テーマ: 『 三菱重工の風力発電設備 』
日 時:20年2月12日(火) 12時00分〜14時00分
場 所:名古屋観光ホテル 18階 オリオンの間
参加者:29名
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スピーカー:
小笹 源水(こざさ げんすい)氏
三菱重工業株式会社中部支社 支社長 |
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三菱重工は、航空機関係で当地域の皆様に大変お世話になっているが、私の出身地でもある長崎にも古くから造船工場(長崎造船所)があり、ここでは造船以外に火力発電や自然エネルギー発電などのエネルギー関連の仕事を長年手掛けてきた。本日ご紹介させていただく風力発電設備も主にこの長崎造船所で手掛けている。
風力発電は昨今、地球温暖化などの様々な問題がある中、環境負荷の少ない再生可能エネルギーの中でも経済性と大規模化の面で最も優れているということで大変注目を浴びている。タワーの高さが70m程度、翼の長さが30m程度の風車であれば、1機当たり1,000kWの発電が可能で、これは日本の一般的な家庭、約300世帯の消費電力に相当する。一方、欠点としては、風が吹かないと発電しない、出力が一定しない、エネルギー密度が低い(風力発電:0.3kW/m2(at 8m/s),太陽光発電:1kW/m2)、台風に耐える強度が必要といったことから設置場所が限られることが挙げられる。特に日本では、地形上、風車が設置できる場所が限られるため、欧米に対して普及が遅れているのが現状である。
風車といっても種類は様々で、世界的な主流は3枚翼のプロペラ型大型風車であるが、この他にもダリウス型風車(翼を弓形に曲げて垂直軸に取り付けた揚力型風車)や直線翼垂直軸風車(ビルの屋上に設置するような小型風車)、1〜2枚翼のプロペラ型風車等がある。
風力発電設備は、一台で設置する場合を風車と呼び、10〜20台程度の規模をウィンドパーク、これ以上の規模をウィンドファームと一般的に呼んでいる。日本の場合、100台以上の規模のウィンドファームは今のところ存在せず、当社が日本で納めた中で最大規模のものでは、2005年に北海道宗谷岬に1,000kWの風車を57基納入した実績がある。
風力発電は、風車で有名なオランダのように、元々ヨーロッパで発展した技術で、現在でもヨーロッパ各国は風力発電の先進国に位置づけられる。当社では、1980年に長崎造船所で40kWの風車を製造したのが最初で、当時は翼の部分にヘリコプターの中古の羽根を用いた。その後、1981年に九州の電力会社から離島で風車の設置をしたいという依頼を受け、商用機として初めて300kWの風車を製造。こうして風車の製造実績が多少出来たところで、突如、1987年にハワイから37台の注文が舞い込んできた。これまでと同様にヘリコプターを利用しようとすると計111枚のヘリコプターの羽根が必要で、これだけの数はさすがにどこに頼んでも手に入れることができなかった。このため、グラスファイバーの繊維でつくったFRP翼を用いることにし、以来、三菱重工では風車の翼の自主生産を行ってきた。その後、1987年〜91年にかけて、米国カリフォルニア州のモハベ砂漠に660基の風車を納入し、こうして徐々に実績を積みながら、これまでに全世界に約3,000基を納入してきた。納入先は米国が圧倒的に多く、日本への納入実績は289基に留まっている。
近年、風力発電の需要が世界的に急激に伸びてきており、2005年時点では、世界全体で風力発電による発電設備容量は11GW(1GWは1,000MWすなわち100万kW)にも達する。今後も2010年には25GW、2015年には40GWと引き続き市場は拡大していくと予想されており、これまでは欧州での普及が全体の約73%と大半を占めていたが、今後は北米やアジアでの市場も急拡大するとみられている。特に北米市場では、毎年、一般的な原子力発電所の4基分の電力量に相当する5,000MWの成長が進むと予想されている。しかしながら、風力発電の普及拡大は補助金制度の導入に左右される部分も大きく、場合によっては、この予想より下回る場合、或いは逆に上回ることなども予想されており、導入にあたっては他の発電方法に比べリスクを伴う部分も多いともいえる。こうした環境の中、三菱重工では、今後も積極的に設備投資を行って生産拠点を拡充し、年内には1,000MWを超える程度まで増産を進める計画でいる。
三菱重工では40kWの風車製造以来、技術開発を進め、少しずつ大型化させていき、現在、2,400kWの風車を製造するに至っている。この2,400kW程度が陸上で設置する風車の限界であり、これ以上大型化すると羽根が大きくなりすぎて、運搬や備え付けができないなどの問題が出てくる。このため最近では、ヨーロッパ等では海上に5,000kW程度まで発電が可能な風車を設置する例も出てきている。日本の場合、近海の大半が漁場になっているため、海上への設置は難しいと思われるが、世界的には今後、風況が良く、騒音などの問題が発生しない洋上風車の普及が進んでいくと予想され、こうした市場に対して国内でも基盤技術の開発が進められている。現在、世界中で風車と造船部門(海洋構造物部門)を併せ持つのは三菱重工のみであり、総合技術力で世界最高水準の洋上風車の実現を目指していきたい。風車の技術は、今後解決しなくてはいけない課題がたくさんあるが、地道に改善に取り組み、地球環境に優しい風力発電事業を更に伸ばしていきたいと考えている。
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