■自社紹介
当社は創業1922年(大正11年)で現在97周年、間もなく大台に乗る。社是は「和」で、今やっている商売からするとなるほどと思われがちだが、長年の試行錯誤の中で「和」に集約してきたものだ。経営基本方針は次なる和風は何かということで、「The Next Wa-fu」、お客様に望まれる伝統的な和風空間の趣をWa-fu感性に進化させ世界中に発信すること、としている。漢字の和風から、カタカナのワフウ、そしてローマ字のWa-fuへと、世界に向けて和風をどう伝えるべきか常に考えている。
当社はもともと、セルロイド玩具製造業として創業し、大ヒットしたダブルメリーゴーランド、ミルク飲み人形や、眠り人形などを製造していた。しかし、セルロイド可燃性問題を発端に、業界がセルロイド代替樹脂として硬質塩化ビニールの開発に着手する中で、当社も共同事業として分業加工に着手し、プレス機を導入して艶付け工程を担当していた。その後、プレス機の用途転換を図る中で、書家であり、紙に造詣が深かった先代が、水洗いの出来る障子紙として、和紙を両面から樹脂で挟みこんだ「ワーロンシート」という商品を開発した。和紙というものは、樹脂に熱をかけて張り合わせると、樹脂が染みて紙の風合いが全く損なわれてしまうことから、材料や合わせ方を工夫し特許を取得、昭和38年には松下電器産業(株)の和風照明に採用され、その後、ほぼ全ての照明器具メーカーに採用されていった。昭和41年には、当時わずか20名足らずの小さな町工場であったにも関わらず、皇居新宮殿の御用材としてワーロンシート、ワーロン板ガラスの採用が決定、その後も続けてご使用を頂いている。
■和風とは何か
和風とは何かの前に、「和」とは何だろうか。辞書で調べれば、日本そのもの、我が国在来の風習、日本人の普遍の感性などと言われる。では「和」ではなく、「和風」とは何か。これも辞書には音楽、美術、建築などの芸術や、衣食住などの文化において、「日本的」特色や味わいを形容する言葉とされている。平たく言えば、やすらぎ、癒し、くつろぎといった「和」を感じるもの全てなのではないだろうか。また大陸からの影響である唐風、唐様や、西洋からの影響である南蛮、洋風との対比や反省・消化の中でも和風という言葉が使われる。
また和風を語る上では、伝承と伝統も重要となる。「伝承」とは形を変えずに伝えて行く事で、「伝統」は形を変えてイノベーションで刷新されたモノ・コトのなかでも長く引き継がれるものだと考える。
外国のお客様に日本を伝える際に説明する歴史や、食文化等に対してCool Japanというものがある。外国人がクール(素敵・かっこいい)と捉える日本の魅力、日本独自の文化が海外で評価を受けている現象、またはその日本文化を指す言葉で、政府がCool Japan戦略を打ち出し、日本ファンを増やし、日本のソフトパワーを強化しようとしている。Cool Japanの中には、映画、音楽、漫画、アニメーション、ゲーム等が含まれるが、こういったものも100年、200年続くうちに伝統になっていくのではないだろうか。Old Japanで言えば、有松絞りは日本の工芸として世界に誇る技術だが、色々と模索をされている。(株)スズサンの事例を挙げると、単なる有松絞りではなく、海外のニーズに沿ってカシミアに有松絞りの技法を使ったデザインで爆発的に売れている。ここまでくると和風ではない。和風をベースに世界に進出するという時に、Cool JapanとOld Japanの考え方を頭の中で整理する必要がある。
■衣食住から感じる和風
衣食住には、和風を感じるものが多い。衣で言えば、和服には共通して一目で和が感じられる。和服業界も着物・浴衣が古臭いと言われ、ワフウとカタカナで表現することで考案されたミニスカート風にアレンジされたユカタ等が一時流行ったが、本物の着物や浴衣とは何かという和風への原点回帰が起き、今では着物・袴は成人式や卒業式、浴衣は花火大会・夜祭の定番で、TPOに応じた住み分けが出来ている。
