【5年2月度 産業懇談会(木曜G)模様】
テーマ: 『 人口減少社会に向けて医療機関が貢献できること~大同病院の場合~ 』
- 日 時:令和5年2月2日(木) 12時30分~14時30分
- 場 所:名古屋観光ホテル 曙西の間
- 参加者:25名
自己紹介と大同病院の紹介
生まれは兵庫県西宮市、卒業は金沢大学医学部。消化器がん専門の外科医として同大学の関連病院を経て、名古屋大学腫瘍外科に転籍した。2007年から大同病院外科で勤務し、2014年に副院長、2018年に理事長を拝命し、現在に至る。
大同病院(404床)には37診療科があり、高度かつ専門的な急性期医療の提供が可能である。病院の誕生は、1939年。結核が「国民病」として恐れられていた時代である。1937年に稼働した大同特殊鋼(当時は大同製鋼)星崎工場でも、多くの従業員が亡くなっていた。大同病院は、従業員とその家族を守るために企業立病院として設立された。残念ながら、1945年の太平洋戦争の空襲によって病院は焼失した。終戦後3年かけて再建したが、1959年の伊勢湾台風によって再び壊滅してしまった。それでも我々の先人は、高台へ移動することなく、地域の住民のために医療を続ける覚悟を決めて、同じ場所に再建してくれた。
現在の大同病院は、救急医療・がん診療・高度専門医療・小児医療の4つの機能を軸としている。職員数は約1300人。経営母体の社会医療法人宏潤会は、大同病院を含め、地域のクリニックや訪問看護ステーション等の12事業所を運営している。法人の存在意義は「その人の誕生前から最期まで、診療・ケアと安心を提供する」、理念は「皆様の信頼と満足を極める」こと、そして「未来へのモデルとなる予防・医療・介護ネットワークを創る」ことを目指している。
医療・介護業界の概観
85歳以上の人口は、2040年まで増加を続ける。すなわち、要介護認定者が増加し、医療と介護の複合ニーズが高まる。加えて、高齢者単身世帯の増加や、在宅診療数も伸び続けると予想される。外来患者数は全国的には減少傾向であるが、名古屋医療圏は2040年以降に最大となる。入院患者や在宅診療は、全国的に2040年までは増える。社会保障給付費は今後も増え続け、すでに社会保険料だけでは賄いきれていない。
今回の新型コロナウイルス感染拡大によって、医療提供体制の脆弱性が浮き彫りになった。病院や病床が多すぎて医療資源が広く薄く分散されること、欧米諸国に比べて高度急性期医療に対応できる病床が少ないこと、発熱患者が総合病院を受診すること、コロナ解除後の慢性期病院・介護施設の受入れ不全などである。これらを是正するために、高度医療機能の集約化や医療機関の役割分担と連携の強化、かかりつけ医まで含めた医療提供体制の効率化が求められている。
人口減少社会
日本の出生数は減少しており、新型コロナウイルスの影響によって、少子化がさらに前倒しになった。今後の現役世代減少は、医療・介護業界はもとより、社会全体に大きな影響がある。国の少子化対策が現役世代として奏効するのは20年以上先のことである。それまでは、今の現役世代が踏ん張らなければならない。現役世代が減少する中で、企業の従業員離職も大きな問題である。離職理由には「健康がすぐれない」と答える人が一定程度存在している。健康リスクによる労働損失は大きい(2030年にはGDPの約8%)。現役世代のためにも、病気で働けない、亡くなる方を少しでも減らすことが必要である。日本人の死因の1位はがんである。対策としてがん検診が重要だが、そこに問題点がある。
がん検診の3つの問題点
がんは、30歳から罹患する可能性がある。全ての病気と同様、がんも早期発見・早期治療が大切である。しかし、健診の実施数はコロナ前後で約9.9%減少した。がん検診も、コロナ前後で10~30%減少した。日本のがん登録件数は約5%減少した。がん検診を控えたことで、がんと診断されない人が増えている。これは大きな問題である。
そもそも、日本の健診・検診制度が複雑になっている。健診・検診の対象者や目的ごとに、異なる法制度のもとで複数の実施主体により行われている。国民にはわかりにくく、医療機関にとっても対応しづらい状況である。このような背景を経たがん検診の問題点は3つ。がん検診が任意であること、日本人のがん検診受診率が低いこと、そして、受診者に受診したい気持ちがあっても、忙しくて費用が高額であるなど利便上のハードルがあり、それに対する医療機関の努力が不足していることである。
大同病院が貢献できること
