【4年9月度 産業懇談会(水曜第1G)模様】
テーマ: 『 これからのコロナウイルス感染症対応とこども政策の推進 』
- 日 時:令和4年9月21日(水) 12時30分~14時30分
- 場 所:名古屋観光ホテル 桂の間
- 参加者:26名
自己紹介
1974年に岡山県で生まれ、慶応義塾大学大学院政策・メディア研究科を修了し、一般企業に入社した。2005年の衆議院総選挙(郵政解散)の時に初めて衆議院に立候補し、厚生労働副大臣や厚生労働大臣政務官、自由民主党厚生労働部会長、外交部会長を歴任した。現在は、衆議院厚生労働委員長や自由民主党 社会保障制度調査会 事務局長、自由民主党「こども・若者」輝く未来創造本部/会議 事務局長を拝命している。新型コロナウイルスが確認された当時、厚生労働副大臣を務めており、新型コロナウイルスの初動対応を行った。本日は、ダイヤモンド・プリンセス号における初動対応と、来年度創設するこども家庭庁についてお話をしたい。
ダイヤモンド・プリンセス号の初動対応
ダイヤモンド・プリンセス号は、乗客乗員合わせて約3700名が乗船する大型のクルーズ船である。ある乗客が香港で新型コロナウイルス感染症を発症したことで、香港政府から日本政府に通達があり、新型コロナウイルス感染症の対応が急遽必要になった。横浜にクルーズ船が到着後、PCR検査を実施した31名のうち10名の陽性が判明し、下船せず船内で検疫を行うことになった。乗員乗客は船内での待機が必要となったため、常備薬の供給手配や体調不良者の医療機関への搬送など翻弄された日々を送った。船内の状況を正確に把握するために、大臣にかけ合い私自身も約3週間船内に入り初動対応を指揮した。
濃厚接触者の宿泊施設への移動や、検疫を終了した乗客より順次下船を開始し、約1ヶ月をかけて全ての乗員乗客を下船させて任務を終えた。第1の目標は、新型コロナウイルスを国内に持ち込まないことで、結果として、ダイヤモンド・プリンセス号由来のウイルスは国内で検出されず終息させることができた。
船内で陽性が判明した場合は隔離する必要があるが、部屋数が限られているため、同室者間の感染を防ぐことが非常に困難であった。新型コロナウイルス以外の患者も含めて700名以上に及ぶ救急搬送を行い、船内での病死および関連死を防ぐことができた。しかしながら、支援した検疫官やDMAT隊員らの感染を防ぐことはできなかった。また、未知なるウイルスと戦う中で、厚生労働省による日々の新規感染判明者数の公表は、船内で感染拡大が継続しているという印象を広めてしまった。実は感染症の専門家による教育を行った結果、新規発症者数が減りその効果を感じた。感染防止対策の重要性を認識できたことは、以後、感染対策を進めながら社会を動かすための新しい生活様式の基礎を固めることに繋がった。
新型コロナウイルス対応からの学び
新型コロナウイルスは、厄介な敵である。その理由は、発症前から感染力を持ち、インフルエンザや風邪と症状が似ており、特徴的な症状がないために陽性者の判断が困難だからである。また、三密が重なると大きく感染力が上がる。致死率が高いウイルスは感染拡大の可能性は低いが、新型コロナウイルスは、ほどほどの感染力で、ほどほどの重症化率・致死率を持つ。基礎疾患のある人や高齢者に偏って重症化リスクが高く、若者は軽症のため感染を周囲に広げやすい。免疫は感染やワクチンによって高められるが、一時的で効果が長続きしない。さらに、特異的に効く経口薬がないことから厄介なウイルスである。様々な情報が提供される中で、科学的根拠に基づいた情報で判断する必要がある。現在接種しているワクチンは、重症化リスクを減らすことができる。統計的なデータから効果を判断してほしい。
感染対策は多重的に考えるべきで、まず、身体の免疫力の強化(睡眠・栄養・ストレス発散等)が大事である。その上で、手洗いやマスク装着など個人の行動変容と、換気やソーシャルディスタンスなどの環境対策が求められる。様々な感染対策を組み合わせ、コストとリスクを考えながらリスクを下げていくことが現実的である。
