産業懇談会【メールマガジン 産懇宅配便】 第221号 2020.10.30 発行

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令和2年10月度(第221号) 目次

【2年9月度 産業懇談会(水曜第1G)模様】 9月16日(水) 14時00分〜15時30分

【2年9月度 産業懇談会(木曜G)模様】 9月17日(水) 14時00分〜15時30分

【11月度産業懇談会のご案内】
【12月度産業懇談会のご案内】
【コラム】
コラム1 【さっかの散歩道】 No.28
コラム2 【「ほん」のひとこと】 No.144
【お知らせ】
【2年9月度 産業懇談会(水曜第1G)模様】

テーマ: 会員同士によるフリートーク
『 コロナ禍による緊急事態を受けて〜各社の働き方、経営環境の変化〜 』


日  時:令和2年9月16日(水) 14時00分〜15時30分
場  所:名古屋観光ホテル 2階 曙の間
参加者:11名

 水曜第1グループの例会は会員同士によるフリートーク形式で開催した。
 冒頭、木曜Gメンバーの株式会社ゲイン 藤井英明氏から、「OPEN THE DOOR正しく恐れて活動再開〜私たちが日常を取り戻すべき、これだけの理由〜」と題して新型コロナウイルスについてお話をいただいた後、参加者と活発な意見交換が行われた。

写真:藤井 英明 氏

■新型コロナウイルスを正しく恐れて活動再開を目指す会
 免疫学者であるペンシルベニア大学准教授の上林拓氏と名古屋の様々な業界のメンバーが意見、情報交換を行い、「OPEN THE DOOR 2nd Message〜私たちが日常を取り戻すべき、これだけの理由〜」を発表した。(発起人:藤井英明氏、監修:上林拓氏)
 時間の経過とともに、新型コロナウイルスの傾向も徐々にわかってきた。その事実と相対的なリスクから判断すれば、私たちは日常を取り戻すことができ、自粛生活から通常の生活へ、活動再開をすることが最善の道であると考えている。

■現在、わかってきていること
 PCR検査は陽性が分かるだけで発症を示すものではなく、感染しても8割以上の人が軽症か無症状である。また、感染者数の増幅と死亡者数は比例していない。感染者数に着目するのではなく、死亡者が増加しているかどうかに着目するべきである。
 日本における死亡者数は他国に比べ圧倒的に少ないことがわかってきた。アメリカと比べると死亡者数は約1/160となっている。マスクや医療の質の高さなど様々な理由が考えられるが、現段階では正確な理由はわからない。しかし、他国と比べ日本人の死亡者数の少なさはれっきとした事実である。
 ウイルスは細胞に寄生しないと増殖ができない。毒性が強く症状が重くなると人は外出を控え、人との接触機会が減る。最終的には人に感染することができなくなり消滅してしまう。ウイルスは感染を広げるために弱毒化し、感染力を強めた方が有利となる。つまり、ウイルスは徐々に弱毒化するものである。

■客観的かつ相対的にみた「リスク」
 若年層の多くは軽症か無症状であり、重症化や死亡に至るケースは高齢者や糖尿病、慢性腎臓病、肥満などの基礎疾患保持者がほとんどである。事実から考えると、それ以外の人にはリスクは低いと言える。新型コロナウイルスに限らず、加齢に伴い、様々な疾患のリスクは高くなる。インフルエンザの場合も死亡者の大半は75歳以上の高齢者である。
 重症化の方程式は「感染時のウイルス取り込み量」×「基礎疾患保持数」×「年齢」となり、これらのファクターが多いほど重症化しやすくなる。重症化リスクの高い人はウイルスの取り込み量を少なくするよう、マスクや手洗いなどで防護する必要がある。しかし、ゼロリスクの対策は存在しない。ゼロリスク思考を止め、リスクを抑えながら活動をすることを目指すべきだ。