医療機関の努力によって、がん検診受診率向上や早期の治療開始に貢献し、現役世代の社会生活・勤労を支援することは可能である。我々はがん検診受診率を上げるために、年間数万人を新たに受け入れられる健診センターを、新中日ビル内に開設することを決めた(2024年春、「DAIDO MEDICAL SQUARE」)。
受診しやすい立地に加え、平日早朝・夜間、土日祝日も稼働する。一般健診や人間ドックだけでなく、がん検診にも注力し、現役世代に優しい価格設定をする。女性が受診しやすいよう男性とは別動線を設計し、女性クリニックも併設する。クリニックでは、健診から精密検査や高度医療への橋渡しを行う。
がん患者の約1/3は現役世代である。疾病を抱える労働者が、仕事と治療を両立できるようにガイドラインが制定されている。両立支援を進められるかどうかは病院次第である。
大同病院は、新施設稼働によってがん検診受診率を向上させ、がん拠点病院として精検・治療を担い、仕事との両立を支援することでがん診療の責任を果たす。
社会全体の課題を解決できるのは、皆さんのような企業だと思う。しかし、我々のような小さな医療機関でも、地域の課題なら解決できると信じている。それが、企業立病院から始まった大同病院の使命である。
【5年2月度 産業懇談会(水曜第2G)模様】
テーマ: 『 シーキューブの『すごい会社』創り~仕組み作りから実践まで その全貌~ 』
- 日 時:令和5年2月8日(水) 12時30分~14時30分
- 場 所:名古屋観光ホテル 桂の間
- 参加者:28名
自己紹介
福岡県出身で、これまでの経歴はNTTに32年、シーキューブで13年勤めてきた。2007年にNTT西日本の取締役東海事業本部長として初めての名古屋勤務、2010年にシーキューブへ入社して2011年から代表取締役社長を8年務めた。産業懇談会への登壇は2回目で、前回(2012年)は「こどもの教育を考える~私たちの子育てを通して~」であった。こども教育の原点は、社会を構成する最小単位の家庭にあるのではないかと今も思っている。
会社紹介
当社は、1954年に中部通信建設として設立し、1992年に現在の社名に変更した。従業員数は連結で約2100名。事業内容は、NTT通信設備工事、移動通信設備工事、ICT設備工事、情報サービス事業の4分野。かなりの間、通信設備工事が主であったが、将来を見据えて他の事業分野の拡大に注力し、その比率を逆転するまでに至った。拡大分野のICT設備工事は、ETCレーンの設置やトンネル内の照明設置工事といった交通環境インフラ工事などを行う。情報サービス事業は、GIGAスクールやフューチャーイン光サービスなどを提供している。加えて、近年では将来の成長産業にするためにイノベーション事業として、アンダーパス冠水事故対策や逆走事故対策となるエアー遮断器の開発・導入や、社員発案のアグリ事業として、トマト(スイートキューブ)の栽培を始めた。6年目を迎え、首都圏の百貨店を中心に販路も増えて注目を浴びるようになってきた。
「すごい会社」とは
基本テーマを「私達は、みなさまから“シーキューブ・グループってすごい”と言われる会社にします」として掲げ、具体的にはお客様、従業員、株主様、取引先、地域社会それぞれから「すごい」と言われるような会社にすることを目標とした。しかし、「すごい」の基準は感覚的で人それぞれ異なる、つまり目盛のない個人のモノサシを、いかに客観的に定義するかが大きな課題であった。
「すごい会社」創りの本格展開
2006年に「すごい会社」を目指すという大きな目標を定め、2012年に本格展開を開始した。そのためには「すごい会社」と言っても、どんな状態になればよいか、どんな努力をすればよいか、誰からすごいと言ってもらえるのかを明確にする必要があり、その仕組みを作ることが鍵となった。2011年に「すごい会社」創りに向けて仕組み作りを行い、2012年から本気度を示して全従業員で実践していった。これを本格展開と称した。
仕組み作りにあたっては、現場に特別な業務が発生しないこと、取組み内容がわかりやすいこと、取組み結果(評価)がわかりやすいことに留意しながら、中堅社員によるプロジェクトを発足させて取組んだ。すごい会社になるための枠組みとして、5要素(お客様、従業員、株主様、取引先、地域社会)から17項目、さらに42指標まで細分化する構成とした。
