■自己紹介
日本道路公団に就職し、30代後半から40代前半までは課長補佐として建設省道路局高速国道課に出向した。高速道路を計画立案し、道路公団に引き渡すまでを担当していた。道路整備計画を立案する審議会の会長は総理大臣だが、国会議員の先生方への根回しも行っていた。また、様々な方が大臣や副大臣に陳情に来られるが、その状況を大臣に説明するのも課長補佐の仕事の1つであった。道路は経済産業に欠かせないインフラの基幹であるとともに、政治に関わる部分も多いことをこの出向期間に学んだ。
平成17年、小泉内閣での郵政民営化とともに、道路公団も民営化され、NEXCO東・西・中日本と3つに分割された。分割方法は、総距離ではなく、料金収入および、サービスエリア売上額を3等分にしている。中日本の対象エリアは狭いが、それだけ交通量が多いということである。社員は、出身地、出身大学を考慮し、幹部層が均等になるように振り分けられた。運よく出身地の岐阜も管内に含む中日本勤務となり、現在に至っている。
■高速道路のはじまり
昭和30年代、経済成長に後押しされ、モータリゼーションの波が到来し、輸送方法も鉄道主体からトラック輸送が増加してきていた。しかし、当時の日本の道路は舗装もなく、泥まみれであったため、道路整備を望む声が大きくなってきていた。そこで、日本政府は高速道路の本格的な導入を検討し、世界銀行に融資を求め、ワトキンス調査団に調査依頼をした。調査後、提出された結果報告書には、「日本の道路は信じがたいほどに悪い。工業国としてこれほど完全にその道路網を無視してきた国は日本のほかにない」という言葉が巻頭に記載されていた。
当時、東京・名古屋間は、経済効率優先の東名案と開発優先の中央道案とで、論争となっていたが、ワトキンス報告書の「比較すべき計画ではなく、それぞれ有益である」に後押しされ、2本の路線が平行して整備されることとなった。
また、有料道路制度を活用し、料金を建設債務の返済に充てることと、ガソリン代から道路整備の財源を得ることが貸し付け条件として記されていた。この報告書が我が国の高速道路整備のきっかけとなった。
全国の高速道路は、当初7,600kmまで建設予定であったが、高度経済成長の中での自動車台数の増加に伴い、昭和62年に14,000kmへ計画が見直された。2019年現在で11,882kmまで整備が進捗している。なお世界を見ると、中国では2009年までは6.5万kmであったものが、2018年には14.3万kmまで急成長している。中国の場合、世界でも類を見ない急速な経済成長に加え、土地の私有権が認められていないため、土地の買収交渉が不要であるなど、短期間で長距離の高速道路を整備できる環境が整っていたことが、このような急成長を可能としている。
都心部の渋滞緩和のためには、環状道路の整備が重要であるが、都心部の土地買収交渉や制約条件の多い場所での工事には、多くの時間と労力が必要となることから、他の先進国に比べると整備率は低い状況となっており、首都圏、中部、近畿ともに80%強の整備状況である。なお、北京には既に5重もの環状道路が開通しているのが現状である。
■NEXCO中日本の事業概要
主な事業は、新規高速道路の建設、既存道路の渋滞緩和対策、リニューアル工事である。
渋滞緩和対策として、既存道路の4車線化・6車線化や、スマートICの整備などを行っている。
東名、名神は既に50年を経過しており、管内の高速道路の6割が30年を経過し、道路構造物の老朽化が進展してきていることから、大規模なリニューアル工事を推進している。特に橋梁やトンネルの傷みが激しい。橋梁のアスファルト舗装の下には鉄筋コンクリートの床版があるが、冬期に撒く凍結防止剤の塩分が、アスファルトのクラックから床版まで浸透し、鉄筋を腐食させ、コンクリート剥離が起こる。リニューアル工事では、床版を新しいものに取り換えるだけでなく、高性能な防水層を敷き、塩分の浸透防止も行っている。なお、床板老朽化のもう1つの原因として過積載車両もあるが、こちらは警察にも協力をいただき、取締りを行っている。トンネル床面は、従来は土の上にアスファルト舗装のみであったが、土圧増加により、路面隆起が発生する箇所も出てきたことから、トンネル床面をコンクリートによる逆アーチに結合することで、耐力を増加、沈下・変形を防止することを行っている。
■新技術やサービス導入
次世代技術を活用した革新的な高速道路保全マネジメントとして、路車間での情報共有を通じた渋滞解消や事故防止の実現に向けた検討を行っている。具体的には、高速道路の状態を監視カメラやセンサーでデータ化し、道路側から渋滞や落下物の情報をリアルタイムで提供するサービスや、デジタル技術を活用した全線監視システムにより事故処理時間の最小化を実現することにより、安全で安心快適な高速道路空間を確保する取り組みを進めている。
その他にも、土砂崩れ前後の3次元情報より、崩れた土砂量を算出可能とすることにより、災害復旧に必要な工事車両台数や、補強材料、復興計画を瞬時に算出し、早期の災害復旧と通行止め時間の短縮を実現する技術の開発も進めている。トンネル内を100km/hで走行しながら0.2mmまでのクラックを高解像度カメラで検出できるような点検システムも実現している。これによりトンネル内を点検するために行ってきた交通規制を大幅に少なくすることが可能となった。携帯で道路交通情報を入手できるアプリは、既に東京方面でサービス開始しており、中部エリアも近日開始予定である。高速無人隊列運転も実装実験中である。夜中に休憩するトラックで大混雑するSAの駐車場では、駐車場空き情報提供や、駐車場予約の社会実験も開始している。ドライバーの負担軽減のため、新東名浜松のSA外に、中継物流拠点であるコネクトエリア浜松を整備した。大阪方面から来たドライバーが、貨物と切り離され、東京方面から来たトラックと交代し、大阪に帰っていくというシステムである。現在、物流会社と協働で運営を行っている。ファストフードのドライブスルーや、一般駐車場、フェリーでのETC決済も、試行運用中である。
■新事業領域の展開
最近では、道路以外の新事業領域にもその幅を拡大している。
例えば、道路インターチェンジ周辺の開発事業として着手した「テラスゲート土岐」では、岩盤浴付きの温泉が人気を博しており、今年2月には「よりみちの宿」もオープンした。また静岡では、遊休農地を活用してレタスや枝豆などの栽培を行い、外食チェーンや中食チェーン、小売店に販売している。アジアや北米を中心に海外事業も展開している。AIを活用した路面損傷の可視化などを行い、計画立案、コンサルの仕事などを行っている。