■当社について
名南M&A株式会社は2014年10月に設立され、従業員は45名、M&Aの仲介・コンサルティングの会社である。東海地方の中堅中小企業を中心にM&A仲介業務をM&Aの入口から出口までトータルに提供している。当社は税理士法人、弁護士法人、行政書士法人など主要16社で構成される、名南コンサルティングネットワークに属している。名南コンサルティングネットワーク全体の従業員は650名、クライアント数は6000件を超える規模となっている。士業法人は出資ができないため、資本関係でのガバナンスは効かない。名南コンサルティングネットワークに属する会社は名南の経営理念の元、連邦制のグループを形成している。
■日本のM&A市場
2020年のM&A成約件数は公表ベースで3730件となっている。当社の実績は61件であったが、公表した案件は10%にも満たない。残りの案件は公表していない。つまり、日本全体で公表されていないM&A成約件数が相当数あるということである。公表されていないものも含めると昨年度に成約されたM&Aは少なくとも1万件と推測される。
2011年に1600件であったM&Aの成約件数は右肩上がりで増加し、2019年には4000件を超え、10年で2倍以上増加している。2020年はコロナ禍の影響で日本企業と海外企業間のM&Aが減少した影響もあり成約件数は減少している。しかし、国内企業間のM&A成約件数は昨年8月から昨対比プラスで上昇に転じている。コロナ禍を契機にM&Aを検討する会社が増えていると感じる。譲渡側はコロナ禍でパラダイムシフトが起こり、事業承継問題を抱えた団塊の世代の会社経営者が前倒しで事業譲渡に動き出したのではと考えている。買収側をみると企業が生残るための買収が増えている。金利も安く資金調達も容易な環境下で買収ニーズは増加している。買収ニーズと譲渡ニーズの割合は9対1と圧倒的に買収ニーズが多くなっている。
■上場にむけて
2001年、名南でM&A事業を立ち上げるに際し、何故か当時27歳の私が責任者に抜擢され、以来M&A事業に20数年携わっている。M&A支援業界のマーケットが年々大きくなっていく中で、2013年当時、競合大手が次々に上場の準備を進めていた。このままでは知名度、信用力の違いから当社は埋もれていくと危機感を強め、生き残るために当社も上場をするべきと決断した。
上場に向け2014年10月に分社化をしたものの、手探り状態で上場に耐えうる組織作りを開始した。2015年、監査法人により上場の障害となる問題点を洗い出すショートレビューが実施された。指摘事項は継続的な収益と成長性、関係会社取引の整理、コーポレートガバナンス、業績予測の精度アップ、資本政策の5点であった。主幹事証券会社も決まり、名古屋セントレックスへの上場を目指すことに決定した。
2016年は総務、財務、人事など管理系の専門人材を新規雇用し、各種規定類の整備、内部統制システム・ガバナンス体制の整備を進めたが、一番苦慮したのは業績管理であった。
2017年に証券会社より最短で2018年12月の上場を目指すスケジュールが示された。2018年に入り、証券会社の審査が開始された。審査は収益性と成長性、関係会社取引、コーポレートガバナンス、業績予測の精度アップ、資本政策の5ポイント。しかし、業績予測の精度が低く、審査をパスできず2018年の上場は夏の時点で諦めざるを得なかった。
2019年、再チャレンジにあたり、一番の課題である業績予測精度を上げるため、競合他社に教えを請い抜本的な改善を実施した。予測精度が格段に向上し証券会社審査を通過することができた。今では同じ悩みを抱えた同業他社から相談がある。自分も助けられた身として快くノウハウを教えている。
名古屋証券取引所の審査が開始された。およそ2ヵ月の間に2回の審査をパスするため全社総力で審査のヒアリング等の対応をした。審査の最終段階になって、名証より突然、親会社の持株比率を下げないと上場は認められない旨の通達があるなど苦労はしたが、名古屋証券取引所役員面談を経て、2019年10月28日に漸く上場承認を得ることができた。
上場承認後、機関投資家回りを行ったが、数百億、数千億の資金を運用する機関投資家がこんなにもいるのかという驚きと資本主義を実感した良い経験であった。
■上場して変わったこと
上場して周りの見る目が変わった。今までお会いできなかった方にもお会いする機会が増えた。特に採用の面で如実にプラス効果が出ている。今まで採用できなかった東京の経験者から応募が来るようになった。M&A事業は人に売上が付いてくる業務なので経験者の採用は業績に直接影響する。また、資本調達ができたことで新たな成長戦略に投資し取組めるようになったことが嬉しい。本の出版やイベントなどを行えるようにもなったことも上場の効果ではないかと思う。
名証は東証に比べ知名度も低く流動性も少ない。機関投資家の数も少なく株価が上がりにくいのが実情である。しかし、名古屋で生まれ、名古屋で育ちこれからも名古屋のお世話になるということも含め、当社の知名度、信用度は十分に上場効果を得られており後悔はしていない。
■上場を進める中で大変だったこと
上場のために全てを一から作りあげ大変であったが、管理体制など既存のものを変えるよりは楽だったのかもしれない。上場に向け社員を3年間で3倍に増やしたことで名南の経営理念の浸透、帰属意識の醸成には苦慮した。外部株主が入ってくることに漠然とした不安はあったが、昨年の株主総会で概ね好意的な意見をいただき一安心している。一方で経営者として成長をしなければ次のステップには進めないというプレッシャーを感じている。