新しい薬やワクチンを開発する場合、日本では治験が必須である。海外は国民皆保険ではないため治験への参加者が多いが、日本は皆保険のためリスクをとって新しい薬の治験に参加しにくい。そのため、今後、よりすみやかな新薬の承認のためには治験の国際相互認証制度の導入が必要ではないか。イスラエルでは米国における薬やワクチンの承認と連動しており、いち早くワクチン接種を開始できた。
ワクチンや感染による免疫効果が一時的という現時点の状況を前提にすると、第8波が発生することは間違いないだろう。感染の波が来たときに、普通の感染症と同等の扱いが許容されるようにしていかなければならない。経口薬が常備され、医療が重症化した人に注力できる体制が構築されれば、行動制限も不要となる。現行の感染症法等に不備があったため、次の感染症危機に備えて改正することを検討している。
子どもをめぐる現状(こども家庭庁創設に向けて)
子どもを取り巻く状況は、いじめ、虐待、不登校、格差、DV、待機児童など様々な問題が密接に関連しているにもかかわらず、担当する府省庁がバラバラに対応している。子どもが健全に成長し大人になるまでの一連の過程において、子どもに関する政策を網羅的、一元的に把握し、司令塔となる府省庁が必要である。この役割を果たすのが2023年4月に創設される「こども家庭庁」である。児童生徒自殺者数は統計以来過去最高となり、児童虐待やいじめも増加している。加えて、子どもの精神的幸福度はOECDの中で38カ国中37位、日本の家族関係公的支出は対GDP比で低く、子どもに対する支出が少ない状況である。
こども家庭庁発足の経緯は、自由民主党の若手議員を中心に「CHILDREN FASTの行政のあり方勉強会」を発足させたことがきっかけで、現場の生の声をもとに、教育費の負担軽減や公教育の質の向上など様々な課題を浮き彫りにすることができた。これらをまとめて菅総理(当時)に提言書を提出した。こども家庭庁は、年齢や制度の壁を克服した切れ目のない包括的支援をイメージしている。子どもへの政策を転換する大きなタイミングであると捉えており、しっかり取り組んでいくため、引き続き応援していただきたい。
【産業懇談会4グループ合同懇親会模様】
- 日 時:令和4年10月4日(火) 17時30分~20時00分
- 場 所:名古屋マリオットアソシアホテル 16階 アイリス
- 参加者:61名
- 公演者:落語家 笑福亭鶴笑氏/江戸曲独楽回し 柳家三亀司氏/講談師 旭堂鱗林氏
今年度の産業懇談会 4グループ合同懇親会は、火曜グループの企画で「即席寄席」を開催した。落語家の笑福亭鶴笑氏、江戸曲独楽回しの柳家三亀司氏、講談師の旭堂鱗林氏をお招きし、日本の伝統芸能を披露頂いた。
はじめに河村世話人代表が開会挨拶を行い、その後、深田世話人より公演者の紹介が行われた。トップバッターを務めた旭堂鱗林氏は、「芸所名古屋」を題材に、なぜ芸所名古屋と呼ばれるのか、その所以についてテンポのある力強い語りで心地よい笑いを会場全体にもたらした。続いて柳家三亀司氏は、江戸曲独楽回しの技である「末広」、「刃渡り」、「糸渡り」、「衣紋流し」など数々の華麗な技を目の前で披露し、難易度が高い技を意図も簡単にこなす姿と技の合間の漫談が印象に残った。そして、トリを飾ったのは笑福亭鶴笑氏。パペット落語として世界で活躍する鶴笑師匠は、手足にはめたパペットを用いて体全体を使った躍動感のある落語を披露し、巧みな話術に魅了された。それぞれの公演者は独特の「間」を持っており、この「間」が聴衆を惹きつけるために重要であることを、日本の伝統芸能から学ぶ機会となった。
最後に、尾堂筆頭代表幹事、大倉世話人代表、広井世話人より花束贈呈が行われ、即席寄席は幕を閉じた。その後の夕食懇親会は、新型コロナウイルスの感染対策を施し3年ぶりに開催され、公演者を交えて多くの会員が交流できた楽しい会となった。
【12月度産業懇談会のご案内】
新型コロナウイルス感染症のリスク回避の観点から、ご参加は「ご所属グループのみ」に限定させていただきます。
