テーマ: 『 我社の経営組織 』
日 時:20年5月21日(水) 12時00分〜14時00分
場 所:名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者:18名
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スピーカー:
大井 富雄(おおい とみお)氏
大井建興株式会社 取締役社長
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1. 背景と狙い
私は社長になって9年目だが、もがき苦しんで社長業に取り組んでいる。会社の概要としては、自走式立体駐車場建設業で、主にイオンを中心とした大型ショッピングセンターの駐車場を建設している。まだまだ車の少なかった昭和45年に最初の駐車場を建設したパイオニアである。資本金は2億五百万円、売上高は20年3月期で約80億円である。本店・支店は名古屋、東京、大阪、福岡、広島、仙台にあり今までに全国で800カ所以上建設している。私が社長になった1999年頃、日本経済は非常に悪く、お客さんやゼネコンが潰れたり悪い決算となったりと大変な時代であった。但し、我社は無借金経営で内部留保も20数億円あって、赤字を出してもこたえておらず、却って所有している自社株の簿価が良くなって良いんじゃないか程度に感じていた。赤字を出しても社長が全然怒らないため、赤字を出しても環境が悪いから仕方がないといった理由を付けて、各支店長も平気であった。さあ黒字を出して頑張っていこうという時になっても赤字体質から抜け出せず、営業赤字が継続したので、これではいかんと考え直し、株式上場も視野に入れて一生懸命やっていこうと中央集権的にやったが、それでも営業赤字が続いて、これは絶対にいかんということで、支店長に全権限を渡してみようと組織を変更した。
2.支店経営、支店長の権限と責任
我社の場合、カンパニー制を導入し支店長は全員役員にして全権限を本当に支店長に渡し、本社経費を本社に支払えば何をやっても良い、人事権も、採用権限を含め全て支店長に委譲した。その本社経費とは、固定費で1千万円、暖簾代のようなものとして売上げの1%である。利益が残れば自由に分配して良いとしたが、累積赤字が嵩んだ場合には3千万円を上限に個人財産をはたくという組織に変えた。一定のFC料さえ払えば好きなことをやって良いが、赤字を出した場合には個人財産で支払うということである。負担限度額の3千万円は、無限責任ではかわいそうなのでサラリーマン経営者ではギリギリの線だろうということで設定したもので、そこまでは個人財産で支払えということである。このように責任と権限を明確にした。赤字の場合にはその年の賞与はカットである。管理部門は不動産収入で食っている。管理本部長も経営者意識が出てきて、テナントが減らないように掃除をしたり、資産管理をするようになった。部門長は7人いるが全部自分で稼いで食うようにした。私の給料と経営企画室、品質管理、設計開発の5人は私の有価証券の売却益で食っている。社長の私も自分で稼いで食っているわけである。実は、この組織に変える時に、私はそんなこと出来ませんと、支店長副支店長で5人ほどばたばた辞めたが、皆中途採用の人間でプロパーは辞めなかった。結果として高い給料の人間が辞めて、プロパーの、自ら責任を取ってやる強固な、自己責任の強い人間が残って良かった。部門長は経営者感覚を持てと言うことだが、以前は責任を問われないものだから名ばかりの経営者だった。支店長は全責任を、金銭的な責任を取ると言うことで経営者としての意識が芽生えた。よく経営者がこのプロジェクトの責任を取ると言うが、責任を取るとは何だというと、会社を辞めるという。我社では個人財産をはたいて会社に与えた損害を支払うことが責任を取ることで、会社を辞める程度のことで責任を取るとは言わない。名古屋を中部支店といっているが、このシステムにしてから売上げも利益も回復し、報酬もかなり増えている。しかし、東京では一昨年かなり黒字を出し年間報酬は3千万円を超えたが、昨年は赤字を出したので所得は6百万円程度となった。業績に応じて年収が凄く上下する組織である。会社はその方が楽で、各支店長も自分で志願したので、それでやっている。
3.メリット、デメリット
このシステムに変えて、ずーっと続いていた営業赤字が黒字になった。まず、経費が大幅に約1割5分減少した。会社の金だと自由に使うが自分の金だと使えないということだろう。メリットとしては支店長のモチベーションがかなり上がった。その代わり、いつも追い詰められているので非常に苦しんでいるのが良く分かる。しかし、それは社長と同じなので社長の分身を各支店に配付したと思っている。東京から福岡まで支店があって社長の目が行き届かない為、支店長が社長の分身となって管理していかなければならないので、社長の分身になって貰って丁度良い。自己完結型、自分で良く考えるようになり、意志決定がスピーディーになった。ただ非常に危ないところに打って出ては困るので与信管理はしっかりやるようにしている。営業段階と受注段階の二回、受注伺書を出して貰って、更に進めて良いかチェックしている。手形については事故が起きると怖いので全部発行している。これらを除けば全権限は支店長にある。デメリットとしては利益最優先になるので経費の掛かる新人の採用は皆嫌がって、長期的な人員計画が立てられなくなったので、新人の採用費用は本社負担とし、更に、新人給与の50%を3年間本社負担として、新人採用が出来るようにした。また、全社最適に向けた動きが取りづらくなった。購買も支店単位で行っているので他の支店のことは知らないという傾向がある。しかし、ずーっと営業赤字だったのが計常利益ベースで2億円ほどの黒字となっているのでこれで良いと思っている。ただ、支店長たちは、良い状況が何時までも続くか不安なので役員定年が来ると直ぐ辞めたがってしまう。後継者の育成が急務で、このシステムの良い点、悪い点を説明して育成している。支店長達には凄いプレッシャーを与えているので、自分自身には役員退職慰労金を廃止した。交際費は使用せず全て自腹で処理し、誰からも後ろ指を指されないようにしている。支店長だけにプレッシャーを与えているのではなく社長自らも率先して一生懸命やっている。
4.今後の課題
課長以下の一般社員が経営者意識を今後持てるかどうかがこれからの課題である。ただし全従業員といっても70名前後で、各支店あたりでは約10名、アットホームな雰囲気で各支店長のミーティングも末端まで行き届いている。各支店長にはお金は天から降ってこない。お客様から代金を頂いて原価を支払って残ったものが皆さんの報酬で、儲けないとお金はどこにも無いよと言っている。絶対に赤字の仕事は受けてくるなとも言い聞かせているが、各支店長は赤字の仕事を受けると個人財産をはたくことになるので、赤字の仕事は絶対受けなくなった。赤字の時の社員の給与などは支店長の懐から出ることになるのでプレッシャーはかなりきついと思う。しかし、支店長には、協力業者は一杯あって、中小企業の社長さん達は会社作って、資本金を支払って借入の担保をして会社を経営している。下請けの社長さんが出来ることを何故支店長は出来ないのか、もっと黒字を出しても良いくらいだ、と言っている。
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