テーマ:『 企業買収の影響を考える 〜三角合併解禁〜 』
日 時:19年7月4日(水) 12時00分〜14時00分
場 所:名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者:30名
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スピーカー:
吉田 正道(よしだ まさみち)氏
税理士法人中央総研 愛知本部 公認会計士 |
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先日、米投資ファンドのスティールパートナーズによってブルドックソース株の株式公開買い付け(TOB)が実施され、これに対抗してブルドックソースは、国内で初めてとなる新株予約権を使った敵対的買収防衛策(ポイズンピル)を発動した。
昨今、こうした企業買収が盛んで、また、5月1日から施行された三角合併によって、外国企業による日本企業の買収リスクが更に高まってきているような状況であるが、これらにおける事の本質とは一体、何であろうか。
小泉政権以降、日本と米国は共同パートナーシップを組んで、共に成長を目指すという路線を突き進んできた。そうした中で生まれた改革は、日米年次改革要望書の中に予め盛り込まれており、全てがそのシナリオ通りに進められてきたと断言できる。三角合併解禁もまさにその中のひとつであり、これこそが事の本質といえるだろう。
三角合併とは、外国企業が日本での企業買収や合併をしやすくするためのひとつの手法である。これは元々、州毎に法律が定められている米国において、州を跨いだ企業の合併が容易でなかったことから生まれた手法である。具体的には、外国企業A社が日本に子会社B社を設立し、そのB社が日本企業C社を買収する場合には、B社はC社の株主に自社株ではなく親会社A社の株をC社の株主に交付する。これによって、日本企業C社は実質的に外国企業A社によって買収されたのと同様の意味を持つことになる。元来、日本の商法では企業買収は行われにくかったが、今回の会社法改正によって、様々な買収手法がとれるようになった。そして、これらを今、積極的に行っているのが、スティールパートナーズのような投資ファンドである。こうしたファンドによる企業買収は、殆どが株価を吊り上げて売り抜けることを目的としており、特に買収先企業の経営に興味があるわけではない。日夜、全神経を注いで体を張って経営に当たり、質の高い製品やサービスを提供しようと経営努力をされている企業経営者とは根本的に異なるのである。こうした買収に対しては、要件を満たせば、敵対的買収の防衛策をとってもよいと認められており、今日本で最も注目されているのは、新株を購入できる新株予約権を既存の株主に予め発行しておくというポイズンピルである。これを実施すれば、敵対的買収にあった場合でも、友好的な株主の株を増やして、敵対的買収者の持ち株価値を下げることが出来る。実務的にも未だ問題は多いようであるが、今後はこうした買収防衛策が主流となってくるだろう。
これまでは主に上場企業に関した話であったが、では、非上場の中小企業はどうだろうか。最近では、後継者不足などの問題を抱える中小企業の買収も増加している。例えば、高い技術力を持った日本の製造業を対象とした中国を始めとする新興国家からの企業買収も相次いでいるようである。こうした買収が進むと、皆様方の会社、或いは、取引先や仕入先がある日突然、別の会社になっているということも当然考えられ、上場、非上場に関わらず、事業に多大な影響が出ると予想される。従って、こうした企業買収やTOBといった、華々しいニュースに全ての企業が無関係だとは言ってはいられないだろう。
また、個人投資家にとっても、同様に大きな影響が考えられる。例えば、保有していた日本企業の株が、突然、買収によって外国企業の株に変わることもあり得る。こうした場合、証券会社を通じて、継続して株を売買することはできるだろうが、手数料や取引時間、言語、為替リスクといった面で様々な問題が浮上してくるだろう。従って、こうしたリスクを常に念頭に置いて投資や経営を考えていく必要があるだろう。
現在、東証の時価総額は、1部と2部を合わせて658兆円である。これに対し、ニューヨーク証券取引所の時価総額は2,592兆円。また、米国企業の中で最も時価総額が高いのがエクソンモービルで、4,778億ドル(約59兆円)である。これに対し、日本で最も時価総額が高いトヨタは約28兆円。この他、日本の基幹産業である鉄、交通、通信、電力といった分野ではそれぞれ、新日鐵:約6兆円、東海旅客鉄道:約3兆円、日本電信電話:約9兆円、東京電力:約5兆円といった規模である。では、米国はどうかというと、GMの時価総額が215億ドル(約2兆6千億円)、GE:3,936億ドル(約48兆円)、AT&T:2,580億ドル(約32兆円)などとなっている。こうして見ると、株価から判断した現在の日本の実力は米国の5分の1程度で、やはり外国企業による買収リスクは依然として高いといえるだろう。
様々な改革や規制緩和は日米間の話し合いによって決められ、それらは全て日米年次改革要望書にシナリオが描かれている。この先も毎年、改定されていくから、皆様もご自分の産業分野でどのような改革が行われていくか注意深く見ていくべきだろう。
全ての事柄には、必ず原因と結果がある。何が原因でどんな結果が出たか、更にその現状から先を読むことが重要だろう。皆様も是非、こうした目で年次改革要望書をお目通しいただき、頑張って経営に当たっていただきたい。 |