また、会場の収容人数を勘案し定員を設けさせていただきます。
火曜グループは現在定員に達しております。キャンセル待ちをご希望の方は、事務局までご連絡をお願いいたします。
なお、今後も情勢を注視し、開催可否および運営の変更を行う可能性がございます
予めご了承ください。
会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。
グループ名 | 世話人 | 開催日時 | 会場 |
---|---|---|---|
火曜グループ |
富田 茂 |
12月13日(火) |
料亭蔦茂 |
水曜第1グループ |
淺井博司 |
12月21日(水) |
あつた蓬莱軒神宮店 |
水曜第2グループ |
大倉偉作 |
12月14日(水) |
エルダンジュ名古屋駅店 |
木曜グループ |
河村嘉男 |
12月1日(木) |
札幌かに本家栄中央店 |
【産業懇談会「代表幹事講話」ならびに「新年合同懇親会」のご案内】
平素は産業懇談会活動にご協力いただき、誠にありがとうございます。
毎年恒例の産業懇談会4グループ新年合同懇親会を、下記の通り開催いたしますのでご案内申し上げます。
今年度は、尾堂筆頭代表幹事からご講話をいただきます。また、年の初めに、産業懇談会のメンバーの皆様に親睦を深めていただきたく、あわせて新年合同懇親会を開催いたします。
是非とも多数ご出席くださいますようお願い申し上げます。
なお、今回もコロナ感染拡大回避の観点から、産業懇談会の会員に限定させていただきます。
何卒ご理解、ご協力のほどお願い申し上げます。
- 日時
- 令和5年1月24日(火) 17:30~20:00
17:35~18:35 尾堂筆頭代表幹事ご講話
18:45~20:00 新年合同懇親会 - 場所
- 名古屋観光ホテル 3階 那古(東中)の間
- 講師
- 尾堂 真一 筆頭代表幹事(日本特殊陶業株式会社 取締役会長)
- 演題
- 『持続可能な社会を目指して~変革の時代を迎えて~』
- 参加対象
- 代表幹事及び産業懇談会会員ご本人
- 定員
- 産業懇談会会員 88名(先着順で受付致します。)
(本会方針および会場の収容人数から定員を設けさせていただきます。) - 懇親会費
- 10,000円(飲食代)
(当日、講演会場受付で頂戴いたします。講話のみご出席の場合は会費不要です。
講演のみの方は、会員専用ページの「事務局への連絡・お問い合わせ」欄にご記入をお願いいたします) - その他
-
- 食事の手配など準備の都合上、ご出席の場合は会員専用ページより1月13日(金)までに必ずご登録をお願い致します。(代理出席はできませんのでご留意ください)
- お申込後のキャンセルは、1月19日(木)までにお願いいたします。それ以降は、会費を申し受けますので、予めご了承ください。
- 本件連絡先
- 中部経済同友会事務局 担当:鶴田・菱川 Tel:052-221-8901
本会会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。
【コラム】
コラム1 【さっかの散歩道】 No.53
長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子
『 失せもの 』
先日、西日本の経済同友会の会員が集う山口での会合に参加するため、久しぶりに山陽新幹線に揺られて3時間の道行き。神戸を超えるのは果たして何年振りだろう。左に瀬戸内海のゆらめきを楽しめると思っていたものの、少ない平地を西に貫く線路は、その半分近くがトンネルだ。以前「新潟新幹線は、軽井沢超えると行方不明になれるんだよ~ずっとトンネルで電波届かず、携帯つながらないからね」と言われたことを思い出したがーそっか、ここもか…。とはいえ、秋ただ中の瀬戸内、合間に見える山の頂上は少しずつ色づき始め、季節の移ろいを感じさせてくれる。
