【5年1月度 「代表幹事講話」】

テーマ: 『 持続可能な社会を目指して~変革の時代を迎えて~ 』

  • 日  時:令和5年1月24日(火) 17時35分~18時35分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 那古(東中)の間
  • 参加者:91名
スピーカー:
尾堂 真一(おどう しんいち)
中部経済同友会 代表幹事
日本特殊陶業株式会社 取締役会長
写真:尾堂 真一氏

私が大切にしていること

 私の信念は、「今の幸せは永遠には続かない、常に変えていかなければならない」と考えている。座右の名は「真実一路」。大切にしていることは、人との出会い、縁を大事にすること、そして、部下が困っているときは逃げずに最終判断し、一緒に責任を取って解を出すようにしている。時代や環境が変化しても、この考え方を大切にしていきたい。

会社紹介

 2022年3月に創業地(高辻町)を離れ、久屋大通に本社を移した。変えていくことの経営者の覚悟を社員に示すために決断した。また、若手社員のアイデアを取り入れ、新しい働き方・変革、DXを推進するため、小牧工場に新オフィスを設置した。2016年には創立80周年を迎え、コーポレートメッセージとして「IGNITE YOUR SPIRIT」(心と夢に火をつけろ)を掲げた。
 当社の事業であるセラミックスは、耐熱性など優れた特性を有する材料で、金属や有機材料と並ぶ第三の材料として活用されている。スパークプラグの製造から開始し、自動車や情報通信など多岐に亘る業界の製品を生み出してきた。今後は、環境・エネルギー、モビリティ、医療などの分野に注力していきたい。

社長時代の取り組み

 海外(独・豪・米)へ出向した経験が自分を育てた。組織として結果を出すこと、どんな環境でも負けないという覚悟、自分や組織の存在意義を学んだ。これらの経験を積んだ後、2011年に社長に就任した。就任後すぐに、自社のアイデンティティの確立と変革を掲げた。自動車業界の成長も伴い、売上・利益・株価は右肩上がりに上昇することができた。
 また、10年後の自社の姿を描き「日特進化論」という長期経営計画として、3年毎にステージを「深化・新化・進化と真価」に分けて取り組んだ。現在は更に進み、「これまでの延長線上にない変化」を2040年の目指す姿として掲げている。

ダイバーシティDX推進、CNの取り組み

 ダイバーシティは、経営戦略を実現する上で不可欠な要素である。時代は生え抜きによるモノカルチャーから、マルチカルチャーへと変わり、「風土を変える・意識を変える・環境を変える」を軸として活動している。「風土を変える」では、処遇や評価などフェアな組織を構築し、女性の活躍を支援する組織体制を整備した。「意識を変える」ために、女性の上司となる男性管理職の教育や、「環境を変える」ために、本社移転や小牧工場の新オフィスなども実現させた。
 ものづくり中部では製造業のDX推進が肝要である。匠の技や現場力等の強みとデジタルを融合することで、日本ならではのDXができる。限界を超えるのがDXだ。グローバルで活躍するためにはデータを収集し、現場に落とし込むことが求められる。人口減少が著しい日本で、労働力不足の解決の決め手にもなるだろう。
 CNは気候変動に対する企業の姿勢が問われる時代になっており、リスクを「チャンス」と捉え、事業を通してCNを実現していきたい。施策として、社内カーボンプライジングと社内環境ファンドを整備した。具体的には各事業部で排出されるCO2に対して、社内炭素税を徴収し、社内環境ファンドに貯めて脱炭素設備への投資を行う仕組みであり、社員が活発に脱炭素対策を提案する風土の醸成をはかっている。

最後に

 人生を振り返ると、運だけでは説明できない縁を感じている。「量子もつれ」という現象は、どんなに離れていても瞬時に情報の伝達や、時間を移動するような不思議な動きもあり、タイムマシンも成立する。量子を勉強すると、未来、もしかしたら、過去も変えられるのではないかと思うようになった。今を愚直に素直に、一生懸命生きることで、個人そして同友会のような団体の未来や過去をも変えていきたい。