■NEXT ACTION ! の基本方針

  1. リスク別の対策
    • 重症化のリスクの高い層と低い層を分けて対策する。
  2. リスクの見直し
    • 直接死因のコロナ死者数の許容範囲を設定する。
    • 死者数が許容範囲の場合は過剰な感染対策や活動自粛はしない。
    • 感染拡大防止を優先するのではなく、リスクを相対的に判断し政策を決める。
  3. 医療体制の充実
    • 指定感染症から外し、他の疾患患者を含めたリスク対策と医療体制を整える。

■さあ、次の扉へ!OPEN THE NEXT DOOR!
 活動自粛による倒産や解雇などの経済的被害、肥満や生活習慣病、過度な消毒による免疫機能低下など健康面での弊害、差別やいじめ、自殺者の増加などの社会問題、教育格差や教育機会の損失など様々な問題が広がっている。また、祭りや文化的活動、観光、娯楽など豊かな生活も失われている。社会や経済、豊かな生活のバランスを考え、リスクを正しく理解すれば、新型コロナウイルスの影に怯えることも、生活の質を落とす必要もない。
 新型コロナウイルスによる生活の変化を受け、新しい生活様式やNew Normalという言葉を聞くようになったが、より良いライフスタイルを目指し、「New and Better Normal」新しく、より良い日常を創ろう。

<意見交換での主な発言>
Q.新型コロナウイルスはインフルエンザと同じ5類感染症に変更すれば色々な事が解決すると思うが、変更はいつ頃になるのか?
A.オリンピックもあり政府としては早く変更したいと考えている。新内閣が発足し厚生労働大臣も替わったので正しく判断してくれると期待している。

Q.海外渡航には隔離措置があり身動きが取れない。どんな局面で解除される見通しか?
A.東アジアは感染リスクが低く、隔離する意味がない。自由な往来は問題無いと思う。大勢の外国人が往来するオリンピック時には高リスク者への対応をしっかりと行えば数日程度の隔離で問題ないのではなか。政府がリスクを煽っているので、人々のメンタル面が元に戻るように政治と行政がしっかりと対応するべきである。

Q.大半の日本人はOPEN THE DOORに賛同すると思われるが、マスコミが不安を煽っているように感じる。何が要因なのか?
A.OPEN THE DOORの考え方は新聞もマスコミも同意してくれる人は多いが、スポンサーのリスク回避的な考えにより表だって賛同できない。視聴者や購読者のクレームの総攻撃を恐れてリスクを取れない。

Q.若者はあまりテレビを見ずに、SNSを主な情報源としているが、SNSやYouTubeなどでもOPEN THE DOORを発信しているのか?
A.登録者数はまだ少ないが、YouTubeとTwitterとFacebookで発信をしている。

Q.感染させる力は症状のない時の方が大きいと報道で聞いたが、感染をさせるリスクについて専門家はどのように考えているのか?
A.ウイルスは感染するために弱毒化する。弱毒化するからこそ生き残れる。その観点からみると発症する前と発症後では感染力に影響がでるのかは上林先生に確認をする。発症前は体力があり活動的で、発症して元気がなくなった人に比べれば感染させるリスクは高いと言える。
 感染させる力は症状がある時の方が強いか、無い時と同等。しかし、無症状の場合の方が人に移すことが出来る期間が短いとされている。大きな違いは症状のある人は他人に近寄らない。無症状の人は普通に近寄るので感染リスクが高い。このリスクを下げるためには無症状の人は高齢者や基礎疾患保持者と接する時はマスクの着用を心掛けることが大事。

Q.マスクやアルコールなどの感染防止対策をいつまで続けなければならないのか?
A.ある程度の対策は必要だが、過剰な感染防止対策は逆に大きなリスクとなる。無菌状態にすることは他のウイルスに対する抵抗力を低下させてしまう。ある程度の雑菌に触れ、抵抗力をつけておく必要がある。
 元々、今回の対策でアルコール消毒はほぼ無意味。接触感染リスクは飛沫感染よりも大幅に低いとされている。消毒は環境破壊につながる。そこらにある様々な菌は我々に必要であり、常に共存している。これをmicrobiomeと呼ぶ。我々の皮膚や腸にいる細菌やカビのことである。これらの調和が乱れると色々な病気につながる。そして、子供が無菌状態で育つとアレルギー疾患を起こしてしまう。極力消毒での細菌環境破壊やめましょう。


