【5年4月度 産業懇談会(木曜G)模様】

テーマ: 『 金型屋が型を破るまで 』

  • 日  時:令和5年4月6日(木) 12時30分~14時30分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 桂の間
  • 参加者:26名

スピーカー:

写真:迫田 幸博氏
迫田 幸博(さこだ ゆきひろ)
株式会社エムエス製作所
取締役会長
写真:迫田 邦裕氏
迫田 邦裕(さこだ くにひろ)
株式会社エムエス製作所
取締役社長

金型屋の現状(迫田幸博氏)

 今日の金型業界はピーク時の約半数となる6,000社前後の企業に支えられており、その7割が従業員10名以下の零細企業である。金型がなければ自動車は生産できず、金型屋の供給先の7割は自動車産業である。しかし、EV市場が拡大する今、厳しい状況に直面しており、これまでの下請けという立場に甘んじることなく、自ら発信していく必要性を感じている。この現状をご理解いただいたうえで、これからの話をお聞きいただきたい。

自己紹介(以下、迫田邦裕氏)

 大分県別府市在住の44歳。3児の父。幼少期から業界の厳しさを感じて医者の道に入ったが、2020年10月に家業の金型屋の3代目社長に就任。現在は、大分県国東市の病院で市内唯一のカテーテル術者として週2日勤務し、株式会社エムエス製作所に週3日勤務。東京医科大学循環器内科の兼任講師、清須市観光協会理事も務める。

会社概要

 当社は1971年に祖父が創業。本社は愛知県清須市、海外6ヵ国へ進出し従業員は約120名。事業内容は、ゴム成形金型の設計・製造。主に自動車向けウェザーストリップ(遮音・防振用)のゴム製造金型を製造している。また、日本一高いゴルフクラブや日本で唯一の鐙(あぶみ)製造など新たなチャレンジを行っている。

両利きの経営

 VUCAと言われる先が見えない不安が増している中、両利きの経営により、既存事業の収益拡大のための「深化」と新しいビジネス機会の「探索」を行う企業こそが生き残れる。
 情報が錯綜しており何が正しいのか分からない世の中で、3月のWBCでの大谷選手の活躍は日本を元気づけた。キーワードはこれまでの当たり前を変えた「二刀流」である。宮本武蔵の言葉を借りれば、「一命を捨つる時は、道具を残さず役にたてたきもの也」(命を捨てる時には使える武具を残さず役に立てたいもの。)である。

個人の二刀流~医師と町工場の社長の二刀流~

 15年間大学病院で勤務し、心臓カテーテルの手術に従事してきたが、狭い分野の深堀りであり、閉塞感を感じていた。また、長男が誕生し男親の気持ちを理解できるようになり、当時感じていた迷いや閉塞感を突き破るために「まずはやってみる!」という好奇心で医師と町工場の社長の二刀流を始めた。周囲からは「どうして2つのことをするのか?」「一つに集中しろ。」など様々な声が聞こえてきたが、始めてみると想像とは違った景色を見ることができた。製造業は医師と比べて仕組みやシステムが確立されており、チームとして戦う魅力的な業界であったが、世間からはまだまだ評価されておらず、製造業の素晴らしさを伝えていきたいと感じた。また、医師も職人であり、2S(整理・整頓)やチームワークが必要なことは製造業に近しいところがあった。
 金型の魅力を伝えるために、漫画やホームページの作成、展示室やキャラクター制作など様々な取り組みを行ったが、成果はなく、モノに魅力がなければ人は集まらないことを実感した。
 二刀流は周りの方に理解してもらうことが重要である。そのためには、二つの仕事をしっかりこなし実績を残すことが周りからの信頼につながると感じ、中途半端な仕事にならないよう濃度を濃くして取り組んだ。また、二拠点で仕事をする際に情報共有を意識し、社長である私の360度評価を全社員が行い、情報発信と周りを巻き込むことを心掛けた。
 二刀流のメリットは一本の武器では、「深化」に留まってしまうところを「探索」にまで広げられるところである。掛け算ができたからこそ平凡な医者や経営者で終わることはなかったと感じている。

町工場の二刀流~新規事業・新商品開発~

 自動車業界は100年に一度の大変革期であり、自動車の金型だけで大丈夫かとの懸念があった。そこで「鉄を削る」技術を活かして、新たな商品開発に動いた。これまでのゴルフクラブは型に鉄を流し込む製法であったが、この製法では均一なモノは作れない。そこで削り出しにより真っ平らで打感の良いゴルフクラブ(MUQU)を製造した。スコッティキャメロンと同じ製法である。製品案が具体化した時点ではデザインやパッケージなど課題は山積みであったが、共感してくれる仲間と技能を結集し製品化できた。プロダクトアウト型の開発であったため、アイアン6本セットで216万円であり、顧客のニーズに基づいた商品ではなかったが、反響は大きくゴルフ好きの武豊騎手にアンバサダーを引き受けて頂くことができた。この後も武豊騎手のご要望から製品化した競馬で使用する鐙(あぶみ)を製造し、顧客に喜ばれる製品作りが重要であることを実感した。その後、コロナ禍で自動車業界が低迷する中、クラウドファンディングによるアウトドア商品の開発や医療業界のニーズに合わせて、共用のパソコンの感染対策製品や超音波医師の被爆を防止する防護板の商品開発を行った。
 町工場の二刀流で意識したことは、少人数で具体化すること、人が離れていかないよう失敗しない(見えないよう失敗する)こと、情報発信を行い、周囲を安心させることである。
 新事業の売上規模は全体の5%程度であるが、こうしたチャレンジを通して、自社技術の再認識により自信がつき、チャレンジ精神が芽生え、下請け企業から開発・提案型企業への組織風土の変化を実感できた。