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【新会員自己紹介】

写真:植竹 伸二氏
火曜グループ
植竹 伸二(うえたけ しんじ)
一般社団法人エンジニアリングブリッジ
代表理事

【一般社団法人エンジニアリングブリッジ】
〒450-6321 名古屋市中村区名駅1-1-1 JPタワー名古屋21階
URL:https://www.engineering-b.com/

■エンジニアの諸課題を「つながり」で攻略したい
 契機はコロナ禍で企業が抱えるエンジニアの交流が途絶えたこと。大勢で自由に話す機会は失われ、新たな発想につながる外部刺激が得られません。急ピッチで進む自動車の構造変革。変化に追随し、さらに付加価値の高い領域に事業をシフトするには、人的リソースが必要になるが、多くの企業はエンジニア不足に苦しみ、企業単体では打開が難しい状況です。その課題をエンジニア同士の「つながり」で攻略したいという思いで、一般社団法人を設立しました。


■エンジニアと企業の「架け橋」となるEngineering Bridge(エンジニアリングブリッジ)
 2022年の4月に設立、7月に本格始動した団体です。活動の4つの特徴は下記4点です。

  1. エンジニアや企業の集いの場を提供(会員会社の交流の場の提供、WEB会員会社紹介、事例紹介)
  2. マッチングサービスを無料提供(不足している技術、エンジニア、製造先、要素技術、販売商社をマッチングし紹介、仕事の山谷を応受援できる相手をマッチングし紹介)
  3. なんでも相談を無料提供(気軽に、なんでも相談を受けます、必要であればコンサルティングを紹介)
  4. 情報共有や教育の場を提供(新人教育、DX、ニーズの高い事例、テーマ研究会の場や情報を提供)

■Engineering Bridgeのマッチングとなんでも相談
 会に寄せられた相談に応えられる企業を紹介することや、交流の場で知り合った企業同士が協業するなど色々な形があります。特徴はデジタルな数字のマッチングではなく、私自身や会員会社の知恵や情報を借りてアナログマチックに質の高いマッチングをすることです。我々はあくまで企業同士を結び付けるだけで、その先は介入しません。技術と仕事のマッチングを実施します。また会員向けの「なんでも相談」は気軽に、あらゆる内容をできる範囲でお応えします。

■信頼できる会員
 入会は基本的に会員様や理事のご紹介をいただき入会のお願いをしています。会員は2月時点で42社。来年6月末までに会員数60社を掲げています。会員は機械・制御・ITエンジニア、商社、意匠デザイン、ドキュメント、翻訳、派遣、コンサルティング、機械・制御要素製造、設備製造、板金・鋳物製造などの様々な分野から参画していただいています。


■自己紹介
 広島県呉市の出身(67歳)です。呉三津田高等学校、広島大学工学部修士課程を卒業後 愛知県刈谷市の豊田工機株式会社に入社、技術畑で工作機械アプリケーション設計や開発業務(TOPセンター、FH45など)に従事しました。光洋精工と豊田工機が合併し、株式会社JTEKTでは執行役員、常務取締役を経て、豊ハイテック株式会社(現ジェイテクトハイテック)の取締役社長を歴任し、2022年一般社団法人Engineering Bridgeを起業しました。
 Engineering Bridgeのロゴマークは、故郷の音戸大橋を基調にエンジニアとエンジニアをつなぐ(e-e)を表現しています。ロゴも会員のデザイン会社様にデザインしていただきました。

写真:広島県呉市の音戸大橋 図:矢印 ロゴ:Engineering Bridge

 当然、広島なので「広島東洋カープ」:熱烈なファン、「お好み焼き」:大学時代の主食、「もみじ饅頭」:宮島の焼きたてもみじ饅頭(藤井屋)…おすすめです。
 好きな言葉は「1日1力1心」:毛利元就の言葉です、「3本の矢」が有名ですが、毎日コツコツと心を一つにして努力するとういう意味と「百万1心」みんなでこころをひとつにすればなんでもできるという意味があります。
 趣味は中学~大学まで吹奏楽をやっていたので、「音楽を聴くこと」(ジャンルは問わず)です。ゴルフは楽しく体を動かすことをメインの100点プレーヤーです。
 この度、キャリオ技研の富田社長のご紹介で入会させて頂くことになりました、よろしくお願いいたします

