コラム2 【師、曰く】 No.12
妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)
ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメントの応用、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を、今回も一筆。
『 もう一つの生態系 』
「自然の生態系」を破壊し地球温暖化をもたらす環境問題だけでなく、「もう一つの生態系」の問題があるという。ロシアのウクライナ侵攻の悲惨なニュースを目にするうち、しばしば講義で話されたこの話を思い出した。その語りは、そのまま田坂先生の「風の便り」というメール便に、簡潔明瞭に記載されている。転送を許されている「風の便り」から転載させて頂く。(田坂広志「風の便り」五季 第130便より)
もう一つの生態系
1991年、アメリカのアリゾナ州の砂漠で、
一つの壮大な実験が行なわれました。
それは、巨大なガラス製のドームの中に、
水や空気、土壌とともに、3800種類の動植物を持ち込み、
外界とは完全に隔離された「生態系」を人工的に創りあげ、
その生態系を維持し、管理しようとする実験でした。
しかし、海や砂漠、熱帯雨林まで模擬した、
この「人工生態系」の実験は、
酸素濃度の低下や、生物の死滅、
虫の大量発生などの問題に直面し、
その計画を中止する結果となりました。
この「バイオスフェア2」と呼ばれる実験プロジェクトは、
人間が自然の生態系を管理することの難しさを
明瞭に教えてくれたものとして、
世界的によく知られています。
しかし、この生態系の実験には、
もう一つの失敗があったことは、
あまり知られていません。
この実験に参加した8人の研究者たちは、
外界から隔離されて生活した2年間の実験期間中に、
互いの意見が衝突し、感情的な不和が生まれ、
共同生活を営むことができなくなってしまったのです。
このエピソードを知るとき、
地球という惑星において、
我々人類が賢明に処していかなければならない
もう一つの生態系があることに、気がつきます。
「心の生態系」
いまもなお、
異なった人種、異なった民族、
異なった国家、異なった宗教が
互いに争いあう、この地球。
この惑星において、我々が本当に学ぶべきは、
もう一つの生態系に処する
深い叡智なのでしょう。
2004年6月21日
田坂広志
争いの絶えないこの世界、まだ人類の「前史」に、我々は生きている。そう、田坂先生は言われる。人類の真の歴史はまだ始まっていない。真の叡智で生きるようになって、初めて人類は本来の歴史を歩むだろうと。人間はエゴを持っている。そのエゴによって傲慢にもなり、人を支配しようとし、争い、殺し合う。一体、いつになれば、戦争がなくなり、人類の歴史が始まるのだろうか。「小さなエゴ」、「志、使命」、「人生の三つの真実」、「不動心」、「解釈力」、「行きつ戻りつ」、「瞑想」、「感謝」、「感性」、「螺旋的発展」、「小話」で反芻し、まだまだある至言の一つ一つを、私達が実践し、一歩一歩前進して初めて、田坂先生の言われる人類の歴史が始まるのだろう。一人の人生からみれば、気の遠くなるほど、先の未来なのかもしれない。
修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
(ラグーナビーチ)
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