まとめ

 個人の二刀流は受け身ではなく自ら動くこと、町工場の二刀流は、下請けではなく顧客のニーズに対して自ら開発することが重要である。本業(型)があってこそ型を破り、独自の新しいものを生み出すイノベーションが生まれる。「守破離」の考え方である。

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【5年4月度 産業懇談会(火曜G)模様】

テーマ: 『 コロナ禍での中小企業生き残り支援~事業再生の現場から 』

  • 日  時:令和5年4月11日(火) 12時30分~14時30分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 桂の間
  • 参加者:34名
スピーカー:
青木 陽(あおき あきら)
株式会社事業パートナー東海
代表取締役
写真:青木 陽氏

自己紹介

 茨城県水戸市出身、一橋大学商学部を卒業後、東海銀行に入行し、本部で、金融商品の開発やATMの企画などを行う。2003年にトヨタファイナンスに入社し、トヨタファイナンシャルサービスに出向し、大手商社との合弁会社を設立し、副社長として電子決済事業に携わるが、心臓病を患い退職。これまでの経験を活かすために中小企業診断士を取得し、事業再生に関する研修会を契機に、2021年より、現在の(株)事業パートナー東海に参画。趣味は、ドラム。

会社概要

 2017年11月に名古屋市熱田区に設立、パートナーは30名(関係会社含め100名)。事業パートナー東海以外にも関係会社が3社。中小企業診断士が多く所属し、中小企業の事業再生(資金繰り改善・経営改善・売上、利益の向上)を行っている。

事業再生とは

 大企業であれば、影響力の大きさから経営に行き詰まった時に、多くの支援を受けられることが多いが、中小企業の場合は、経済的な問題もあり限られた支援しか受けられないことが多い。
 再生方法には外科的な手法と内科的な手法の2つの手法がある。外科的な手法は、事業価値を算定し、短期間で「切り貼り」(具体的には、事業譲渡、DES、DDS、債務放棄)を行い、B/S(貸借対照表)の改善に効果がある方法である。一方の内科的な手法は、事業性を評価し、一定期間、金融機関への借入金の返済を止めるよう調整し、時間をかけて体力回復に努める手法であり、企業の中身を見て企業に合った改善策を提案し、P/L(損益計算書)を改善する。内科的な手法を優先し、個別相談からスタートし仮説をたて、事業デューデリジェンスを行う。2、3カ月で報告書をまとめ、報告書の方針に沿って3年間を目処に支援し出口まで伴走する。コロナ禍を機にオンラインミーティングやビジネスチャットが普及し、調査手法が大きく変わった。現地へ赴かなくても、日本全国のお客様とコミュニケーションを取ることができ、立てた仮説が正しいかどうかの議論を毎週行うことで一気通貫した報告書を作成できるようになった。

 事業再生の出口は、次の5つである。

  1. 事業性がある場合は、事業再生
  2. 社長が高齢の場合は、事業承継
  3. 事業性があるが負債が過大で返済が困難である場合は、第二会社方式
    (金融機関の理解が必要であるため、地域の産業が無くなる場合などに限られる。)
  4. 買い手にとって魅力ある不動産、動産、技術、人材がある場合や、将来の利益が見込め事業性がある場合は、売却
  5. 事業性が不確定で十分な資金がなく、後継者がいない場合は、廃業

老舗和菓子店(銀行と強調したケース)

 老舗和菓子店が、メインバンクの勧めで赤字の菓子販売会社を買収したが、買収後にコロナ禍となり、赤字に陥り債務超過となった。銀行紹介のコンサルは、計画作りに長けているが、青写真が描けておらず、買収効果が得られなかった。
 当社は、10名のチームを組成しヒアリングを行い、3カ月で500頁に及ぶ報告書を作成し、関係者を集め報告会を開催した。その一方でメインバンクにも説明を行い、銀行の調査役とやり取りを繰り返し、詳細な数値計画を作成できた。現在伴走支援中であり、月2回の訪問とチャットでのやり取りを随時行っている。
 最初の1年は即効性のある収益改善(不採算店舗の廃止、商品の値上げ、材料費の削減など)を行い、店舗単位での粗利益を把握できるようにしたことで店舗ごとの競争も生まれた。また、3年間に亘り、製造現場の改善と買収した子会社工場への統合を行っている。手狭な本社工場は観光向けの商品製造に特化し、統合により生産能力が向上した子会社工場はOEMも受注している。

不動産賃貸業(銀行と対峙したケース)

 地方の主要都市で6棟の不動産賃貸物件を所有している。古くなり人気のない物件をリノベーションにより人気物件に変え満室状態であったが、銀行借り入れの返済に窮し、返済のための借入れを行っている。
 通常、鉄筋コンクリートの賃貸物件の耐用年数は、47年であるが、地方の銀行の返済期間は10年となっており、返済過多であった。また取引銀行も複数に分かれ、一つの銀行では対応策がわからない状況であった。半年間話し合いを行ったが、進展が見込めなかったため、金融庁へ電話相談したところ、銀行側が歩み寄り、合理的な話し合いができるようになった。現在、同社は、米国で文具や中古一眼レフの販売事業等も開始し、今後実施する施策については意向表明する形で着地に向けて動いている。

最後に

 事業再生は、早期であるほど、選択肢が豊富であるため、早めの相談が重要である。

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【5年4月度 産業懇談会(水曜第2G)模様】

テーマ: 『 新規アイデアを採用し過ぎているIT企業の失敗と成功 』

  • 日  時:令和5年4月12日(水) 12時30分~14時30分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 桂の間
  • 参加者:27名
スピーカー:
青野 豪男(あおの たけし)
株式会社エーオー
代表取締役
写真:青野 豪男氏