目標設定は取組み項目毎に42の指標を設定し、各種データを集めてできるだけ客観的にすごいと言われる数値にした。例えば、「要素:お客様」の安心安全の項目では、客観的な外部データから車両事故率2.0%以下がすごいということが判明し、目標数値として設定した。また、「要素:株主様」の業績の項目では、同業他社11社(上場会社)中1位になることをすごいと決めた。評価方法は42指標の評価(ポイント)から上位階層の17項目を評価し、さらに上位階層となる5要素の評価を行い、最後に総合評価する仕組みとした。項目によって重み付けの工夫もした。積み上がった総合評価のポイントは5段階で評価することにし、社員がわかりやすい仕組みにした。本格展開前の2011年度の試算では、総合評価が72ポイントで上から2つめの評価4のぎりぎり「よい」という結果であった(70~89ポイントがよい会社)。
仕組みはできたので、いよいよ実践である。実践に向けた本気度を社内外に示すため、社内誌への掲載や社長キャラバンによる説明会の実施、デジタルサイネージでPR、名刺の裏面、さらに新聞雑誌の広告、株主総会招集通知にまでも記載した。
「すごい会社」創りの成果と定着化
「すごい会社」創りに向けて、仕組みを作り本気度を示した。後は全従業員で実践することが重要である。本格展開を開始した2012年度は76.2ポイントで「よい」評価となったが、しばらく足踏み状態が続いた。しかし、見える化したことで判明した悪い項目を改善させ全体的に水準を高めていく必要があることに改めて気づかされた。そして開始して6年目の2017年度に総合評価90.2ポイントとなり、ついに評価5の「すごい」を達成することができた。全従業員へ記念品を贈呈し、みんなで喜びを分かち合った。従業員には普段の業務を着実に行うことが、「すごい会社」創りへの道筋であることを認識してもらった。取り組みの中で顕著に改善した項目は、車両事故率が8.2%から2021年には1.25%まで低下したこと、有休休暇取得日数を平均10日以上達成したことであった。
「すごい会社」創りの取組みを進めていく中で生まれた変化は、これまでお客様や株主様を重要視する傾向があったが、従業員や取引先、地域社会の取組み強化が必要であることに気がついたことである。この取組みの中で生まれた新しい施策は、新入社員サポートのメンター制度導入や女性社員による「働きやすい職場づくり委員会」、「CSマナー向上委員会」の発足、働き方改革の推進がある。
取組みを定着化させるために、事業計画策定のフォーマットへの反映や四半期毎のレビュー(現状把握、弱点の明確化と取組み強化)、リーダー職登用面接や研修における意識づけを実施した。2017年度に初めて達成して以来の2回目の達成が近いうちに実現できることを期待している。
最後に
「すごい会社」創りの原点は、経営指標の達成とともに、従業員自身が誇れる会社であり、協力会社から慕われる会社であり、お客様・地域社会から愛される会社になることである。従業員がこの思いを熱く持ち続けていくことで、永続的に成長を遂げることができると確信している。
【5年2月度 産業懇談会(火曜G)模様】
テーマ: 『 創業を通じて学んだこと。 』
- 日 時:令和5年2月14日(火) 12時30分~14時30分
- 場 所:名古屋観光ホテル 桂の間
- 参加者:33名
会社紹介
当社は2006年6月に創業し、海運事業と工場の生産設備に関するLIFTという2つのビジネスを展開した。その後2020年に事業を分割し、現在はLIFTを中心とした事業を行っている。売上は約60億円で、社員は70名程度である。本社は横浜で、名古屋と大阪に営業拠点がある。当社はグローバルに展開しており、東南アジアや中国を中心に米国などにも現地法人を持つ。その他の国や地域は代理店と契約し、グローバルネットワークを形成している。
当社のビジネスは、狭い分野で、かつ集中的に行っており、海外で工場を新設、または移転する際に力を発揮する。事業内容は、LIFTという物流(LOGISTICS)、情報/保険(INFORMATION/INSURANCE)、資金(FINANCE)、貿易手続き(TRADING)に、エンジニアリングや認証など付加価値をプラスして、顧客に対して生産設備の貿易・許認可・輸送・販売をワンストップで手配している。グローバルネットワークを活用し、日本国内のみならず、海外にも手配をすることができる。