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【2年9月度 産業懇談会(木曜G)模様】

テーマ: 『 若年世代の非婚化・晩婚化の現状 
          〜多様性時代の新しい結婚への道〜 』


日  時:令和2年9月17日(水)14時00分〜15時30分
場  所:名古屋観光ホテル 3階 桂の間
参加者:16名

スピーカー:
中村 琴姫(なかむら ことひ)
株式会社GUTS PLUS(婚活相談クリニックL-plus)
メンタルケア心理士

 


■今、若者に起こっている「結婚の先送り現象」
 近年、少子化が大きな問題となっているが、この背景には若者の結婚事情に対する大きな変化がある。日本では98%が嫡出子であり、少子化を解決するには婚姻数を増やす必要がある。しかしながらライフスタイルの多様化とともに、若年層の意識も多様化し、結婚観や価値観の変化、結婚するメリットの相対的な低下が起こっている。独身でいる理由の第一位は男女共に「適当な相手にめぐりあわない」だ。男性の第二位は「まだ必要性を感じない」。女性は「自由さや気楽さを失いたくない」となっている。

写真:産業懇談会(水曜第2G)の様子

 非婚化、晩婚化が進んでいるものの、多くの若者は結婚を望んでいる。つまり、結婚したくないのではなく結婚できないのが実情である。経済的に不安定な若者が増加している事も大きな問題だ。内閣府の調べでは東京都における25〜35歳の約80%の収入が子供を一人養えるとされる年収400万を下回っている。一方で、親との同居で生活に困らない自由な環境や、女性の就業率の向上により男性に依存しなくてよい経済力を持つ事で対等な相手を見つける事が難しくなったという面もある。女性の場合、出産などの要因もあり35歳を越えると結婚への意欲がぐっと下がる。しかし、50歳を迎え老後問題が現実味を帯びてくると途端に焦りが出て盛んに婚活をする傾向にある。また、コミュニケーション能力や自尊感情の低下により異性と上手くつきあえない人が多いのも現代の若者が抱える課題だ。

■婚活の二極化
 現代の婚活は二極化している。1つは、個人の意志が主体の自由恋愛型である「自由意志スタイル」。SNSや出会い系アプリ、合コン、街コンなどを活用した婚活スタイルである。
 もう一つは、昔ながらのお見合いや縁談といった婚活の王道の要素と自由恋愛の相反する要素を取り入れた進化形「NEW・王道スタイル」である。これが所謂、結婚相談所である。 
 結婚相談所のネットワークには結婚したい意志をもった会員が約31万人登録をしており、良い人と巡り会わない、相手に結婚する意志があるのか分からないなどの問題に対して最良の出会いを提供している。結婚相談所は出会いのきっかけであり、その後はそれぞれの価値観をすり合わせる恋愛の自由スタイルとなっている。
 結婚相談所では多様な価値観や結婚観に対応したシステムが構築されている。例えば、結婚しても子供は要らない、夫婦別姓、生涯共働き、事実婚など会員の個別ニーズを聞き取り、マッチングを図ることができる。異性とのコミュ二ケーションが苦手な人にはカウンセラーがサポートする。
 会員の相談を受けて感じるのは、相手に対する条件が多様性に富んでおり、ストライクゾーンが非常に狭くなっていること。相手の良い所を探すプラス思考ではなく、ひとつでも気に入らない点があると受け入れられないマイナス思考になっていることが多いと感じる。良い人がいないのではなく、条件に合う人と巡り合わないという事である。クリニックでは完璧な人はいないので、気に入らない点が許せる範囲であれば相手の良い所を見つける事を優先するようにアドバイスをしている。