私の生い立ちから会社設立まで

 1974年に大阪で生まれ、体育会系ながらも愛情深い家庭に育った。幼いころから正義や歴史が好きで、勧善懲悪のドラマや特撮もの、そして三国志に大きな影響を受けてきた。
 小中学生の頃の私は、学校ではお笑い担当、運動は苦手だったが勉強はよくできて、努力しなくても良い成績をとれていた。しかし、その自惚れから大学受験に失敗してしまう。一度は浪人して進学を志したが、2、3か月後にはお金を稼ぎたくなり、フリーターとなってアルバイトを始め、21歳でサラリーマンとなった。最初に勤めた石材屋では、内向的な性格を矯正したくて営業職に就いたが、上手く成績を伸ばすことができずに退職してしまった。その後、パソコンの販売店に入社して、パソコンの出張サポートに従事した。幸いこの会社では評価を得て、社長から「名古屋にはまだ同様のサービス取り扱う会社がなく、得意先にニーズもあるようなので会社をつくってみては」との助言があり、名古屋に来た。
 2000年に株式会社エーオーを設立。設立当初から客先を獲得できていた事は幸運だった。ただ、それまで経営やマネジメントを全く学んでこなかったことに、今となっては後悔している。当時の私は自分の思い通りに事を進めたい質で、人の意見に耳を傾けることができなかった。しかし、数年後には誰かに叱られないと私はダメになるという不安を抱えるようになり、中小企業経営者の会に参加した。そこで、先輩方からパソコンの出張サポートには将来性がないとの指摘を受け、プログラム開発、インフラ構築(保守・運用)を主要事業として舵を切ることになった。

何のために経営を?

 会社設立当初は承認欲求やお金のために経営をしており、「社員は自分の野心を遂げるための駒」と明言していた。今思い返すとよくこんな社長についてきてくれたと思う。なかでも、今の副社長は当時から誠心誠意、会社のために粉骨砕身してくれていた。その姿を見て恥ずかしく思い、先輩経営者に相談したところ、お叱りを受けながらも、少年期からの「正義の使者になりたい」という思いを会社で実現させればよいという助言をいただいた。それを現実に落とし込んだのが「社員、家族、社会の為」という考え方であり、「日本男子としてこの世に良い事をして死にたい」という決意である。
 ここで私の座右の銘をご紹介したい。一つは「怒るまい、全ては天の声なのだ」である。先輩方からの耳が痛い教えは、天がその方の口を借りて教えてくれていると思い、しっかりと耳を傾けるよう自分を戒めている。もう一つは「愛は動詞」である。英単語のLOVEは動詞であり、見返りを求めずに何かを人のためにしてあげる行動を指す。見返りの有無にかかわらず、行った事自体に満足しようと努めている。会社においては、「気高きを育み醜きを受け入れる」ということを心掛けている。志を同じくして共に進める社員もいれば、そうはいかない場合もある。自分の意に反する事があっても、「受け入れる」という術が必要だ。また、「会社はマグロ」であり、泳ぎ続けないと死んでしまうマグロと同様、新しい風を吹き込み続けなければという思いを常に持って、多くの新しい取り組みをしている。

社内で採用してきた工夫の数々

 当社が行ってきた工夫をいくつか紹介したい。まず、社員の希望があれば社長が食事を奢る「社長たかり制度」がある。これは社内コミュニケーションの向上を目的としている。上層部の思いは案外伝わっていない。目をかけている社員にこそ、この場も利用して繰り返し思いを伝えて社員の定着を図っている。
 次に「社長ゴチ制度」がある。わずかでも当社に入社の可能性がある人と食事をした時に一人5千円を上限に負担するものだ。信頼できる部下の友達は信頼できる人が多く、離職率も低い。また、求人コスト削減にも繋がるので、より一層社内で定着させていきたい。
 求人応募者へのイメージ戦略のためにYouTuberもやっている。20代から40代の技術職志望者がターゲットだ。印象の良い優しい話し方を勉強するためにボイストレーニングも受けた。動画では綺麗ごとばかりでなく、自分の意思は明確に伝えるよう覚悟して話をしている。一方で、若者に照準を合わせて、大衆に都合の悪い話、経営者の肩を持ちすぎる話、老害っぽい話はしないよう心掛けている。YouTubeによりイメージアップの効果は出ているが、費用対効果を考えると他のアプローチもあるのではないかと思う。
 人付き合い有課(1課)、無課(2課)という社員の気質によるカテゴライズも実施している。プログラマー志望で入社した社員のうち、コミュニケーションを大切にして働きたい人とコミュニケーションは最小限に留めて働きたい人の両者が気持ちよく働くための取り組みだ。これは社員のアイデアで、短中期的にみると従業員満足度は向上している。一方で長期的にみると2課の離職率が高いことは否めず、劇的な改善が望める策ではない。しかし、やらないよりはやった方がよいと感じている。
 プログラマーといえども、将来的にヒューマンスキルは欠かせない。そこで、当社では読書会を10年以上続けている。月に1回土曜日の午前中を使って、自己啓発やヒューマンスキル関係の本を輪読し、その所感を発表する。また、参加者それぞれが、本に書かれたスキルを持っているか否かを互いに評価するゲームを実施しており、仲間からの客観評価により自らを知る良い機会となっている。これにより社員が社外の方から高い評価をいただくことが多くなったと手応えを感じている。
 このように新たなアイデアを積極的に採用することにより社員の提案意欲が向上し、変化を受け入れられる企業体質になった。また、新たな取り組みに意欲的に挑戦する企業として、他社や社員の家族から好印象を持っていただいている。今回ご紹介した取り組みは、どの企業にも一律に採用していただけるものではない。また、メリットもあればデメリットもある。しかしいずれの取り組みも、当社では大なり小なり成果が出ている。何かしらのご参考になれば幸いである。