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【3月度産業懇談会のご案内】

 3月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 3月度水曜第1グループと水曜第2グループおよび木曜グループにつきまして、全てのグループの皆様にご案内しております。
 所属グループに関わらず先着順で受け付けしていますので、ご参加を希望される方はお早めにお申し込みください。

 定員は引き続き、先着30名を目安に、会場収容人数の50%となるよう運営します。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

3月14日(火)
12:30~14:30

『agleaf クルマから農業へ 新規事業への挑戦』
フタバ産業株式会社
特別顧問 吉貴 寛良 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

3月15日(水)
12:30~14:30

『企業DX推進及びDX人材育成のためのSansan社の取り組みについて』
Sansan株式会社
支店長 酒井 亮平 氏

若宮の杜
迎賓館
1階 橘の間

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

3月8日(水)
12:30~14:30

『我が社の人材戦略』
阪和興業株式会社
名古屋副支社長 川口 敏弘氏

若宮の杜
迎賓館
1階 橘の間

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

3月2日(木)
12:30~14:30

『東急ホテルズのご紹介及び賢い宿泊予約』(仮題)
株式会社名古屋東急ホテル
東急ホテルズ中部エリア統括
執行役員総支配人 斉藤 克弥 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

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【4月度産業懇談会のご案内】

 4月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 定員は引き続き、先着30名を目安に、会場収容人数の50%となるよう運営します。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

 会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

4月11日(火)
12:30~14:30

『コロナ禍での中小企業生き残り支援~事業再生の現場から』
株式会社 事業パートナー東海
代表取締役社長 青木 陽 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

4月19日(水)
11:30~14:30

『カゴメ株式会社本社 見学会』

レストラン&カフェ「東洋軒」(名古屋栄三越9階)
お車でのご来場をお控えください。

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

4月12日(水)
12:30~14:30

『新規アイデアを採用し過ぎてるIT企業の失敗と成功』
株式会社エーオー
代表取締役 青野 豪男 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

4月6日(木)
12:30~14:30

『新規事業創出~金型屋が型を破るまで~』
株式会社エムエス製作所
代表取締役会長 迫田 幸博 氏
代表取締役社長 迫田 邦裕 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

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【コラム】

コラム1 【さっかの散歩道】 No.56

長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子

『 誘惑しないチョコレート 』

 街中の女性が、チョコレートショップの紙袋を幸せそうに持ち歩く姿を横目に、毎年購入するショップと商品が決まっている私は、ぜーんぶまとめてエコバックに入れて持ち帰るという、色気も可愛げもない「お買い物」をしている。私にとってのバレンタインデーは、いつのころからか男女問わずお世話になった皆さんや、社員への感謝の気持ちを込めて贈るサンクスギフトになっている。自分へのご褒美が主流な昨今、いかんせん甘いものよりワインが好きな私は、それでも自分の中で「世界三大美味しいチョコランキング」があって、そのブランドのチョコだけは、年に何粒か食べたくなる。残念ながらそのうち2つのブランドは通常出店がなく、バレンタインイベントに合わせて日本のどこかのデパートに出店するので、それを追っかけることも多々あったりしたのだが、ショコラティエ全盛期だけに、今年は大好きな老舗ブランド1店の出店がなく、「あー、スイスの本店、久しぶりに上陸したいなあ」とチョコレート工場直営の本店ショーケースを想像していた。
 買い物を終えると、友人のワインバーで、今年のチョコレートの傾向とか賑わいをつまみに寄り道シャンパンをするのがルーティンなのだが、今回はオーナーが真顔でシャンパンを注ぎながら「ゆみ子さんお願いがあります!」と切り出した。聞くと、バレンタインデーイベントで来日したフランス人ショコラティエが、この後食事に来るという。で、是非とも彼のチョコレートパッケージにサインをもらいたいので、フランス語でお願いしてくれないかと、カウンターに彼のチョコレートが山積みになっている。「これ全部??」「いえ、2~3個でいいので、とってもその方のチョコレートのファンだという体で」「まあ、それくらいはお安い御用ですが、私、この人のチョコレート食べたことないけど」「平気です!!」って何が平気かよくわからないけどご本人登場をしばし待つことになった。