具体的な機能はコンサルティング、トレーディング、ロジスティクス、エンジニアリングの4つである。コンサルティングは、最適貿易スキームの構築支援(税務リスク、貿易手続きなど)、トレーディングは、生産設備の売買で新品調達・中古移設・処分・廃棄を顧客から請負う。続いてロジスティクスは、生産設備の物流を全て担い、併せて各種許認可の取得手続きを行っている。特にアジアを中心に世界中で、難易度の高い中古設備の許認可の取得を行っている点が当社の強みである。最後にエンジニアリングは、設備導入のためのエンジニアを配置し、解体から設置まで現場力を保有している。これら4つの機能をいかして、顧客に対し世界中で確実かつ安全に生産設備の新設や移設を行うための事業を運営している。特殊な案件として、防衛省・自衛隊演習機材輸送(PKO含む)の仕事も請負っている。
顧客のニーズ&課題とソリューション
当社が行うソリューションは、主に次の6つにまとめることができる。まず、(1)マーケットの変化に対応するため、海外生産拠点の再編を検討している企業に向けて、生産移管・進出プログラムの提案を行っている。新型コロナウイルスや自動車のEV化、米中摩擦によってサプライチェーンが大きく転換している。そのため、工場のスクラップアンドビルドが頻繁に行われており、生産移管プログラム(売主から工場1棟を一括購入し、グループ間移設、資産売却・処分を実施。売主は各種手続きをアウトソーシングできる。)の引き合いが多くなっている。続いて、(2)海外生産拠点の余剰設備の処分を検討している企業や、(3)海外から新たな設備を調達するために仲介業者を探している企業に向けて、海外での設備売買サービスを行っている。(4)国内外で在庫が増加し物流業務や経営指標を圧迫している企業に対しては、VMIサービス(在庫を買い上げ、受発注業務を請負う)を提供している。(5)国内外工場内の設備レイアウト変更を検討している企業には、エンジニアリングサービスを提供し、(6)自社製品の海外展開や中古生産設備の海外転用時の各国の規制に関して、認証を取得する手続きを代行している。これら6つは全て、工場の動産に関連するサービスの提案である。
会社設立後の3つのエピソード
創業しゼロからのスタートであったため、顧客へのアポイントが取れず、自分の置かれた厳しい立ち位置を認識することになった。必死に営業し、ある会社からチャンスを頂いた。製品を海外に輸出する物流の仕事で、顧客の要望を全て応えて一生懸命仕事をした。起業したばかりでまだ信用がなく、当社の協力会社からは作業の発注の決済条件は全て前払いであった。資金繰りに困窮していたが、前職の企業から資金を融資してもらい、背中を押してもらって乗り越えることができた。この経験は一生忘れられない出来事の1つになった。
続いて、2008年にリーマンショックによって企業の設備投資がストップし、発注がほとんどなくなってしまった。仕事がなかったため、当社の強みや今後のビジネス展開を考えると、6つの要素(情報、信用、資金、技術・エンジニアリング、貿易力、提案力)が重要であることに気がついた。情報、信用、資金は小さい会社の当社では対応できないため、大手企業と協業し、当社が得意な部分に注力する必要があった。海外投資における協業を模索し、ある大手企業の販路拡大戦略と重なったこともあり、現場の技術的対応などは当社が請負うパッケージを提案した結果、採用して頂くことができた。大手企業から顧客をご紹介頂くビジネスモデルに切り替えることになった。
最後に、我々のようなベンチャー企業が銀行から借り入れすることの難しさを痛感した。ある企業が海外進出するにあたって、全てをサポートする仕事を頂いたが、また資金が足りなかった。このような厳しい状況下において、金融機関に必死で助けを求め、担当者に恵まれたこともあり、融資をして頂くことができた。この仕事をやり遂げられれば、上手くいくと信じて業務に邁進した。お金を借りることはどういうことか学んだ瞬間だった。
一方で、社内の管理体制が未熟であることに気づき、大手企業の経験者に社内のガバナンスのコンサルティングを受けた。一から仕組みを構築し、浸透させている段階である。これまでは社員にとって居心地がよかったが、規定やルールなどの導入で、居心地が悪くなった部分もある。会社は人で成り立つため、社員のモチベーションも大事であり、会社の成長を考えながらバランスをとって経営していく責任があると感じている。
私はこれまでに関係して頂いた方や社員など、全ての方から一生忘れることが出来ないご恩を頂いたと思っており、とても感謝している。お客様、株主、社員が満足する会社を実現していきたい。当社のビジネスを通じて、関わって頂いている全ての方の利益に繋がるように考えてこれからも取り組んでいきたい。
【5年2月度 産業懇談会(水曜第1G)模様】