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【5年4月度 産業懇談会(水曜第1G)模様】

テーマ: 『 「カゴメ株式会社新本社ビル」見学会 』

  • 日  時:令和5年4月19日(水) 11時30分~14時30分
  • 場  所:カゴメ株式会社 新社屋
  • 参加者:20名

スピーカー:

遠藤 正人(えんどう まさと)
カゴメ株式会社 名古屋支店 営業一部長

田口 敬子(たぐち けいこ)
カゴメ株式会社 名古屋支店 営業一部主任

松井 理絵(まつい りえ)
カゴメ株式会社 名古屋支店 営業推進グループ主任フードプランナー

知られていないカゴメの一面とこれからのカゴメ(遠藤正人氏)

写真:遠藤 正人氏

 カゴメの創業は1899年であり、これは創業者、蟹江一太郎氏が当時では珍しかった西洋野菜であるトマトの栽培を手掛け、最初の発芽を見た年である。その後、1903年より現在のトマトピューレに相当する商品の生産を開始した。当時、収穫したトマトを運ぶために使った籠の文様(六芒星)がカゴメ印となっており、新社屋の天井や外壁にもデザインされている。1963年には社名をカゴメ株式会社に改称し、トマトジュース等の製造販売を強化した。当時はちょうど健康食品ブームということもあり、トマトジュースの売り上げが急拡大した年でもあった。
 当社は感謝、自然、開かれた企業を企業理念とし、「自然を、おいしく、楽しくKAGOME」をブランドステートメントとしている。2022年度には海外を含めたグループで約2,000億円を売り上げ、従業員は2,800名の規模である。また、国内で消費される緑黄色野菜333万トンのうち、18.5%を供給しており、これが社員の誇りとなっている。一般的にカゴメと言えばソースやケチャップと認知されているが、売上の3分の1以上は飲料事業で、年々構成比が高まっている。また、海外の売上も増加しており、売り上げの1/4以上が国際事業によるものだ。
 農産物を原料としているため、畑を第1の工場として大切にしている。種子開発から商品の製造販売までを一貫して手掛けて健康・長寿に貢献する企業は全国でも珍しく、この点も我々のプライドとなっている。
 今、日本人の健康をはかるうえで野菜不足がクローズアップされている。日本人の野菜接種量は厚生労働省が定める目標の350g/日に平均して60グラム達していない。そこで山口社長の号令のもと、「野菜をとろうキャンペーン」を他社と一緒に進めている。また、健康をさらに高めるため、近年は従来のモノを販売するビジネスに留まらず、健康セミナーやベジチェックなどの所謂「コトビジネス」にも注力している。
 一方で、ステークホルダーを重視しており、株主にはカゴメファンであっていただきたいと考えている。2001年にはファン株主10万人構想を掲げ、個人投資家との対話を継続してきた。結果として2022年末時点では、約20万人の株主に支えられており、そのうち99.5%が個人株主となっている。
 このカゴメビルはコロナ前に建て替えを決め、計画通りに完成した。ただビルを建て替えるだけではなく、野菜と暮らす楽しさの情報発信・体験拠点としたいという思いから、今皆さんがいらっしゃるキッチンファームを作ったり、働きやすい環境にしたいという思いから、フリーアドレスを採用したり、木や緑を多く配置したりした。

「なるほど健康講座~野菜と健康~」(管理栄養士フードプランナー:松井理絵氏)

写真:松井 理絵氏

 健康寿命とは、心身ともに自立して健康的に生活できる期間の事をいう。健康寿命と平均寿命の差は、男性で約8年、女性で約12年もある。そこで厚生労働省は、健康寿命を延ばすためのアクションプランとして、運動、禁煙、野菜の摂取、定期的な健康チェックの4つを呼びかけている。本日は野菜の摂取についてお話しする。成人に推奨される1日の野菜摂取目標350gは皆さんが想像されるよりも多い。県別の野菜摂取量では、長野県の男性が唯一350gを越えており最も多い。一方、愛知県の男性が最下位で圧倒的に低い。愛知県の女性も最下位ではないが低い。こうした状況の中、どの程度野菜の摂取ができているかを測定するため、カゴメはドイツの企業と共同し、ベジチェックという装置を開発した。手のひらをセンサーにかざすと、皮膚に含まれるカロテノイドからおよそ過去1ヶ月間の野菜の摂取レベルを12段階で測定することができる。
 野菜の摂取が必要な理由は、生命を維持するために必要なビタミンミネラルの供給源であることと病気を予防するための抗酸化ビタミンやカルシウム、食物繊維が豊富に含まれていることだ。野菜には、今の健康と将来の健康を守ってくれる力がある。
 ベジチェックをすると、予想より低い結果が出ることが多い。その原因の1つは目標の350gを少なく見積もっていることである。野菜をより多く摂ることを意識していただきたい。また緑黄色野菜ではなく淡色野菜を多く摂っていることも挙げられる。淡色野菜に比べ緑黄色野菜にはβカロテンや抗酸化ビタミンが多く含まれる。それぞれバランスよくとることが重要だ。また野菜は生で食べるのが一番と思っていることも一因である。野菜には調理した方が、吸収率が上がる栄養素もある。さらに、飲酒や喫煙等によってカロテノイドが減ってしまうことも原因となる。このような生活習慣をやめられない場合は、より多くの野菜が必要となる。
 ではどうすれば賢く野菜を摂ることができるのか。ポイントは加熱調理と加工品の利用にある。野菜の栄養素は固い細胞壁に包まれている。加熱や加工によりその細胞壁が破砕され、栄養素の吸収率を効率的に高めることができる。また、オイルと一緒に摂取することでもβカロテンの吸収率が向上する。
 最後に、米やパン、肉や魚、野菜をバランスよく食べることが健康寿命にとって重要である。これを機に、最も不足しがちな野菜を意識して食べていただきたい。

