<第1部> 『 りそなグループのご紹介 』
りそな銀行の前身は協和銀行で、りそなグループと中部地域とのつながりは非常に深い。中部地域で伊藤貯蓄銀行、明治貯蓄銀行、丸八貯蓄銀行の三行が合併し、大正11年に旧・日本貯蓄銀行が発足。さらに昭和20年に9行が合併し日本貯蓄銀行が発足、昭和23年に商号を変更し協和銀行が生まれた。その後1991年に協和銀行と埼玉銀行が合併し協和埼玉銀行が発足、1992年にあさひ銀行に商号を変更。さらに2001年に大和銀行と統合し、準備期間をおいて2003年から「りそな銀行」が発足した。
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りそなグループ最大の特徴として、本邦最大の信託併営商業銀行グループであることが挙げられる。りそな銀行は信託銀行であることから、年金運用や不動産売買仲介を銀行員が直接行うことができる。名古屋支店の不動産課では不動産業務(不動産仲介・コンサルティング等)、年金課では年金業務(企業年金・年金制度コンサルティング等)のみを取り扱い、資産運用も完全に銀行内で行っている。本日はお預かりしている最大規模の年金、約3兆6千億円の運用について、マーケット環境を分析し、約190名のスタッフに指示をしている黒瀬から、世界経済、投資、経営環境の変化についてお話をさせて頂きたい。
<第2部> 『 今後の世界の経済・投資・経営環境について〜2020年は2019年のデジャヴュ(既視感)〜 』
■庚子 旧体制に区切りがつき、新しく始まる年
占い師はその年を占う際、60年前を見るという。今から60年前、1960年に岸内閣による日米安保条約の成立、池田内閣による所得倍増計画等により、(1)西側陣営に入り、(2)安全保障の多くを米国に任せ、(3)日本は経済復興に邁進するという、吉田ドクトリンが示す戦後日本の形が完成した。
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1960年からの30年間はこの方針が大当たりし、日本は戦後の奇跡と言われる発展を遂げた。ところが1990年に東側陣営の盟主、ソ連が実質的に崩壊したことで状況が変わった。米国にとっての最大の敵の消滅により日本の戦略的な価値が暴落し、日米貿易摩擦が激化し、さらにバブル崩壊により日本経済は低迷、政治も社会も劣化していったのが昨年までの30年だった。
2020年は干支でいうと庚子にあたる。庚子というのは旧体制が区切りをつけて終わり、新しく始まる年とされている、現在の国際関係をみていくと、米中対立が起きている中で、トランプ政権にとり日本は使い勝手の良い味方だ。1960年同様、2020年から新しく始まる60年の中で日本は世界情勢の中で有利な位置にあると考えている。
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■新型コロナウイルスとSARSからの教訓
皆さまの一番のご興味は新型コロナウイルスの影響であろう。未知のウイルスでもあり軽々しいことは言えないが、罹患率、重症化率から考えると、正しく恐れることが重要ではないか。日々、感染者数、死亡者数が報道される中で、バイアスがかかる。インフルエンザに置き換えると米国ではインフルエンザが流行し、2千万人以上が感染、1万2千人程が亡くなっている。年間累計では2万5千人程が亡くなるとも言われている。日本でも季節性インフルエンザが流行すると、1日平均50名を超える方が亡くなる計算だ。新型コロナウイルスには、インフルエンザとは異なり特効薬がないという問題はあるが、過度に警戒しても、無警戒であってもいけない。
2003年のSARSの事例から、新型コロナウイルスが株価に与える影響を想定すると10%程の下落が有り得ると考えている。またサプライチェーンに影響が出るのは必至の情勢だが、SARSの事例で2ヵ月程、東日本大震災では従来の水準に戻るまで半年を要した。一方で株価を見ると、東日本大震災の例でも、株価は2日後に底を打っている。市場には、「事件は買い、事故は売り」という格言がある。事故の場合、政治家は批判を避けるために10の対応が必要な所、12、13の対応をとる。結果として事故の場合は後から見ると意外と軽微に済んでいる例が多い。今回の新型コロナウイルスも事故にあたるのではないだろうか。