テーマ: 『 PCMH(プロセス・コンサルテーション・メンタルヘルス・ケア)の専門的な取り組み~個から全体が活きる~ 』
- 日 時:令和5年2月15日(水) 12時30分~14時30分
- 場 所:名古屋観光ホテル 桂の間
- 参加者:22名
スピーカー:
自己紹介と産業精神保健研究所の立ち上げ(小瀬木氏)
北海道で生まれ、大学卒業後は高校の数学教師として働いていたが、新しいことに興味を抱く性格で、心理に興味を持つようになった。再び大学に戻って臨床心理士の資格を取得し、2000年からは愛知県・名古屋市教育委員会のスクールカウンセラー、2002年には矢作川病院で勤務した。2006年に産業精神保健研究所を立ち上げや企業外来を設立し、企業・医療連携によるメンタル支援を行った。そして、2015年に愛知総合HEARセンターを設立し、現在に至る。
産業精神保健研究所の立ち上げ(小瀬木氏)
矢作川病院で勤務しているときに、バブル期が終わりを迎え、うつ病や自殺者数が大きく増加するようになった。従来の精神科病院の体制では対応できないため、新たにプロジェクトを発足させた。うつ病には、従来型、現代型、躁うつ病の3種類あり、うつ病以外にも、統合失調症、パーソナリティ障害、発達障害など様々あり、病名がわかりづらい状況だった。
病院は会社のことがわからない、企業は病気がわからない、挟まれた従業員はあまり知られたくないというそれぞれの思いがあり、現場に合った治療ができていなかった。そこで、システム創りが必要であると考え、(1)企業外来(働く人が利用しやすい専門外来)の設置、(2)産業精神保健(IMH)研究所の設立(精神病の高度な研究を行い、企業外来の専門性や内容の充実・向上を目指す)、(3)倫理委員会の設立(職員の倫理的向上を図る)を行った。また、病院の変革として、個室・待合室の新設や臨床心理学などの勉強会の開催、企業連携を目的に営業活動の開始、企業、市役所、教授、病院の医者を巻き込む「産業精神保健研究会」を2か月に1回行って相手を知る機会を作るなど、様々な施策を実施した。
再発しない復職支援の研究・実践、復職支援プログラムを作り上げた。特に、企業と医療が連携していく上で、企業の利潤や効率を追及する立場と医療の個を大切にする立場が異文化であり、両者間の話し合いをする場を設け、休職者の復職支援を充実させる必要があると認識した。臨床心理士が企業を訪問し、職場実践ミーティングを月1回開催して、復職に向けて休職者に対する情報交換を行った。企業や病院の関係者全員が集まることで、一気に方針を決めることができ、判断が速く行えるメリットがあった。病気を早期発見して治療を行い、ミーティングを重ねながら復職に向けて取り組むプログラムの仕組みを構築した。復職支援プログラムには、体力増進プログラム、作業遂行訓練プログラム、職場復帰プログラムがある。注意点は、日常生活レベルの水準まで戻っても、無理して復職をしないことである。体調は波があるため、リハビリを進めながら企業復帰レベルに到達するまで慌てず長い目で見る必要がある。このような取組みの結果、企業外来の復職率は約90%、再休職率は約6%となり、3年かけてじっくりとした治療が職場復帰に有効であることがわかった。
気がついたことは、心理学は企業に必要で、現場に役立つということである。「心理学のパッケージ化」を行い、心理のことが見えるようになれば必ず役に立つと感じている。
その後、心理学にはベンチャー企業がいないことから起業を決意し、(一財)愛知総合HEARセンターを開設した。会社名のHEARの意味は、聴く(HEAR)と、大いなる力(Higher Power)、教育(Education)、癒し(Appease)、交わり(Round)の頭文字を取って命名した。主な活動は、企業を対象に復職・就労支援としてPCMH(プロセス・コンサルテーション・メンタルヘルス)の実施、復学支援、セミナー・研修、個人カウンセリングである。
企業と共に歩む新たな活動(小瀬木氏)
中部経済同友会を通じて、名阪急配株式会社と出会った。連携方法を模索する中で、企業内に入り込むことの重要さを教えて頂き、全センターの巡回訪問を行うことで企業内から従業員の普段の仕事の様子を確認することができた。このPCMHシステムは、企業の風土を知ることができる。2022年には530件の面談を行った。個人面談や休職ー復職面談、ストレスチェック、メンタルヘルス・レクチャー、本社ミーティング(情報共有・現場と繋ぐ)、小瀬木こころの小窓(健康広報)などを行っている。
