフランス、ベルギーを拠点に西欧・東欧などの全ヨーロッパおよび北アフリカなどの各国で空手指導に情熱を賭けた。
VEと深くかかわったアイシン精機(株)の役員時代の1995年から現在までの14年間、中部VE協会支部長を務めている。
当社の業種は、建設関連(建築・土木・緑化・プラントサポート・法人リフォーム)、ファイナンシャル(保険・ファイナンス)、都市開発(土地分譲・戸建・賃貸・個人リフォーム・インテリアプランニング・ビルマンション管理)など広範囲にわたっている。
5. 我が社のVEを導入した全社挙げての経営活動…エクセレントカンパニーをめざして
02年に当社の社長就任と同時に、人づくりに併せて企業体質を強化するために、全社にVEを導入した。全社展開のねらいの一つは、当社の業種が多岐にわたるため、全社共通のVE活動によるエクセレントカンパニーをめざしていく一体感を必要としたからである。
VE導入の環境づくりとして、02年から全社を挙げて取り組んだことは、まず躾の基本である元気よく挨拶を交わす「挨拶運動」。個人の能力アップ・自己啓発の「人事改革」。リーダーを育成する「組織改革」。04年には思考の共有化をはかり企業市民育成するため、「経営理念の刷新」を行うなど、次々に全社を挙げての活動により企業運営を行ってきた。これらの活動の中で、当社独自の取り組みは、人材育成では、人材を育てる最高の場として昇格試験を位置づけている。また組織改革では事業領域を明確化して事業規模を決めるため、点から線、線から面へと組織を編成し、経営資源の最適化をはかり、利益責任および権限責任の明確化をはかってきた。
経営理念の刷新では、創立以来掲げてきた「品質至上」の基本理念を社員によりよく理解してもらうと共に、当社の業種にとって重要である「安全第一を使命と定め」を文言に加え、併せてVE5原則を盛り込み、明文化した。また業務遂行時の行動指針としてスローガン「たゆまぬ仕事への『情熱』と、自己の成長のための『能力』を高め、社会に恥じない行動規範を旨とし、ビジネスに果敢に挑戦」を掲げた。この経営理念は、すべての全社行事の始めに参加者全員で唱和することを慣例化している。
VEの全社活動は、3年ごとにチャレンジ目標を定めている。05年には、全社活動で「VE活動優秀賞」を受賞。08年には、VEの最高峰「マイルズ賞」に挑戦し受賞した。
一方、個人のVE育成として、日本VE協会のVE資格取得を奨励している。VEL(VEリーダー)の全社員取得を目標に掲げている。VEL取得は社長就任時の02年には6名であったが、今年の10月現在では295名と全社の80%強が資格を保有している。
前述のように、我が社はVE活動により、人づくりと「思考の共有化」をはかってきた。
VEは我が社の企業文化であり、今後もエクセレントカンパニーをめざして全社を挙げての経営を展開していく。
<ご参考>
VEの基本…「VE技法」と「VE5原則」
VE適用に当っては、次のような技法と5原則がある。
VE技法は、(1)目標と手段が明確。何のために(目的)、もっといい方法はないか(手段)、(2)資格制度が確立されており、人材育成に有効である。
また、活動を展開するにあたっては、VE活動の基本である「VE5原則」を活用すること。
<VE5原則>
- 使用者優先の原則
- 機能本位の原則
- 創造による変更の原則
- チーム・デザインの原則
- 価値向上の原則
|