■行政、企業、婚活支援業の役割・対策
 結婚を希望する若者、子を持ちたいと思う若者が願いを実現できる社会にすべく、行政や企業は、若者の出会いの創出、コミュニケーション能力育成などの婚活を支援する具体的働きかけをすべきだ。
 愛知県・名古屋市では少子化の観点から、「若い世代に対するライフプラン支援事業」として結婚、子育てに向かう世代にライフプランを考える機会を提供している。しかし、婚活支援に取り組んでいる市町村は豊橋市、豊川市など9市町村しかなく、名古屋市は少子化対策で子育て支援のみに着手しているのが実情である。
 行政の支援を待つのではなく、民間企業において福利厚生による婚活支援を導入するべきと考えている。福利厚生は企業の社会的信頼を高め、人材確保にも寄与し、従業員のモチベーションを向上させる効果が期待できる。すでに福利厚生による婚活支援の導入を始めている大手企業も多い。

■福利厚生の結婚相談システムとは
 結婚を目的としたコミュニティ・マッチングアプリは会社を通さずに担当カウンセラーがお相手を探し、お見合いや交際をサポートするシステムである。入会時には審査があり、活動はすべて携帯アプリから行える。企業側の手間はなく、安心、安全な婚活である。
 企業側にはコスト負担が発生するが、従業員が結婚することで生活が安定する、仕事へのモチベーションが向上する、継続して働く可能性が高くなるなどメリットは大きい。是非とも福利厚生による婚活サポートを導入いただき、名古屋を日本一の成婚の街にするとともに若い人たちが安心して家庭を持てる社会を構築できれば良いと願う。


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11月度産業懇談会のご案内

 7月より産業懇談会活動を再開しておりますが、新型コロナウイルス感染症のリスク回避の観点から以下のとおり運営方法を変更いたします。なお、今後も情勢を注視し、開催可否および運営の変更を行う可能性がございます。予めご了承ください。

  • 開催時間を「14:00〜15:30」に変更
  • 例会のご参加は「ご所属グループのみ」に限定(※他グループ例会へのご参加は当面禁止)
  • 定員は先着25名(※定員の締切はホームページにてご連絡いたします)

 ※会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

11月24日(火)
14:00〜15:30

『和装業界について 〜着物を着たことありますか?
           風呂敷使ったことありますか?〜 』
(講話と風呂敷の使い方の講習会を予定しております)
株式会社大善
代表取締役社長 永井 明氏

若宮の杜
迎賓館
1階
橘の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

11月18日(水)
14:00〜15:30

『株式会社JERAのご紹介 
再生可能エネルギー大量導入に併う電力需給について』
株式会社JERA
常務執行役員西日本支社長 三輪田 達典氏

若宮の杜
迎賓館
1階
橘の間
水曜第2グループ

片桐清志
大倉偉作
高見祐次

11月11日(水)
14:00〜15:30

『苦難のたびに変革を迫られた第一生命の歴史』
第一生命保険株式会社
常務執行役員中部営業本部長 渡辺 克久氏
中部法人営業部部長  関川 正博氏

若宮の杜
迎賓館
1階
橘の間

木曜グループ

河村嘉男
倉藤金助
吉田憲三

11月5日(木)
14:00〜15:30

『コロナと、コロナ後の名古屋の未来』
株式会社ゲイン
代表取締役会長  藤井 英明氏

若宮の杜
迎賓館
1階
橘の間

*通常と会場が異なりますのでご注意ください
若宮の杜 迎賓館 住所:名古屋市中区栄三丁目35-30 TEL:052-231-2038

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12月度産業懇談会のご案内

 新型コロナウイルス感染症のリスク回避の観点から、ご参加は「ご所属グループのみ」に限定させていただきます。
 また、会場の収容人数を勘案し定員を設けさせていただいております。
 なお、今後も情勢を注視し、開催可否および運営の変更を行う可能性がございます。予めご了承ください。