PC(プロセス・コンサルテーション)には、心理学(臨床心理士)と経済学(企業)の両方の知識が必要である。このような多様的イノベーターを育てるためには、D&Iが重要な要素となる。多様性を互いに受け入れると人は元気になり、また、不確実性の時代だからこそ、現場で現状を聴くことが重要となる。ここにリスク回避の方法が隠れているのではないか。PCが建設的な機動開始するために必要な事は、誰かが改善したいと望む人がいて、進んで援助を求めようとすることが不可欠である。この気持ちがあって初めてPCが成立し、PCの仕組みによって、状況改善する行動プログラムや具体的変更に自然と導かれていく。一方で、時間をかけて、継続的に育つのを待つことも大事である。
名阪急配(株)の取組み(窪田氏)
小瀬木先生とは2018年に出会い、当社と顧問契約を結び、会社の中に飛び込んで頂いた。当時は、メンタルヘルスの問題が起こっても、対応方法や復職できず退職してしまうことに苦慮していた。復職のプロセスを教えて頂いたことにより、2022年では元職場に6~7割が復帰できた。当社のセンター訪問についても、初めは壁があり敬遠しがちだったが、継続することで少しずつ話しにくい内容も話せる関係性が構築でき、大きな力となった。このような結果、健康経営優良法人として3期連続で認定された。この出会いに感謝をしている。
【4月度産業懇談会のご案内】
4月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
定員は引き続き、先着30名を目安に運営します。
何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。
会合にご参加いただける際は、手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。
グループ名 | 世話人 | 開催日時 | テーマ・スピーカー | 集合場所 |
---|---|---|---|---|
火曜グループ |
富田 茂 |
4月11日(火) |
『コロナ禍での中小企業生き残り支援~事業再生の現場から』 |
名古屋観光 |
水曜第1グループ |
淺井博司 |
4月19日(水) |
『カゴメ株式会社本社 見学会』 |
レストラン&カフェ「東洋軒」(名古屋栄三越9階) |
水曜第2グループ |
大倉偉作 |
4月12日(水) |
『新規アイデアを採用し過ぎてるIT企業の失敗と成功』 |
名古屋観光 |
木曜グループ |
河村嘉男 |
4月6日(木) |
『新規事業創出~金型屋が型を破るまで~』 |
名古屋観光 |
【5月度産業懇談会のご案内】
5月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
定員は引き続き、先着30名を目安に運営します。
何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。
会合にご参加いただける際は、手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。
グループ名 | 世話人 | 開催日時 | テーマ・スピーカー | 集合場所 |
---|---|---|---|---|
火曜グループ |
富田 茂 |
5月9日(火) |
『十勝農業の現状と和牛肉について』(仮題) |
名古屋観光 |
水曜第1グループ |
淺井博司 |
5月17日(水) |
『創業66年:3代目経営者が吠える。~ただ運ぶだけではない。1.3億→12.5億へ。V字回復の実践とは~』 |
名古屋観光 |
水曜第2グループ |
大倉偉作 |
5月10日(水) |
『ビジネスと子どもの人権・企業と子どもの課題の接点~名古屋キワニスの活動を交えて~』 |
名古屋観光 |
木曜グループ |
河村嘉男 |
5月11日(木) |
『企業経営に資するファシリティマネジメント』 |
名古屋観光 |
【コラム】
コラム1 【さっかの散歩道】 No.57
長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子
『 雪どけ 』
畑の雪はまだ50㎝ほど融け残っている。
ここ数日、スケジュール帳とにらめっこしながら、週末ごと北海道に飛べそうな日の飛行機の予約を入れまくっている。まるで長年片思いをしていた恋人に会いに行くような気分だ。畑はどこにも逃げていかないのに、とにかく現地へと気が急く。行ったからと言って何が楽しいわけでもなくただ肉体労働と農作業の日々なのだが、きっと自分の経験値にないことをすることへのワクワク感なのだろう、まだそこそこの体力が残っていてよかった。
