■敷島製パンの創業について
1920年6月8日に「食糧難の解決が開業の第一の意義であり、事業は社会に貢献するところがあればこそ発展する」を創業の理念として、名古屋の地で創業し、本年100周年を迎えた。偶然か、歴史の必然か、当社が創業した100年前も同じような社会環境にあった。
創業の2年前、1918年の春にスペイン風邪が発生、創業の前年1919年の春までには日本でも45万人が死亡したと伝えられており、当社創業のきっかけとなった米騒動もその様な社会環境の中で起きた事件だった。その意味でも、創業時の理念に改めて思いを致し、創業100周年にあたり新経営理念を制定した。
■経営で大切にしていること
社長就任以来、「会社は社会から生かされている」という考え方を基本として持っている。お客様に買って頂く1個100円のパンの日々の積み重ねで会社は成り立っており、お客様=社会に背を向けて会社は存続できない。お客様がパスコの製品・サービスに不満に思っていることがあれば、その不満を解消する努力をしなければならない。
「事業を通じて社会に貢献していく」という理念に則り、コロナ禍において、マスクや消毒液など様々なものが売り場から消えていく中でもパン売り場にはいつも通りパンがあるという日常風景を支えることで、人々の不安を和らげることで我々は社会に貢献できているのですよと社員を励ましていた。
■現在の市場の変化
国内のパン市場は生産年齢人口の減少で長期的には縮小傾向にあるが、高単価なプレミアム商品のヒットやパンの夕食需要の増加、外国人人口の増加などの市場拡大要因により微増推移の予測である。
現在の市場変化を「10年サイクルで変化する流通」の側面からみると、1953年の日本初のスーパーマーケットの誕生を皮切りに、1970年代以降に全国展開する大手量販チェーンやコンビニの台頭が始まった。1980年代には特定の分野に特化した「カテゴリーキラー」が出現し、1990年代に勢力を拡大した。一方、大手量販店は徐々に失速を始め、2000年代に大企業への吸収合併や子会社化の動きが加速された。EC業態では2014年に国内小売業ランキングのTOP10に入ったAmazonが2018年にはTOP3へと急成長し、スーパーチェーンを買収するなど存在感を増しており、小売業界は戦々恐々としている。好調だったコンビニも近年は成長に鈍化が見られる。店舗数を増やして売上を拡大する戦略に限界が見え、再編や海外展開を強化する動きが活発化している。国内小売業で急成長しているのがドラッグストアだ。食品売上高が伸長しており、食品スーパー買収の動きもある。食品メーカーにとってドラッグストアは取引先としての重要性が増している。コロナ禍では、都市部のコンビニや百貨店が苦戦する一方で、巣ごもり需要によりスーパーやドラッグストア、ホームセンターの売上が好調であった。
「消費者の変化」の側面からみると、かつては専業主婦世帯が主流であったが、現在は共働き世代が主流となり、この40年でその比率は完全に逆転した。また、世帯構成も生涯未婚率が上昇し(男性で4人、女性で5人に1人)、3世帯に1世帯が単身世帯となっている。もう一つ特徴的なのが女性のライフコースの多様化であり、マーケティング的には目が離せない変化だ。かつてマーケティングにおいて、対象の顧客は人物像に幅を持たせて設定し「ターゲット」と言っていた。しかし、近年は人物象をリアルに設定した「ペルソナ」とういう考えに基づき製品開発をする必要がある。
■「OODA」ループで経営を回す
環境が激変する現在、従来の「PDCA」のサイクルを回すだけでは変化に対応できない。判断と決断をいかに早く適切に回すかを考える場合、「OODA」ループが最適ではないかと考える。「OODA」はObserve(観察)、Orient(状況判断)、Decide(意志決定)、Action(行動)の4つの頭文字であり、戦闘機パイロットの行動を分析し導き出された理論である。即ち、「即断即決」で俊敏にアクションを起こすことが重要。
■Pascoの取り組み(SDGs、D&I、DX)
事業を通じて社会貢献をするという当社の考え方とSDGsの考え方に親和性があると思っている。2019年に経営層による「SDGs100年委員会」、若手社員による「SDGs更なる貢献プロジェクト」、全従業員を対象にした「SDGs理解浸透プロジェクト」のSDGs3本柱プロジェクトを始動した。
ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)では2030年9月の女性管理職比率30%や男性育休100%取得宣言など目標の具体的KPIを設定し、様々な制度の整備、取り組みを行っている。
DXの取り組みでは売場に設置した「デジタルサイネージ」による販促策やLINEを活用したプレゼントキャンペーンなどを行っている。また、コロナ禍前からリモートワークの導入に向けた整備を進めており、緊急事態宣言時にはリモートワーク用パソコン300台を配布し、スムーズにリモートワークに移行ができた。ペーパーレス化にも取り組み会議資料、稟議書の100%電子化を実現している。
■国産小麦使用の取り組み
日本の食料自給率は2019年時点で38%と半世紀の間に30%も減少している。その中で小麦の自給率は更に低くわずか3%となっている。更に、世界的な不作や輸出規制の影響を受けやすく、安定供給の観点でも問題がある。このコロナ禍において各国が国内の食料安全保障を優先した輸出規制を行っている。また、国内では気候などの影響でパンに適した高タンパク質の強力小麦の自給率は低い。その状況を打破したのが新品種の超強力小麦「ゆめちから」である。当社では現在10%前後の国産小麦使用率(10年前まではほぼゼロだった)を2030年までに20%に増やことを目指している。
■これからに向けた挑戦
世界人口の増加により、2030年頃には世界的にタンパク源が不足する「タンパク質危機」が起こると予想されている。国際連合食糧農業機関(FAO)は2013年の報告書で環境負荷が少なく、持続可能なタンパク源として「昆虫食」を推奨している。当社も高崎経済大学ベンチャー「FUTURENAUT」と協業し、食用コオロギパウダーを使った製品開発を進めてきた。昨年12月に、Pasco未来食Labo「Korogi Café」シリーズとしてバケットとフィナンシェを発売した。コオロギはタイで養殖をしているが、養殖に適した環境、短い出荷サイクルに加え、労働負荷が小さいため女性や高齢者でも取り組みやすい。そのため、貧困をなくすことや産業技術革新、人や国の不平等をなくすなどSDGsの観点ともマッチしている。ありがたいことに様々なところで反響をいただいており、今後も新製品の開発も含めて取り組んでいく。
講演会終了後は、産業懇談会40周年を祝し、記念セレモニーを開催した。
永年にわたり産業懇談会の世話人を務め、会の運営、発展に多大な貢献をしていただいた世話人5名に感謝状を授与。更にサプライズとして世話人全員に似顔絵をプレゼントした。コロナの影響で恒例の新年合同懇親会は中止としたが、久しぶりに会員同士の懇親を深める有意義な場となった。