館内見学および設備体験(田口敬子氏、松井理絵氏)

 執務スペースはフリーアドレスとなっており、社員は出社時に野菜ジュースを無料で飲むことができるようになっている。フリーゾーンでは、昼食、休憩、ミーティングと自由に活用できるようになっている。会議室も野菜の色の名前がついた自然を感じる会議室だ。壁の取り外しが可能で人数の変化に柔軟に対応できる。各フロアとも工夫が凝らされており、社員と社員の健康に優しくなっている。
 ベジチェックでは、予想外の結果に驚く場面もあり、生活習慣見直しの必要性を強く感じた。また、VR体験では、諏訪の野菜生活ファームの工場や畑をバーチャルに楽しむ事ができた。

写真:ベジチェックの様子
集合写真
写真:VR体験の様子

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【新会員自己紹介】

写真:筧 惠理氏
火曜グループ
筧 惠理(かけひ えり)
株式会社Beスタッフィング
代表取締役

【株式会社Beスタッフィング】
〒450-0002 名古屋市中村区名駅二丁目36番10号 松岡第2ビル7階
URL:https://be-staffing.co.jp/

 中部経済同友会に入会して3年になりますが、このたび初めて産業懇談会に入会させて いただく事になりました。
 弊社は今年で11年目となりますが、現在は愛知の企業様を中心に企業研修、メンタルヘルス・ハラスメント対策、外部相談窓口、人事コンサルなどのサービスを提供しております。
 初めは人材派遣・紹介の事業をしていましたが、だんだん業態が変わり、今では人材採用関連からは撤退し、研修メインの会社となりました。
 経営者である自分の、質の高いサービスを提供したいという想いを実現できたのが、起業した最初の事業ではなく、少しずつ育てていった今の事業だったと思います。
 おかげさまで社員10名に満たない会社ですが、数百名、数千名の社員数をお持ちの企業様が弊社のサービスをご利用いただくようになり、社員の皆もやりがいを持って仕事に携わってくれているように見受けられます。
 起業した2~3年は売り上げも社員の定着も全然うまくいきませんでしたが、それを乗り越えての今があると思っています。まさしく苦難は幸福の門です。

 弊社の研修では、心理的安全性をテーマにしたマインド系の内容も数多く提供しています。
 常にモチベーション高く、常に明るく、常に人に思いやりをもって行動できる社員を育てる事が、生産性の高い組織作りに直結します。その環境を作る為の様々な施策を企業様に合わせてオリジナルでご提案し続けたいと思っています。

 話は変わりますが、趣味はロードバイクや合唱です。ゴルフは何歳までも出来ると思いますが、ロードバイクは何歳まで出来るか不安です。でも70歳で電動アシスト付きロードバイクに乗っている人がいるので、少なくともあと10年は頑張りたいと思います。
 合唱は第九を中心に少しずつ歌っていますが、いつか時間がとれればもっと本格的に携わりたいと思っています。お酒は毎日飲んでいます(笑)

 今後ともよろしくお願いいたします。

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写真:鳥居 久展氏
火曜グループ
鳥居 久展(とりい ひさのり)
株式会社日立ハイテク
中部支店長

【株式会社日立ハイテク 中部支店】
〒460-0003 名古屋市中区錦2-13-19瀧定ビル4階
TEL:080-8420-4788
FAX:052-219-1866
URL:http://www.hitachi-hightech.com/jp/

 (株)日立ハイテク 鳥居と申します。
この度、前任福田の後任として、産業懇談会火曜グループに参加させて頂くことになりました。宜しくお願い申し上げます。
 弊社は、「ハイテクプロセスをシンプルに」という企業ビジョンを掲げ、「私たちは、最先端分野でのお客様の飛躍と成長をお手伝いします」をミッションとして、ナノテクノロジーソリューション、アナリティカルソリューション、バリューチェーンソリューション、コアテクノロジーソリューションの4つのセグメントにおいてグローバルに事業を展開しております。
 私たちの強みである「見る・測る・分析する(計測・分析・解析)」というコア技術は、さまざまな社会課題を解決できる可能性を秘めております。
 デジタル技術を最大限に活用し、社会やお客様のニーズ、課題にしっかりと目を向け、「既存事業の強化」「新事業の創生」による新たな価値を生み出し、「見る・測る・分析する」力で、ここ中部エリアでは、自動車関連を中心に電子顕微鏡や自動車部品組付け装置/検査装置、自動車用各種センサーなどをご提供する一方、医療機関向けには血液検査で使用される生化学自動分析装置など多く納めさせて頂いており、今後も、お客様の課題解決に貢献すべく対応して参ります。

 私事になりますが、入社以来、関西、東京と国内を中心に勤務しており、この度初めて名古屋に参りました。自動車産業を中心とした強い製造業と最先端の大学研究機関のアカデミアが融合している中部エリアは、日本の産業を牽引していく活気ある地域と感じております。
 今後、産業懇談会を通じて様々な異業種の方々との交流、また、自然や文化に恵まれた素晴らしい地域でもあるため、趣味のゴルフ、釣り、旅行などこれから楽しみにおります。
 何卒、ご指導ご鞭撻を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