今年はやらなくてはいけない作業がたくさんあって、とりあえず今月末、役場に行って近くのボロイ町営住宅を何とか借りられないか交渉することにしている。ここ数年空き家になっているらしいのだが、おそらく「住民票を移してくれなきゃ貸さない」とか言われるので、何か解決策はないか知恵を絞らなくてはいけない。何年も空き家なら貸した方が収入があってよいと思うのだが、そこは「よそ者」に対する警戒なのか、なかなか地元の壁は乗り越えられない。そうこうしている間にも、隣国の影がちらついているのに…。
先日ニュースで中国人女性が沖縄の島を買ったとSNSの映像が流れていたが、あの島の半分はすでに中国の企業が所有しているという。それと似たことが最近北海道でも聞かれるようになってきた。耕作放棄地や、後継者不足に悩む農家、酪農家は数多く、特に農地は二束三文での取引になるので、そのまま荒地になっていたりするのだが、最近法外な値段で買取を持ち掛けるブローカーが現れた。表向きはこんな感じ。
「作りたい農作物があるので、畑と農機具まとめて××千万円で」
空知界隈の個人所有の畑は、平均で50haくらいだが、その広さの農地はどんなに頑張っても100万円に満たない。本当にそんな値段で買ってくれるならさっさと売り払って借金返して町で暮らそうと考えるのはごく当たり前だ。ただ問題はそのブローカーが最終的に売り抜ける相手がいったい誰なのかということだろう。あからさまに中国人個人にではなく、中国資本の日本企業の可能性も否めない。
何年か前、中国バブルが始まると同じくしてワインブームが巻き起こった。それと当時にワインの買い占めが始まって、あれよあれよと高級ワインの値段が上がっていった。特にボルドーが大好きらしく、ブルジョアクラスですら2倍の高値になったりしていた(今はもっと高いけど( ̄▽ ̄)。そのころ、中国人がフランスのワイナリーを探し始め、さすがにボルドーは、貴族やお金持ちが所有しているので、なかなか買うことが出来ず、そこで目を付けたのが、ブルゴーニュやローヌ、ラングドックなどの畑だ。大手の所有するワイナリー以外は小さな農家が所有する畑も結構あって、そこで採れた葡萄をネゴシアンブレンド用に卸しているところもあれば、細々地域だけで販売するよう小さな醸造設備を備えたワイナリーもある。もちろんブームではあるが、現地も担い手不足で時々売りに出されることもあったのだが、あっという間に買い手がついていた。聞くとどうやら中国人が買ったらしい、
「よくフランス人が売ったよね」と疑問に思っていた。友人がブルゴーニュで畑を買うのに四苦八苦していたことも聞いていたし、フランス人もご多分に漏れずそこだけは譲れない文化があって、よそ者にはかなり厳しい。
「中国本土用のワインなんだって」話はこうだ、買った畑で作るワインはフランス本土では一切売らず、すべて中国本土でしか販売しない。ましてやフランスのAOCの決め事は守って、勝手な名前を付けて売ったりしないと提示され、その条件付きでの取引なのだという。まあ、偽物ばらまかれるよりはマシなのかもしれないが、
「それって、地元にお金落ちるんですか?」
翻ってわが北海道。自衛隊基地が近いので購入した土地で何か良からぬことをしないかと警戒するも「大丈夫、ここでは農作物しか作りませんし、それらは全部中国本土に輸出用ですから」と言われたら?広大な土地が中国人の食を支える畑になるということか?でもって、それ、地元にお金落ちるんですか?なのだ。
先日参議院議員、松川氏が講演の中で「経済安保」の問題点などをお話しされていたが、この農業に関わる問題もまた安全保障問題と言えるのではないかと不安になる。
最近でこそ農業をビジネスとしてとらえ、マーケティングから販売までの出口戦略を事業計画として展開する参入者も増えてきたが、そこには冒頭お話ししたような、地元の壁が多々存在する。先日産業懇談会でフタバ産業の吉貴さんも農業の壁についてかなりご苦労されているとおっしゃっていたが、これらはすべて「国の補助金」で囲い込まれてしまった農業政策の弊害でしかない。農家さんは基本的に「農作物を作る、以上」みたいなことが長年まかり通り、作れば誰かがどこかで売ってくれるので、とりあえず借金して農機具買って、補助金で設備直して…そんな「負」が資産として残るなら、誰も農業など承継しようと思わない。
