コラム2 【師、曰く】 No.1
妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 専門役員 名古屋支社長
妹尾(せのお) 義之)
ペンネームは、2016年からMBAで通った多摩大学大学院の恩師、田坂広志先生の言われる多重人格マネジメントの応用。アーティスト作家人格の名。田坂先生は私のトラウマも昇華させた人生の恩師。田坂先生や素晴らしい方々の鳴り響く言葉を取り上げてみたい。
『 小さなエゴ 』
志の講義とでもいうべき田坂先生の教えを4年半、実に多くの知恵を学ばせて頂いた。その一つ、『小さなエゴを、否定も肯定もせず、ただ静かに見つめよ。』これは、何度も繰り返し言われた言葉。感情的になったり、誰か何かのせいにしたり、自己弁護したり、そんな“小さなエゴ”を、誰もが持っている。生涯、付き合ってゆかねばならないものだと。むしろ、自分はエゴを捨てたと言う人間が一番危ない。抑え込んだエゴは、別の処で鎌首をもたげてくる。それが人間だと言われる。親鸞でさえ「心は蛇蝎の如くなり」と自戒するのだ。その小さなエゴが、心のなかで蠢いている間は、物事がうまく進展しないことは、良くあること。多くの方々が体感されているのではないだろうか。逆に、“一隅を照らす”ため、志を為そうとするとき、不思議と、「たまたま」「偶然に折良く」「運の良いことに」幸運に味方され、とんとん拍子にことが進むことがある。これも、ご経験されているのではないだろうか。
私も、2012年から東北大学の西山大樹先生や関係各社と開発した「スマホdeリレー」を、2019年に「高知市津波SOSアプリ」導入に漕ぎつけるまでは、様々な逆境に直面しながらも、不思議と幸運に恵まれた。私がこのプロジェクトに魂を塗り込めたのには、理由があった。それは、都内で帰社直後、3.11を体験したときのこと。帰ることもできず、家族とも連絡が取れず、あの時の胸を締め付ける思いがあったから。通信網がダウンしても、スマホだけで、メッセージをバケツリレーするad-hoc通信技術が、「スマホdeリレー」だ。3.11のような被災状況でも、救える命、伝えたい想いのために、役立てたかったのだ。
現実には、数々の難局や逆境に見舞われた。ビジネスモデルが難しく経営層からの逆風、Android OS限定の研究成果を社会実装時にはiOS対応が必須の難題、実績のない先進技術を地方自治体が採用する際の壁など、他にも挙げれば切りが無い。しかし、崖っぷちの時、私を信頼してくれる役員が現れ、プロジェクト消滅は免れた。iOS対応で八方塞がりのとき、全く関係ないルートから、絶妙としか言いようのないタイミングで、偶然にも昔の顧客からiOS対応に活かせる提案があった。自治体導入が白紙撤回になる処を、市会議員や責任者が私の説得を信じて下さった。本当に不思議な幸運に恵まれた。悲劇から救える命、掬(すく)える想いの為に役立てたい、その純粋な思いがあった。儲かるから、自分の実績になるから、そんな小さなエゴでプロジェクトを進めていたら、大いなる何かは手を差し伸べてはくれなかっただろう。田坂先生は、同じ持つなら「小さなエゴ」ではなく「大きなエゴ」を持てと言われる。逆境の中でも不思議な幸運に恵まれたのは、大いなる何かの導きだったのかもしれない。かくして、不思議なご縁や奇蹟に恵まれ、高知市に導入することができた。感謝。
その後も、様々な軋轢や葛藤に直面する。その度に、田坂先生の言葉を思い出す。
『小さなエゴを、否定も肯定もせず、ただ静かに見つめよ。
その賢明なるもう一人の自分を育てなさい。
さすれば、小さなエゴは、次第に鎮まってゆく。』
その言葉を幾度も思い出し、自分のなかの小さなエゴを、何度も何度も見つめてきた。未だ小さなエゴは、居る。今日も小さなエゴを否定も肯定もせず、ただ静かに見つめ、生きる。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
|