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写真:小松 美仁氏
水曜第1グループ
小松 美仁(こまつ よしひと)
株式会社りそな銀行
名古屋営業本部長

【株式会社りそな銀行 名古屋支店】
〒460-0003 名古屋市中区錦二丁目14番19号
TEL:052-201-8511
URL:http://www.resona-gr.co.jp/

 株式会社りそな銀行名古屋営業本部の小松でございます。
 傘下の赤門通支店は、大正11年10月に旧日本貯蓄銀行本店として開設され、昨年10月に100周年を迎えさせていただきました。
 次の100年に向け、営業本部一同、地域やお客さまのために一生懸命汗をかいていく所存でございます。引き続き、よろしくお願いいたします。

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写真:河原 秀聡氏
水曜第2グループ
河原 秀聡(かわら ひであき)
株式会社大本組 名古屋支店
支店長

【株式会社大本組 名古屋支店】
〒464-0067 名古屋市千種区池下一丁目十番八号 リベルテ池下2階
URL:https://www.ohmoto.co.jp

 出身地は福井県福井市です。1983年に入社以来、約14年間の工事現場勤務と3年間の農業土木関係の調査研究財団法人への出向を経て、営業部門に約23年間勤務し現在に至っています。
 当社は今年で創業116年目となる建設会社で建築部門と土木部門があるいわゆるゼネコンです。建築部門ではショッピングモールや物流倉庫、病院、オフィスビル、工場等をまた土木部門では橋梁下部工やトンネル、下水道、鉄道、農業土木工事、港湾工事、宅地造成工事等多くの種類の工事施工を手掛けております。
 昨今は当社も世の少子高齢化の波の中で慢性的な技術者不足に悩まされており、省人化施工、効率化施工にも取り組んでおります。本会へ入会し他の企業様との交流の中で解決のアイデアや糸口のお話が伺えればと思っております。
 どうぞよろしくお願いいたします。

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写真:伊藤 日香理氏
木曜グループ
伊藤 日香理(いとう ひかり)
伊藤建設工業株式会社
常務取締役

【伊藤建設工業株式会社】
〒455-0044 名古屋市港区築三町3丁目1番地
URL:https://itken.co.jp

■会社紹介
 創業1927年の総合建設会社です。
建築・土木・プラントと3部門あり、民間企業様の事務所・社員寮等の新築・解体・修繕一式工事や機械器具設置・修理・火力発電所の保守工事等をメインに請負しております。
 取引先様から4年前に60年間無事故・無災害で表彰をいただき、現在も継続中です。
 先代達が築き上げてきた真摯に仕事をする姿勢を受け継ぎ、創業100周年に向け邁進していく所存です。

■自己紹介

 この度、木曜グループに入会させていただきました伊藤建設工業(株)の伊藤日香理と申します。
 大学卒業後、金融会社に就職したのち8年前に家業へ入社。
 趣味はゴルフです…。今年は万年初心者から脱却するべく、シュミレーションゴルフに通い始めました。仕事では天候や気温に悩まされますが、趣味ではマイペースに通っています。

 中部経済同友会に加えていただき、皆様と交流し学ばせていただきたいと考えております。
 今後ともご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します。

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写真:山谷 一徳氏
木曜グループ
山谷 一徳(やまたに かずのり)
三菱オートリース株式会社
執行役員 中部営業本部長

【三菱オートリース株式会社】
〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-22-24名古屋桜通ビル2F
URL:https://www.mitsubishi-autolease.com

 この四月から三菱オートリースに参りました。
 名古屋での生活は前職の三菱HCキャピタルから通算して5年目に入ります。
 オートリースでは今、EV車導入をフルサポートでお手伝いしています。
 お客様の脱炭素の取り組みにお役に立てる様、(1)排出量測定・算出→(2)ガソリン車のデータを元にCO2削減シミュレーション→(3)EV社・充電環境の選定・導入→エネルギーマネジメントまで一気通貫で行います。またこれから検討されるお客様にはEVデモカーを最大7日間まで無料体験も可能です!さらに大きな効果をお求めの方にはグループ会社の三菱HCキャピタルと協業提案の組み合わせ等もご検討出来ます。
 せっかくのご縁なので酒席・ゴルフはもちろん、皆様のお困りごとのお役に立てる様に頑張ります。

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【6月度産業懇談会のご案内】

 6月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 6月度例会より開催時間を12:00~14:00、定員を40名に変更いたします。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 会合にご参加いただける際は、手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

6月13日(火)
12:00~14:00

『NSK(名古屋ステーション開発)10大ニュースについて』
名古屋ステーション開発株式会社
取締役社長 河野 俊輔 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

6月21日(水)
12:00~14:00

『「他人の喜びを我が喜びとせよ」をモットーに中部産業界の発展に貢献し続ける中産連
Value Partner for Your Vision~選ばれる存在に~』
一般社団法人中部産業連盟
専務理事 小坂 信之 氏

名古屋観光
ホテル
3階 楠の間

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

6月14日(水)
12:00~14:00

『物流の24年問題』
日本貨物鉄道株式会社
執行役員 東海支社長 花岡 俊樹 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

6月1日(木)
12:00~14:00

『ANA コロナ禍 1000日の取り組み』
全日本空輸株式会社
名古屋支店長 江島 まゆみ 氏

名古屋観光
ホテル
2階 曙西の間

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【7月度産業懇談会のご案内】

 7月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 定員は引き続き、先着40名を目安に運営します。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 会合にご参加いただける際は、手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