■2つの世界 「グローバルとローカル」
グローバル経済とローカル経済の動向はつながっている所とつながっていない所がある。冨山和彦は「なぜローカル経済から日本は蘇るのか」で、世界とつながるグローバルの世界と、地域で循環するローカルの世界は別のものだと述べている。この2つの世界の分断を顕著に示したのがトランプの登場で、トランプの支持者はローカルの世界に属している。地域の人々の生活に密着する産業で、世界経済の動向とは直接の関係がない世界がそこにある。今後、2つの世界のどちらに向かうのか、私自身は地域に密着している方々が産業の主役になるのではないかと考えている。一方で、グローバル経済とローカル経済で連動している部分もある。例えば金利は世界中で連動しており、米国が金利の動向を先導している。金利動向の背景には実体経済がある。現在、東京のビジネス地区の空室率は大幅に低下しているが、この水準はITバブルの崩壊前、サブプライム危機、リーマンショック前の水準に匹敵する。グローバル経済とローカル経済の分離が進むとは言っても、景気の方向性は海外からやって来る。米国の景気動向は引き続き重要な要素となる。
■米中対立 貿易戦争から覇権争いへ
米中対立の背景に、米国の中国観に対する根本的な変化がある。急速な経済発展、一帯一路をはじめとする陣営拡大により、米国は中国を敵対視するに至った。この米中の争いは長い戦いになるとみるべきだ。なお昨年の貿易交渉で、中国は米国からの輸入を2年間で2000億ドル増やすことを約束している。これは1日当たり300億円に相当し、新型コロナウイルスの影響で中国経済が停滞した1か月分だけでも9000億円に達する。今後、共産党の指示で取引先が調達先を米国に変更することも考えられる。自社製品の最終的な販売先をリスクとして認識しておく必要がある。
■日本の景気循環
日本経済の状況は非常に悪い。最大の理由は消費税の引き上げにあり、様々な対策は行われたが景気が落ち込んだ。過去3回の所費税増税前後の消費総合指数を比較すると、その動きには殆ど変わりがない。直前に駆け込み需要、その後反動減が発生し、増税前の水準に戻るまでには2〜3年を要した。今回も同程度はかかるのではないか。10月〜12月でGDPが-6.3%、さらに今回の新型コロナウイルスの影響があり、1月〜3月も相当に厳しく景気後退に陥る可能性が高い。しかし既に景気対策が打たれており、新型コロナウイルスへの景気対策が今後も打たれることを考えると、数字の上では非常に悪いが、景気は何とか持つのではないかと見ている。
■平成から令和へ
平成元年を100として日独米の鉱工業生産指数を比較すると、日本は30年間で横ばい、米国は1.7倍、ドイツは1.5倍となっている。日本はモノづくりと言いながら完敗した。 一番の原因は電機産業で、日本が中国、韓国に真っ向勝負をして負けたことにある。その意味でも日本は自動車産業を守らなくてはならない。しかしながら、そのために重要となる設備投資は伸びていない。女性、高齢者、外国人の活用が進み、雇用者数は大幅に伸びる一方で、生産能力指数が増加していない。景気が良いのに、減価償却以上の設備投資がされていないことを示す。これは生産に関係の無い仕事が増えたことを意味する。例えば介護等の設備投資を必要としない、生産に直結しないところに人が取られているのが現状だ。
■為替の行方
円ドル相場と米国の10年国債の金利は連動性が高い。米国は昨年3度の利下げを行い、長期金利が3%から1.5%まで下がった。結果として日本から米国に流れる資金が減り、円相場は昨年初の約113円から、夏場に104円、そして今は戻って110円位になっている。今年、米国は金利を殆ど動かさないという方針を示しており、円相場は横ばい動く可能性が高いと見ているが、コンセンサスは簡単に変わる。今後、新型コロナウイルスの影響で各国が景気対策を出す中で、米国が金融政策として量的緩和を行うかを注視する必要がある。 量的緩和は非常に強力で、100年に一度の危機という印象の強いリーマンショックの際も、半年後には景気が底を打った程に強力に作用する。