それこそ、山口県に降り立ったのは、父の納骨(名古屋と分骨し、半分は山口のど田舎にある本家の菩提寺に眠っている)以来、15年振りである。山口に行くならと、年老いた母から菩提寺と墓守をしてくださっているお宅にお供えを持っていくようにと事つかり、往路から土産物を担いでの到着だ。そのまま会場入りをし、藻谷さんの《クセつよ》講演会と討論会、懇親会;ちょっとトラブルあったけど、を済ませ、当日宿泊の有志の皆さんと山口飯で軽く一杯。「何が美味しいの?」と聞かれ、「サバ(大分の関サバは有名ブランドだけど海に県境はないのだ)鯛、特に鯛茶漬け。お土産買うなら、これまた母のお願いでもある練り物『白銀』の金ちくわに蒲鉾、山口ういろうの『豆子郎』」などと、子供のころから慣れ親しんだ食べ物をつらつら並べて答えつつ、自分の味覚は名古屋に住まいながらも半分は山口で出来ているのかも知れないと実感した。
翌日、駅前でレンタカーを借りて菩提寺に向かう。田舎とはいえバイパスだの高速だのが整備され、崖っぷちの山道で対向車を気にしながらの運転をしなくて済んだ。こんな田舎までちゃんと道の整備が行き届くなんて、お国の真ん中に長州出身の方がいるということはなんと有難いことか(と地元の人は思っているだろう)。とは言うもののうちの田舎に近づくにつれ、未だに50年前とほぼ変わらぬ風情だ。エコノミーカーをレンタルしてよかった、いやもしかしたら軽自動車の方が良かったかも、と思いながら現着。住職は生憎の留守だったが、仏花を持って墓地までうる覚えの山道を上がってゆくと、ご近所さんが声がけをしてくださる。
「屬さんのところですか、ご苦労様です」
墓守をお願いしているお宅だけでなく、ご近所の方もいつも手入れをして下さっているという。本当に有難いことで(しまった、お土産一つ足らん)と心で詫びながら、深々頭を下げる。墓守のお宅は寺の参道、と言っても猫道のような裏道の入り口にある。このお宅は親類ではないが、父が子供のころお世話をして下さっていた小母さまのお宅だ。私も大好きな小母さまで、数年前に天寿を全うされていた。当時はご焼香にも伺えず、不義理をしたのでご仏前に襟を正して手を合わせる。ご縁は季節のやり取りで繋がってはいても、こうして直接お目にかかることはやはり大事なことで、お互いが心の深いところで思いやる気持ちは、心穏やかに清み澄む。良い訪問をさせていただいた。しみじみしながら帰路に就く。
あとは新幹線に乗る前の、母のお使いだけだ。
『白銀』の本店は防府市内にある。直営店でないと買えないセットがあるので、ここで重量感のある練り物をたんまり買う。近くには明治時代に井上馨が建てた毛利庭園がある。電車の都合でお庭のみの散策とはなったが、かれこれ50年振り?こんな優美な所だった?と消えかけている記憶を辿りながら、紅葉が始まった池の周りを一周する。次回はもう少し時間に余裕をもって建物内や展示物も見て回ることにしよう。
新山口から乗った新幹線は、途中新大阪駅で満席となる。空いていた隣の席にやってきたのはなんと吉本の有名芸人。とはいえ話すきっかけもなく私は京都駅で途中下車した。その理由、寺町にある扇子屋に行って扇子を買うため。こんな季節外れに扇子ですかと笑われそうだが、実は先月末、今年の節分明けに購入した新しい扇子を無くした。出張先で倒れて、ちょっとばかり大変な怪我をして、ま、今となっては笑い話なのだが、その時どうも扇子が失せたらしい。身代わり観音、身代わり地蔵、はたまた南米のミサンガなど、災厄に見舞われた時や願望成就の時、それまで守ってくれた『身しるし』が身代わりとなるということは意外に皆さんも経験があるのではないだろうか。どうやら今回の怪我はすんでのところで命拾いしたということらしい。一歩間違えば「女性経営者駅前ホテルの部屋で変死体で発見」になってた可能性があったとドクターに言われた。「いやだ~先生、美人経営者ってことにしてくださいよ~」とウケを狙うと「笑い事ではありません!!」と叱られた。
怪我の後、家に帰って何日かして、扇子がなくなっているのに気が付いた。これはやはりただ事で無かったということか。感謝の意味を込めて新しいのを買い求めよう。親父供養の帰りなら、より強力なご利益がありそうだし!