 ※会合にご参加いただける際は、マスクのご着用・手洗い、積極的なアルコール消毒の励行にご協力ください。
  発熱の症状がみられるなど体調不良の方は、ご参加をお控えいただきますようお願いいたします。

グループ名 世話人 開催日時 会場
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

12月8日(火)
18:00〜20:00
料亭蔦茂
Tel:052-241-3666 
名古屋市中区栄3-12-32
(火曜グループ所属会員 先着20名)
水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

休会
水曜第2グループ

片桐清志
大倉偉作
見祐次

休会
木曜グループ

河村嘉男
倉藤金助
田憲三

12月3日(木)
18:00〜20:00
札幌かに本家 栄中央支店
Tel:052-263-1161
名古屋市中区栄3-8-28
(木曜グループ所属会員 先着25名)

※会費は実費を後日請求いたします。お申込みの方には別途詳細ご案内を送付いたします。

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【コラム】

コラム1 【さっかの散歩道】 No.28
コラム【さっかの散歩道】

長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子

『 あしながおじさん 』

 子供食堂が再開した。コロナでもフードバンクを続けてきたせいか、子供だけでなく家族そろって顔を出してくれるようになり、月に一回会場に元気な笑い声が響き渡るようになった。再開に当たってはソーシャルデイスタンス、アクリルパネルなどこれまでの準備にプラスの手間が増えたが、このごろはご相談すると気持ちよく「寄付するよ」「協力するよ」といってくださる方が増え、感謝しっぱなしだ。

 中部地方は寄附やら投資やらにあまり興味のない方が多いというが、昨今のふるさと納税やクラウドファンディングなどに注目が集まったせいか、企業単位のみならず個人でもさっと手を差し伸べてくださる方がいるというのは心強い限りだ。どこの誰かは知らないけれど、子供の時に手を差し伸べられた記憶は、心の中に「思いやり」の種を生む。小説の「あしながおじさん」のような劇的なハッピーエンドは待っていないかもしれないけれど、きっと人より笑顔の数が増えると思っている。少し前に全国でタイガーマスクと名乗る人物から養護施設にランドセルの贈り物が届いたことが有ったが、贈った方も受け取った子供も双方が笑顔になれる、支援とはそういうものなんだと実感する。

 一方で、日本人の寄附に対する認識は、欧米のそれとは少し違っているような気がする。例えば志賀直哉の「小僧の神様」に見る「施し」の痛し痒しな感覚。お寿司を食べたいと夢見る丁稚に、たまたま居合わせた貴族議員が、そのままご馳走するのも気が引けるので用事を言いつけ駄賃の代わりにたらふく食べさせてやるものの、そのあと当の議員は「本当にこれで良かったのか」などと自問自答と自己嫌悪で悶々とする。

表紙:あしながおじさん
あしながおじさん

片や丁稚はごちそうしてくれた議員を「神様なのかもしれない」と心から感謝する。これは大正時代に発表された短編だが、この議員の、おそらく善行なのに腑に落ちない感じはどこから来るのか…。思い当たるとするならば『武士道』とかいう精神論ではないだろうか。「武士は食わねど高楊枝」だの「腐っても鯛」だの、誇りを捨てるくらいなら腹かき切って自害すべし…とかいう感じの中に、もしかしたら「施しは、受けるもするも卑しいことだ」みたいな考え方があったのではないだろうか。何故なら町民や農民(所謂下々の者?)はいつの時代も共助あるからだ。武士という身分が確立されて、「脇差挿すもの居住まいを正し、誇り高くあれ」の精神が根付いたのかもしれない(あくまで私論です)。そんな武士道、いつの時代に確立されたメソッドなのだろう。どなたか御存じの方があったらお知らせください。ともかく、この「潔さ」は、どうも日本人には格好良く粋に映るのだ。時代劇が未だ人気の訳はそこにあるかも。あ、そうは言っても私も司馬遼太郎や山本周五郎は大好物です。