皆さんが、一番敏感に和を感じるのは食ではないだろうか。和食は2013年にユネスコ無形文化遺産に登録されたが、おせち、赤飯などの特定された有形の料理が登録された訳ではない。多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、自然の美しさや季節の移ろいの表現、正月などの年中行事との密接なかかわり等の文化的要素が登録されている。和風を形容するものに一番近いのが和食なのではないだろうか。
私どもの仕事の分野である住の分野では、和室=和風なのかと考えると、和風であることは間違いない。しかし、戦前には和室という言葉はない。洋室との対比の中で、初めてできたもので、洋風との対比の中での生まれた和風の典型だと言える。
和風と洋風の建築の違いとして、和風建築は内部が障子や襖で区分され、外すことで開放空間ができ、直線で構成されているのに対し、洋風建築は内部と外部が壁、ドアで区分され、面(壁)と点(窓)で構成されている。日本建築は歴史の代表的な建築様式として、寝殿造、書院造、数寄屋造が挙げられる。寝殿造の代表が平等院で、この頃から和様という言葉が出てきている。書院造は鎌倉時代から室町時代に向けて生まれ、障子などが出てきた。障子は元々、襖障子という言葉で襖を指していたが、平安時代に戸を閉めたままでも採光が可能という事で明障子として生まれ、鎌倉期の書院造は障子を発達させたと言われており、今現在、障子は明りを取る面であると言われている。障子の役目は遮光と透過光の拡散、和紙特有のやすらぎ感など、色々とあるが通気性と吸湿性があることも特徴の一つだ。
■和紙について
和紙は靭皮繊維を主原料として作られた紙で、基本的に繊維であれば何でも紙になる。主に楮・三椏・雁皮で作られ、紙幣の原料も同じだと言われているが、偽造防止のために成分は明らかにされていない。和紙もユネスコ無形文化遺産に登録されているが、本美濃紙(美濃和紙産)、石州半紙(石州和紙産)、細川紙(小川和紙産)の楮を使用した伝統的紙漉き技法が認定されたもので、和紙産地が認定された訳ではない。和風なものを世界に向けて発信していく中で、世界遺産、無形文化遺産の制約について記憶にとどめて頂きたい。
■ワーロンの経営戦略
市場背景としては、住宅着工件数、和室が減少する中で、障子も減少しており、厳しい環境にあるが障子には張り替え需要があることで助けられている。一方、インバウンドの増加により、国内宿泊施設が不足し、ホテルでの需要は旺盛だ。最近ではマリオット、フォーシーズン、アマン等に納めさせて頂いているが、日本に来る外国人旅行者は、日本文化を楽しみたい方が多いということで、各ホテルもその方向にシフトしている。癒し、やすらぎの空間を私どもの材料でいかにお届けするか。和紙の破れる、汚れる、燃える、水に弱いという弱点を解消する商品として、用途に適した機能を付加した商品展開や、和紙の風合いを追求し、銀鼠などの自然な日本の色展開、工芸和紙の展開もしている。また、光を拡散する特性を生かしてLEDの良さを引き出す使用方法の提案、特殊繊維で漉いた破れにくい障子紙、燃えにくい障子紙なども展開している。
■最後に
和風から、ワフウ、そしてWa-fuと至る中、その原点には松尾芭蕉のいう「不易流行―永遠にかわらないものとその時代においてかわっていく新しいもの」という考え方がある。和風は普遍的な日本人の観点であり、世界に向けて発信していく中ではCool Japanという考え方が必要になるが、国内においてはOld Japanを大切にしていくことが必要だ。和紙の秘める和風感性を世界に発信していくために、100年後に残る伝統商品を目指していきたい。残すものは残し、変えるものは変えながら、これからも和風文化というものを育てていきたいと考えている。