ところが、寺町につくと辺りはすっかりシャッターが下りていて、時刻はすでに18時を回っている。もしや、扇子屋もすでに閉店か??
山口での清らかな気持も忘れ、ご利益の欲なんかかくからこういうことになる⤵⤵( ;∀;)
また、改めて出直そうと気持ちを切り替え、最終新幹線の時間まで、友達の店でワインに興ずることにした。やっぱり私は解脱できぬ俗人だぁ。
コラム2 【師、曰く】 No.18
妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)
ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメント、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を今回も一筆。
『 無 』
一時期、店頭から一冊も見当たらない程、ベストセラーになった著書 『死は存在しない』。若かりし頃、大病と正対し、生と死を見つめ生きてこられ、そして、71歳、書くべき時が来たのだ。 『死は存在しない』が書店に並んだ日に手にし、一気に読み進めたその内容は、まさに書くべき時が来た内容に思えた。田坂講義の集約にも思え、長年の体験のなかから得られた田坂先生の真実であり、そこに共感する者にとっての真実になり得るものだった。そこに書かれていたことを、私が要約するなどおこがましいが、かつて田坂先生の言葉でずっと引っ掛かっていた一言、その答がそこに書かれていた。それは、「無」。現代科学が説く死は、無。死んでしまえば何も残らない、無。かつて、田坂先生の言葉に、その「無」があって、違和感とともに困惑し、だからこそ、ずっと疑問が心の片隅に残っていた。
スウェーデン海洋学者オットー・ペテルソンが93歳で亡くなる直前、同じく海洋学者であった息子に残した言葉がある。「死に臨んだとき、私の最期の瞬間を支えてくれるものは、この先に何があるのかという限りない好奇心だろう。」田坂先生は、その言葉に深い共感を覚え、静かな勇気を与えてくれることを感じると共に、全く逆の思いが、心に浮かんできたという。「自我というものを与えられ、多くの喜びと悲しみを味わった、この生が最後に「無」に帰していくことの安らぎ。その思いも、我々の最期の一瞬を支えてくれるのかもしれない。」自我(エゴ)ゆえに、喜怒哀楽を味わう。その通りだろう。しかし、田坂先生の言われる「無」が、いわゆる死ねば何も残らないという、現代科学の説く「無」ではない気がしていた。その「無」とは何か?著書『死は存在しない』に、その答があった。私なりに解釈すれば、死は無となるが、無ではない。
無論、ネットの書評も、様々な意見が書かれている。著書は、直感に根ざした仮説を解いているゆえ、当然だろう。仮説とは、文字通り、実証されていない考え。仮説に対しての立ち位置は、当然、正反共に存在する。だからこそ、様々な声に、どこまでも謙虚であるべきだろうと説いておられる。講義で繰り返し話された言葉を思い出した。「知能」とは、「答えの在る問い」に対して、いち早く答えを見い出す能力のこと。「知性」とは、「答えの無い問い」に対して、その問いを、問い続ける能力のこと。生涯かけて問うても、答えなど得られぬと分かっていて、それでも、その問いを問い続ける能力のこと。死とは何か、私とは何か、答えのない問い、それを問い続ける知性を持ち続けていきたい。そして、未来、仮説の一つ一つが実証され、その問いの答えが一つ一つ解き明かされる時代が来ることを、待ちたい。既にその時、私は、「無」に帰しているだろうが。
修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
コラム3 【「ほん」のひとこと】 No.169
株式会社 正文館書店 取締役会長
谷口正明
『 高峰秀子ベストエッセイ 』
高峰秀子著・ちくま文庫
大女優は名文家でもありました。日本エッセイスト・クラブ賞を受賞した『わたしの渡世日記』を始めとする数多くの作品の中から選りすぐりのエッセイを、養女で文筆家の斎藤明美が編んだものです。
「二十四の瞳」の大石先生や「喜びも悲しみも幾歳月」の有沢きよ子とは異なる、素顔の高峰秀子を垣間見ることのできるエッセイ集です。