 さて、その「小僧の神様」と「あしながおじさん」の違いはどこにあるのか。それはあしながおじさんの果たす役割にある。「資金援助」ばかりがクローズアップされているが、小説を読み進むと、実は、見えない誰かが寄り添ってくれているという心の支えを描いた作品でもあると私は思っている。資金援助は底をついてしまったらそれで切れてしまうご縁だが、心の支えや交流は金の切れ目でも切れない関係だ。そういう経験は恐らく普通の家庭で育っていれば当たり前のように親から受けることが出来るのだろうが、「あしながおじさん」の主人公のように施設で育つことを強いられた子供は、寄り添われることに不信感を抱くことすらある。しかし長い年月をかけて遠くから「見てるよ」「応援してるよ」の声はゆっくり浸透してゆく。そんな心の支えとなる応援は、大人になっても忘れず、身に沁みていくのだ。

 私もそんな「心のあしながおじさん」にいつも支えていただいた。学生時代からマスコミでアルバイトをする機会が多く、放送局という所は、それはそれは華やかな世界で、おしゃれで、最先端で、出演者のみならずきれいなお姉さんたちが沢山いる職場だった。そこに紛れ込んでしまった私は、日々気後れし、兎に角仕事を一生懸命こなそうと、ニコリともせず眉間にしわを寄せていたのだろう。傍からは「不愛想な子ねえ」「気が利かないやつだ」といわれていたが、愛想できれいなお姉さんに太刀打ちできるはずもなく(もう辞めよっかな…)と心が折れそうになっていた時、ある上司が見かねて一言、「勝負しなくていいんだよ、君は君らしく!」これを聞いた瞬間、ああ、こんな私でもちゃんと見ていて下さった方がいた!と涙が溢れたのを思い出す。その一言が私のその後の上京や仕事の支えになったのは間違いなく、ただ残念ながらその方は数年後に鬼籍に入られてしまったが、その後も何かある毎に必ずそうやって応援してくださる方が現れる。それは私にとって大切な「あしながおじさん」で本当に有難く思っている。勿論応援だけでなく時にはひどく目玉を食らうこともあるが、大人になって、特に父を亡くして以降叱ってくれる第三者の存在ほど励みになるものはない。

 さて「小僧の神様」を読まれた方はきっとご存じだろうが、この結末、志賀直哉自身がちょっと含みを持たして終わっている。私としてはきっちりオチまで書いて欲しかったけど、如何せん発表したのが「白樺」だし、その辺は志賀直哉なりの「プライド」だったのかもしれない。ご興味のある方は小説のあとがきまで漏らさずお読みくださいませ。

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コラム2 【「ほん」のひとこと】 No.144
コラム【「ほん」のひとこと】

株式会社 正文館書店 取締役会長
谷口正明

『 絶望名言2 』
頭木弘樹・飛鳥新社刊

 NHKラジオ深夜便での番組を、放送ではカットされた部分も加えて1冊にまとめたもの。この巻には、中島敦・ベートーヴェン・向田邦子・川端康成・ゴッホのほか、「絶望名言ミニ」という姉妹番組から黒澤明・古今亭志ん生・遠藤周作の絶望の言葉が収録されています。
 「偉人がどういうつもりで言ったのか」を推し量るだけでなく、「自分の内面にまで、思いきり引き寄せて、自分の気持ちを言い表している言葉として読む」ことで、「共感が芽生え、このことが孤独を癒し」てくれる、と著者は言います。難病・潰瘍性大腸炎で13年間にわたる療養生活を送ったという著者ならではの述懐でしょう。
 著者は自身を「文学紹介者」と紹介しています。この8月に出た『落語を聴いてみたけど面白くなかった人へ』(ちくま文庫)もお薦めします。

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【お知らせ】

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