木曜グループの9月度例会は、開館30周年を迎えてのリニューアルを終え、クルマ文化資料室を今年4月にオープンした「トヨタ博物館」の見学会を実施した。丁寧なガイドツアーに加え、館長の布垣直昭氏より今回のリニューアルについてご講話いただくなど、大変貴重な機会となった。
■クルマ館ガイドツアー
まずはクルマ館で自動車誕生から現在までの自動車の歴史をたどるガイドツアーに参加した。
1階シンボルゾーンでは、トヨタ自動車の前身となる豊田自動織機製作所自動車部により完成された初の量産型乗用車「トヨダAA型乗用車(レプリカ)」が一同を歓迎してくれる。
2階にあがり、ガソリン自動車第1号といわれる「ペンツパテントモトールヴァーゲン(レプリカ)」などを見ながら、自動車の黎明期から日本車の誕生までの歴史について説明を頂いた。1800年代の自動車黎明期には蒸気、電気、ガソリンと多様な動力源の自動車が生まれながらも、最後発のガソリン車が自動車の主役となっていった背景、飛行機技術の取り込みによる豪華車や高性能車の誕生、自動車の大衆化等、1950年までの歴史の流れを学んだ。自動車の大衆化に寄与した「T型フォード」、豪華高級車の源流となった「ロールスロイス 40/50P シルバーゴースト」等、貴重な展示車両の細部を見ることができた。
3階では第2次世界大戦後から現代に至るまでの日本の自動車産業の歩みについて、大きなテールフィンが特徴的なアメリカ車「キャデラック エルドラド ビアリッツ」等、各国の代表的な車両を比較しながら説明を頂いた。そして最後は、「持続可能な未来へ」と題して、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車・・・自動車誕生から130年が経過して再度、動力の多様化が進んでいることに触れられ、ガイドツアーが締め括られた。
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シンボルゾーン トヨダAA型乗用車(レプリカ) |
貴重な展示車両の数々 |
<布垣直昭氏 ご講話>
「大変革期・歴史視点からみるビジョン
〜クルマが愛の着く存在でありつづけるために〜」
トヨタ博物館 館長 布垣 直昭 氏
(トヨタ自動車(株) 社会貢献推進部企業・車文化室長)
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■「愛車」 クルマには“愛”がつく
トヨタ博物館は平成元年に設立され、今年創立30周年を迎えた。設立時の「自動車の歴史を学び、人と車の豊かな未来のための博物館」というスローガンの通り、ただ過去を振り返るだけではなく、将来に役立てて頂けるような展示を心がけている。
愛車という言葉を、豊田社長が最近よく使っているが、その背景には、車がコモディティ化してしまえば将来が無いという思いがある。プロダクトに愛が付けられることは稀で、英語では人間以外で愛が付くのは、馬と車くらいしかない。移動手段を超えた見えない価値を認めてもらえる存在であることは、いかなるモビリティ社会になっても、貴重な競争力となる。博物館として、そういった価値を継承していくことを目指していきたい。
■時代に合わせて変わる展示
イギリスの大英博物館では、最新の科学テクノロジーコーナーの前に、馬車のような見た目の電気自動車が展示されている。一度衰退し、忘れ去られていた乗り物であった電気自動車を最初に開発していたのはイギリスだったという誇りを表している。ところが、この展示は、以前はなかったもの。博物館の展示というものは時代に合わせて変わっていく。過去の事実は変わらなくても、それをどう解釈するかは、後の世の影響を受ける。
クルマ館でも以前は2階に欧米車、3階に日本車を展示していたが、今は両方を混ぜてスルーでの歴史展示に変えている。世界最初のガソリン車「ベンツ パテント モトールヴァーゲン」ということだけを説明するのではなく、時代の変遷の中で、蒸気自動車、電気自動車とガソリン車が競い合っていた激動の時代があり、現在、水素燃料電池車、ガソリン車、ハイブリッド車、電気自動車等が競い合っているが、それと丁度同じようなことが、130年程前に起こっていたという内容を示す展示としている。
■動態保存の価値
当館の展示車両は、全て実際に走ることができる状態で保存している。3〜4年周期で全ての車をレストアし、その際に、動態確認といって担当者や私自身が走らせてチェックしている。エンジン、操作、何から何まで今の車とは異なるので、普通にレンタカーを借りてすぐ乗れるという感覚とは異なる。そして実際運転してみることで、当時その車両に乗っていた人達が感じたであろう振動、音、臭いを五感で感じることができる。例えば、当時の写真を見るとハンドルを抱えるように持っているが、その理由は、道路も整備されていない時代に、シートベルトもヘッドレストも無い状態で体を安定させるには、ハンドルを抱えるようにするしかなかったことが、運転することで初めてわかる。こういったアナログ情報は歴史書等では伝わらない。動く状態で保存してこそ伝承されるものが沢山あると感じている。
■クルマ文化資料室(2019.4月オープン)について
開館以来30年にわたり収集してきた、3万点を超える自動車関連の印刷物、おもちゃ等を倉庫に眠らせるのはもったいない、どうにかしてお客様に見て喜んでもらえないかというアイデアからこのプロジェクトが始まった。
膨大にある収集物の価値を判別できる人は探すことから始まり、このクルマ文化資料室のオープンには、甚大な労力が注ぎこまれている。展示室の中心には、背骨の様に通した陳列ケースに、全体の時間軸を表すように800台以上のミニチュアカーを時代順に展示、その周りにそれぞれの時代に関連するものを集めて展示している。珍しいものとして、世界初の自動車雑誌、世界初の自動車切手、世界初のラジコンカー(日本製)なども展示されている。フランスのガラス工芸家ルネ・ラリックが製作した、ガラス製カーマスコット全29種類の常設展示は、世界でも当館だけなので、是非ご覧いただきたい。
<クルマ文化資料室 見学>
しっかりと事前知識をレクチャー頂いた上でクルマ文化資料室を見学、思い思いに貴重なコレクションを堪能した。
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クルマ文化資料室 |
時間軸でのミニチュアカー展示
デザインの変化が時代の変遷を感じさせる
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トヨダAA型乗用車の前での記念撮影 |
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