写真:ショコラティエと屬氏

当然通訳もついてくるし、ご接待もいるので、邪魔しないタイミングをお店に指示してもらうべく、来店時間まで一時間、一人シャンパンを堪能中、1杯目を飲み干す頃にオーナーの奇声「うわっ!!もう来た、( ̄▽ ̄;)早すぎ!!」
 そんなドタバタの中、タイミングよくお席を離れる瞬間を見計らいサインをお願いすると、快く3箱書いてくださった。チョコ好きな方ならこのオジサマが誰かお分かりになるだろうが、大変な紳士で、職人さんで、今流行の若干チャラいモテ系のショコラティエとは一線を画していらっしゃる。私のフランス語がオジサマ受けするのもあってか、大変機嫌よく書いてくださった。お店からはその3箱のうち2箱をお礼にと頂いたのだが、今回そのチョコレートも、お世話になった方にお渡しした。どなたの手に渡ったかは内緒。もしかして気づかず捨てられたかもしれないけど。

 もともと、セント・バレンティヌスという聖職者は、チョコレートとは全く関係がなくて、彼が処刑された日が2月14日だったから、それを悼む日がローマで「大切な人に花を贈る日」という慣習になったという。バレンティヌスとしては、天国でこの日本の盛り上がりをきっと微笑ましく見ているに違いない。なぜ処刑されたか?それがチョコレート告白につながった一因かもしれないが、ローマ時代若い兵士が結婚をすると戦場に行きたがらなくなるので、ローマ国教会は兵士の結婚を禁止していた。ところがカトリックだった彼はこっそり結婚式を行い、尚且つローマ国教会に帰依しなかったことで投獄、処刑と相成ったのだという。愛しあう若者達にその死を悼まれ、命日に花を供えたのだという。~だから恋人同士のって、んでもって告白って、M社のマーケッターに脱帽。

 私の好きな世界三大チョコの一角、スイスのメーカーを知ったのは、フランスで大学サボってスキー三昧していた頃に遡る。以前お話した、フランスとスイスの国境にあるAVORIAZのスキー場にはジュネーブからバスかタクシーを乗り合わせて登って行くのだが、山に入る前日、チョコ好きでスキー好きの友人と街中を散歩しているとき「ゆみ子さん!!見つけました本店です」と腕を引っ張られて店に入ったのが初めてだった。決してお安くない手造りチョコレート、「山で遭難してもいいように(個別包装じゃないのにねww)何個か買いましょう」「ま、お土産用ってことで」と何個か(と言っても結構買い込んだ)のが始まりだった。行きのバスで一粒つまむと、とにかく美味しい。山から下りるころにはすっかりお土産用にも手を付けていて、帰りに再び寄ったのを思い出す。後にも先にもあんなにチョコレートを食べたのは初めてで、そのお陰かスキー場でホワイトアウトしても怪我無く部屋に戻ることができた~と、友人は誇らしげだった。
 その友人、本当にチョコ好きで、部屋には必ず板チョコ5枚パック(3ユーロ)が常時5~6個ストックされていた。スキーに行くときは有言実行、遭難用に必ず一枚バックパックに入れていたのだ。ある日大学近くのスキー場に日帰りで行くことになり、こういう場合皆ランチはピクニック用のサンドイッチなど持参するのだが(ローカルのスキー場は面白いルールがいっぱいあります)その日の彼女は満面の笑み「ついにこの日が!!」と自分のサンドイッチについて説明を始める。「まず、バゲットを三分の一の長さに切る、そこに切れ目を入れ、板チョコを丸ごと挟み、ニュテラ(ピーナツバター)を載せオーブンで焼く、極上板チョコサンドや~」
 ゲレンデのピクニックエリアは雪の中にあって、ランチタイム、各々バックから自分のパニエ(お弁当)を出すのだが、食べ始めるとウキウキだったチョコサンドの彼女が固まった。
「どうした?」「噛めへん…」
近場のスキー場とはいえここはアルプス。標高1500mでも気温は-13℃前後、お日様が近いから寒くは感じないけど、外は冷凍庫。そこで散々滑っていれば、せっかく溶かした板チョコも、再凝固、しかも一回溶かした分だけいびつに固まる。
 でもそこはフランス、みんな優しい。ひと笑いしてから「じゃあそれ、帰ってからデザート用に温めよう、みんな、彼女にランチおすそ分けしよう!」氷点下で心温まる一幕だった。

 心残りはスイスのチョコレート、年内に買いに行けたらよいのだけど。どなたかジュネーブに行く予定のある方、お土産よろしくです!!