一方で新規参入者に対するハードルはあちこちに用意されていて、「あなた方、一体この先の農業経済をどうお考えですか?」と役場のカウンターを叩いて問い質したくなる衝動が起こらないわけではない。でもそこはちょびっと大人なので「何とかなりませんかね~」と一緒に解決策を考えてもらうしか、今のところ私にできる手立てはない…あ、こんなこと書くと又ハードル上がっちゃうのかしら( ̄▽ ̄;)www。
雪解け近い中富良野、良い春がやってくることを願いつつ飛び立とう。
コラム2 【師、曰く】 No.22
妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)
ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメント、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を今回も一筆。
『 ご同行 』
産懇宅配便は中部経済同友会HPに掲載され、誰でも読める。前回のコラムを読んだ愛媛、松山の親友から、こんなことを言われた。「“俺は○○(さん)を育てた”と言っている人に限って、周りから見ればそうは思えない、○○さんの努力や才能開化ではないか?といった例が少なくない、と思いました。」ドキッとした。自分も言っていた。息子達を、愛情をもって育てた。部下後輩も、相手を思い育てた。だが、振り返れば、私は未熟な父親、未熟なマネージャーだった。今の私なら…と、いつも思う。皆、立派に成長したのは、本人の努力、才能開化だ。私が育てたなど、エゴに他ならない。全く、親友の言う通りだ。
有難いことに、私には大学時代から続く大切な親友達が居る。学生時代から、幾度も、苦労や困難、挫折を味わったとき、隣に居てくれた親友たち。今でもわざわざ名古屋で途中下車してくれたり、私の東京出張に合わせ、月1で飲み語らったり、季節毎にリアルとWebのハイブリッドで8名近く集まる仲間達。各々が各々の道で山登りをする途中、時折、合流して、お互いの無事を、お互いの道を、確かめ合っているような感覚だ。友とは、有難い人生の宝だと、しみじみ思う。
大学時代、ワンダーフォーゲルで、重き荷を背負う山登りをされたからだろう、田坂講義では、常に人生を山登りに例える。
師、曰く『私も、皆さんも、山の頂を目指し共に歩む「ご同行」(ごどうぎょう)。』
師弟とは決して言われない。共に山の頂を目指し、悪戦苦闘するなかで一歩一歩、前へと歩を進める、「ご同行」だと。確かに、田坂先生からは、一度も、誰かを育てたという台詞を聞いたことがない。無論、その山登りの姿勢に、エゴやeasy goingな安易さがあれば、雷鳴が轟く。ご同行として相手に敬意を払い、数々の山登りを経験された先輩としての、真剣勝負の活だ。こんなことも言われた。『同じ山の頂を目指すとき、経験を積んだ先輩のご同行も有難いが、自分と同じ未熟な者同士、悪戦苦闘しながら必死に歩んでくれるご同行こそ、とても有難い存在ではないですか』、と。確かにそうだ。余裕をもち先を導く先輩も有難い。自分の苦しさも、経験済みで知っているだろう。しかし、今のこの苦しさを共有できる、共に歩んでくれる仲間が居てくれるからこそ、苦しいのは自分一人ではないと思い、前に進める。そんなご同行の有難みを、忘れてはいけない。
ナンバーワンの頂、オンリーワンの頂、人それぞれの山の頂があるだろう。私も志す山の頂を目指して、ご同行とともに、人生の山登りを楽しもう。修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
コラム3 【「ほん」のひとこと】 No.173
株式会社 正文館書店 取締役会長
谷口正明
『 片山杜秀のクラシック大音楽家15講 』
片山杜秀著・河出文庫
2014年に『クラシックの核心』(片山杜秀著・河出書房新社刊)が出版されました。そこでは、作曲家のバッハ・モーツァルト・ショパン・ワーグナー・マーラー、指揮者のフルトヴェングラー・カラヤン・クライバー、ピアニストのグールドの9人が取り上げられていました。この度新たに、ベートーヴェン、指揮者のトスカニーニ・バーンスタイン、歌手のカラス、指揮者でチェンバロ奏者のリヒター、それになんと音楽評論の泰斗吉田秀和が加えられ、15講として文庫で刊行されました。
前著の「核心」は、西洋音楽史の核心を意味すると同時に、それぞれの音楽家の核心を衝くものであり、その点は本著でも貫かれています。談話形式ですので、クラシック音楽に縁遠い方でも愉しめる1冊です。