コラム2 【師、曰く】 No.11
妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)
ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメントの応用、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を、今回も一筆。
『 小話 』
田坂講義では、時折、ウィットに富んだ小話や、皮肉を込めた小話で、日頃のピンと張りつめた空気が和む一瞬がある。
ローマ帝国の独裁者シーザーと腹心ブルータスが、珈琲の品評をしている。シーザーが一口飲み、通ぶる。「香ばしい香りのブラジルも捨てがたいが、やはり、酸味と苦み甘みのバランスが絶妙なブルーマウンテンだな。お前もそう思うだろう。ブルータス。」 視線を外すブルータス。「違うと申すか!」声を荒げるシーザーに、ブルータスは珈琲を掲げ、「まろやかなコクとほのかな酸味。私の愛する珈琲はこれです!」がっくり膝を落としたシーザーが、最後の一言。「ブルータス、お前 モカ・・・」
田坂講義は経営者やマネージャー、リーダーの集まり。権力の執行者が集まっている。であるがゆえに、権力の執行者が陥る落とし穴に対して、非常に厳しい。裸の王様という寓話がある。権力の及ぶ従者達は、その目に何も纏っていないと映っても、王が「どうだ、この高貴な私に相応しい衣装は!?」と得意げに尋ねると、「素晴らしいです!」と、忖度し言う他はない。しかし、権力の及ばない町の子供は、「なんで王様は裸なの?」と素直に問う。似たようなアネクドート、小話がある。ある国でクーデターが起こった。新たな独裁者となった者が、民衆が自分を受け容れているのか知りたくなった。そこで、労務者に扮装し、街の映画館に入った処、自分の政権の宣伝広報が流れた。すると、周囲の民衆は皆総立ちして拍手が鳴り響いた。自分はこれ程までに民衆に受け容れられていたのかと、満面の笑みを浮かべ、満足気に周囲を見渡していると、隣に立っていた男が言った。「おい、おっさん、拍手しな。拍手しねえと、殺されちまうぜ。」
毎年1月に開催される世界経済フォーラム年次総会、ダボス会議。例年参加されていた田坂先生は、2009年、某専制国家元首の基調講演を聴講された。ダボス会議を冠する著書にも記されているが、登壇した姿が、妙に威厳をもたせ、虚勢を張っているように見えたという。一流と目される聴講者は、登壇者が何を話すか以上に、「人物」なのか、はたまた小心者なのか、一挙手一投足を見てじっくり品定めしている。企業の経営者が登壇すれば、その評価で会社の株価まで左右される。登壇者のプレッシャーは並々ならぬもの。専制君主は、自国で演説をぶれば、民衆は皆、本音か否かは別として総立ち拍手する。皆、自分の従僕だという安心感のなかで喋ることができる。しかし、一歩外に出れば、裸の王様なのだ。「おい、おっさん」と言われるかもしれない。ダボス会議では、登壇者は内面の緊張と虚勢、人物の器をシビアに見抜かれる。
権力の執行者は、「人物」であらねばならない。権力を持とうが持つまいが、市井の私も「人物」に近づくべく、悪戦苦闘しながらも、魂を磨く努力を怠るまい。修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
(名古屋支社からの展望、美しい名古屋の街並みと名古屋城)
|