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コラム2 【師、曰く】 No.21

妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)

ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメント、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を今回も一筆。

『 人の価値 』

 2月14日、自動車業界を国内のみならずグローバルに牽引された、豊田章一郎氏が逝かれた。若くして取締役の重責を担い、日米貿易摩擦時代の荒波の中、経営者として日本車のグローバル化の礎を築かれ、さらに日本の経済界を牽引された巨星。心からご冥福をお祈りいたします。その足跡に尊敬の念を抱くとともに、ふと、師の言葉が心に浮かんだ。

 田坂講義は、人の生死という視点で語られることが多いが、重さをもって語られることの一つが、「人の価値」。「人は、その人の棺(ひつぎ)の蓋が閉まるとき、その人の価値が決まると言われる。しかし、そうではない。」と。その人が成し遂げたことが、その人の価値ではないのか。否、人の価値とはそういうものではないと言われる。その後に続く言葉が、胸を打つのだ。

 師、曰く『「人の価値」とは、“その人”の棺を担いだ人たち、つまり、“その人”が“育てた人たち”の棺の蓋が閉まるとき、“その人”の本当の価値が決まるのだね。』

 例えば、心を込め私を育ててくれた親、一期一会の真剣勝負で私を育ててくれた師、“その人”の価値は、“育てた人たち”の一人である私の生き様が決めるのだ。愛念をもち私を育ててくれた“その人”の価値を、貶める生き方はできない。その責任を感じた。そして、私もまた、そうやって子や若者たち次の世代を育てることが、“その人”の価値を高める恩返しなのだ。親から受けた恩は子に返せ、先輩から受けた恩は後輩に返せ、なのだ。

 田坂先生の教えの真髄は「志」。『野心は、己一代で何かを成し遂げようとする願望。志とは、己一代では成し遂げることができない、素晴らしき何かを次の世代に託す祈り。』人の価値とは、その人に限ったことではない。その人が志を託し育てた人たちが、その志を受け継ぎ生き、次の世代を育て、そうやって代々受け継がれてゆくものなのだ。私自身の生き様は、私を育てた“その人”の価値を背負っている。そして、次の世代の人たちを育てることで、その価値をさらに高め、志は受け継がれてゆくものなのだ。

 今の私は、その恩に報いる生き方をしているだろうか。私を育てた敬愛する“その人”の恩に報い、価値を高められるよう、精一杯に今を生き、次の世代の人たちに向き合い、育ててゆこうと思う。そうやって価値ある思いや志が代々受け継がれ、次の世代がより良い未来を生きられることを、祈る。修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

写真:火祭り
(三河鳥羽の火祭り)

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コラム3 【「ほん」のひとこと】 No.172

株式会社 正文館書店 取締役会長
谷口正明

『 日本人の道歌 』
櫻木健古著・ともいきの国出版刊

 道歌とは、「人が踏みおこなうべき道を示した短歌」のことです。道歌だけを集めた本は他にはないようです。

著者の言葉より

  • 道歌には、作者不明のものと、作者がわかっているものとの二種類がありますが、「民衆の生きる知恵を口から耳へ伝える」という道歌の本質からいって、前者が主体をなすことはいうまでもありません。誰が言いだしたのかわからない、というところにこそ、民衆の知恵としての道歌の重みがあるわけです。
  • 道歌のなによりの良さは、“平凡”ということにあります。平凡だから普遍性にも富む。しかも、たんなる平凡ではなくて、「非凡なる平凡」といえる。凡々たる歌は、作られても、口承されることがなかったはずであるからです。

採り上げられた約二百の歌の中から二首のみご紹介します。

  • 父母もその父母もわが身なりわれを愛せよわれを敬せよ(二宮尊徳)
  • 欲ふかき人の心と降る雪はつもるにつれて道を忘れる

後の歌は、古今亭志ん朝が「夢金」で使っていました。

*この本は、昭和五十年にKKベストセラーズより刊行された『死生一回 三十一文字の人生論』を再編集したものです。

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