7月11日(火)
12:00~14:00

『どうした家康~サザエさんちの御用聞きサブちゃんのお店はなぜ三河屋か?』
山眞産業株式会社花びら舎
代表取締役 平出 眞 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

7月19日(水)
12:00~14:00

『こども家庭庁と少子化対策の今後のゆくえ』
参議院議員
自見 英子 氏

若宮の杜
迎賓館
1階 橘の間

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

7月12日(水)
12:00~14:00

『名古屋観光ホテルの伝統とエスパシオエンタープライズ革新への挑戦』
エスパシオエンタープライズ株式会社
執行役員 名古屋観光ホテル総支配人
中神 章裕 氏

名古屋観光
ホテル
2階 曙西の間

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

7月6日(木)
12:00~14:00

『中部地域の電気事業の歴史と当社事業について』(仮題)
古庄電機産業株式会社
取締役社長 佐藤 彰芳 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

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【産業懇談会4グループ合同懇親ゴルフ会
のご案内】

 平素は中部経済同友会・産業懇談会の活動にご支援を賜り、誠にありがとうございます。
 恒例となっております4グループ合同の懇親ゴルフ会を下記のとおり開催いたします。

日時
令和5年8月26日(土) 8:03スタート
(アウトスタート5組、インスタート5組を予定しております)
場所
明智ゴルフ倶楽部荘川ゴルフ場
岐阜県高山市荘川町野々俣957-1 Tel:05769-2-3111
会費
後日、ご請求申し上げます。
集合場所等
  • 現地集合(7:45クラブハウス前の練習グリーン前)です。
    ご希望の方には、前日宿泊の手配をさせていただきます。詳細は別途ご送付いたします
  • プレー終了後、クラブハウスにて表彰式を兼ねた懇親会の開催を予定しております。
  • 競技方法は、ダブルペリア方式とします。
出欠のご連絡
  • ご参加を希望される方のみ、5月31日(水)までに「会員専用ページ」からご登録をお願いいたします。(参加者は会員限りとし、代理出席はお断りさせていただきます)
  • 定員に達し次第、申込みを締切させていただきます。
  • プレーのキャンセルは、8月18日(金)までに事務局までご連絡ください。8月20日(日)以降キャンセル料が発生いたします
  • ご参加の方には、前泊先および前日の夕食懇親会、組み合わせ等の詳細を後日ご案内いたします。
ご案内先
代表幹事、直前代表幹事、産業懇談会会員
お問合わせ先
中部経済同友会事務局 担当:山本・廣瀬・藤原 Tel:052-221-8901

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【コラム】

コラム1 【さっかの散歩道】 No.59

長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子

『 動物の森 』

 少し前、ゲームソフトで「あつ森」と言われて大ヒットしたゲームソフトがあったっけ。
 ゲームの中では森に動物やアバターたちが集まっても、それは楽しいコミュニティなのだろうが、現実ではそうはいかない。この頃北海道では、熊・鹿出没報道が頻繁に流れている。
 昨年の初雪からして、想定外の展開だったようで、普段なら少し降って、一旦融けて、そのあと根雪、本降りとなるらしいのだが、いきなりドカ雪が降って一気に積雪数十センチを記録したそうだ。そして春。例年なら4月の中頃まで雪が残るのだが、今年は3月末ですべて融けて、いきなり10℃なんて日が続いたと思ったら、遅霜はちゃんとGW明けにやって来ていた。そんな気象状況で、冬ごもりしていた野生動物たちの動きがかなり活発のようで、先日も朱鞠内で不幸な事件があったし、深夜の道路で鹿と激突なんてことがしょっちゅうある。ムツゴロウ先生がご存命なら、この状況をなんと表現されたか伺ってみたいものなのだが…。
 昨今の自然科学では、すべてのことが数字で表現できるという流れになってきているものの、「明日熊出ます」とまでは予想できないだろう。人が動物の生活圏と接している(分け入っている)以上、リスクはつきものだ。その一方で野生であってもコンプリケ(フランス語で「よー分らん」の意味)な人間に寄り添ってくれる動物もいる。

 四半世紀前、引きこもりがちだった高校生の甥を連れて、ニュージーランドにイルカセラピーに行った。子供のころは明るい少年だったが、いじめが原因で他人と上手くコミュニケーションが取れなくなっていた。とはいえ言葉が必要ない動物にだけは心を許していて、だったら動物の中に行ってみようということになった。でも、どうせ行くならイルカだけじゃなくてニュージーランド中の動物にハローと言いに行こうということになり、動物探検バージョンの計画を練った。

写真:剥製

 まずはクイーンズランドからダウトフルサウンドへ。フィヨルドの観光名所はミルフォードだが、人の少ないダウトフルサウンドで、野生のアザラシ、ペンギン、クジラ(はオマケ)、丘では鹿、リスetcと遭遇。動物園の展示とは違い、相手のテリトリーを侵さず一定の距離間で観察することが初めてだった甥は、目をキラキラさせながら言葉に出来ない感動を味わっていたようだった。
 次に行ったのはホエールウォッチング、だったのだが町から港まで車で丘を越えている途中、大変な目にあった。放牧中の羊の群れに囲まれたのだ。牧草地に羊が何頭かいるなあ~徐行してやり過ごそうと思ったら、あれよあれよで数十頭(いやもっといたかもしれない)に車は囲まれてしまう。徐行のスピードがちょうど彼らの歩調にあっていたのだろうか?
 一瞬ブレーキを踏むと、彼らも止まり、少しスピードを出すと軽快な駆け足でついてくる。
 「こんなところで君たちとお友達ごっこしてる場合じゃないのよ~、出航の時間があるのよ~」すると後部座席から「ゆみちゃん、窓開けてもいいかな?」と甥の声「絶対にダメ、触ってもダメ」と答えながらバックミラーで彼を見ると、嬉しそうに羊たちを眺めている。う~ん、とっても良い傾向だけど、困ったな、逃げ道もない…。羊との散歩もかれこれ15分くらいたったころ、先の丘に羊飼いらしき人の姿。棒を持って、左側の牧草地に羊たちを誘導している。助かった!!最後の一頭が離れたら、一気に港まで走ろう~甥の機嫌もよくなったし。とりあえず彼が元気ならそれで良しとしよう。

写真:羊
写真:鯨の尾びれ

 それから、ホエールウォッチング、アルパカ農家、バードウォッチング、メインのイルカセラピーと、南島から始まって、北島まで動物まみれ。人と話す機会が少なかったのが功を奏したのか、最終日のホテルで、甥が自分の心の中で鍵をかけていた言葉を、ぽつりぽつりと話し始めた。
―自分は動物が好きだから獣医の道を目指そうと思うけど、これからでも間に合うかな?
 子供の未来にリミットはなく、どれほどたくさんの選択肢が転がっているか、上手く伝えられないけど、きっとそんなことはこの何日間で接した動物たちが彼に教えてくれたに違いない。 と普通なら、ハッピーエンドなお話なのだが、ここから帰国までの数日で事件が起こってどっと疲れる旅となった。そして当の甥の歩んだ未来もまたコンプリケだ。

 この月末、熊の足音を気にしながら、畑にブドウの木を初植樹する。そして現地で管理してくれるうら若き女子も見つかり、「熊にも男にも気をつけなさい」と送り出す。
 インバウンドが復活して、富良野方面は10月まで、どこの宿泊施設もほぼ満室と言うので彼女の宿舎を少し広めにして、一部屋私の布団部屋にすることにした。
 この植樹が成功したら、コンテナの宿泊棟をいくつか設置するのもいいかな、動物たちの邪魔にならない程度に。

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コラム2 【師、曰く】 No.24

妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)

ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメント、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を今回も一筆。

『 目に見えない資本 序 』

 大学時代から交流を続けている親友らがいる。当時の仲間たちと、エネ懇と称した季節毎の会合も(まあ飲み会ですが)、十年以上続いている。最近はリアルに数名Webで数名ハイブリッドで集まり、ワイガヤで盛り上がっている。その仲間同士のメールも活発だ。最近は、人生100年時代の65歳以降の生き方について、皆、色々考えている。そこで、それぞれの得意分野で、緩い連携ができないかも模索中だ。親友の一人が言うには、緩やかな連携は「風の時代」らしい生き方だという。

 200年前に始まった「土の時代」が終わり、2020年頃から次の200年の新たな時代、「風の時代」に移り変わったという。この言葉、西洋占星術からきており、割と多くの女性がご存じの言葉。「土の時代」は、物・金・地位や、所有することに価値をおく時代。産業革命が始まったのも200年前であり、大量生産、大量消費の時代だった。「目に見えるモノ」や「縦の人間関係」が重視される時代だった。対して、「風の時代」は、知性・情報・仲間や、共有し合うことに価値をおく時代という。「目に見えないもの」や「仲間の横の繋がり」が重視される時代。

 「風の時代」を信じるも信じないも自由だが、確かに、インターネットが普及し、IT、DX、AI等、情報革命が急速に進展し、シェアリングエコノミーも急拡大している。あながち、眉唾とも思えない。昭和の頃、家や車、レコード(CD)を持ち、肩書ある地位に就くこと、「目に見えるモノ」を手にすることが、人生の目的だった。満たされたか否かは別として、私もその中の一人だった。平成、令和と移り、今の世代は、シェアハウスやシェアカー文化、音楽はサブスクで聴くのが当たり前、小さくとも仲間とベンチャーを興す社会起業家が増えた。生活を支えるモノが大切なことは、今も変わらないけれど、その上でさらに、「目に見えないもの」に軸足をおく時代に移り変わってきたことも、また事実。

 ところで、モノの時代の弊害として、環境破壊や温暖化による気象変動、貧富の格差が生まれた。そのことと同様、目に見えないもの、情報や知の時代の弊害もまたあるだろう。フェイクによる情報操作、意見の二極化や分断、情報インフラへの過剰依存、AIの脅威も含まれるかもしれない。「風の時代」は、一つの価値観に束縛されることなく、様々な価値観が許容されるダイバーシティの時代でもある。それゆえに、フェイクや偏った情報に惑わされない「知性」を磨くことが、より重要だろう。

 師、曰く、『これからは、「知性」が大切な時代、「目に見えない資本」が、より重要な時代』

 『目に見えない資本』とは何か…次号に続く。修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

写真:キャベツ畑
(渥美半島のキャベツ畑)

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コラム3 【「ほん」のひとこと】 No.175

株式会社 正文館書店 取締役会長
谷口正明

『 清浄島 』
河﨑秋子著・双葉社刊

 日本海最北の離島・美しき礼文島にキツネが運んだ寄生虫エキノコックス。感染すると腹が膨れて死に至る謎多き病・エキノコックス症。昭和29年、若き動物学者土橋義明はこの病を撲滅すべく単身礼文島に渡り奮闘するが、島外への感染拡大を防ぐため、ある苦しい決断を迫られる…。

 「おわりに」には、2021年「国立感染症研究所は知多半島内でエキノコックスが定着したとの見解を示した」とあります。
 「地に足のついた」とも言うべき河﨑秋子の文体が魅力的です。

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