テーマ:『 証券業界の現状と今後の課題−CHIQ革命− 』
日 時:19年6月7日(木) 12時00分〜14時00分
場 所:名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者:30名 |
スピーカー:
石田 建昭(いしだ たてあき)氏
東海東京証券株式会社
代表取締役社長 最高経営責任者
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今、証券界には、大きな構造変化が起きている。例えば、投資信託販売業者別の残高推移を見ると、5年程前には殆ど投資信託を販売していなかった銀行や郵便局が、今や5割のシェアを占めるようになっている。投信マーケット自体が相当な規模で拡大しているので、販売額としてはそれ程大きな変化はないが、証券会社のシェアは下がってきている。次に、証券会社のランキングに着目すると、この10年間で相当変化したことがわかる。平成18年度のランキングでは、当社は前年より2ポイントアップして10位に位置しているが、野村ホールディングスと当社を除くと、上位10社の内、殆どを銀行系証券会社が独占している。また、最近5年間でネット証券が急速に業績を上げているのも大きな特徴である。
もうひとつの大きな変化は、証券業界に押し寄せている国際化の波である。例えば、以前は、株を保有するのは金融機関と事業法人、個人が殆どであったが、最近では外国人の保有比率が最も高い。また、更に特徴的なのは投資信託で、国内の株式や債券などのシェアは約25%にまで落ちて、今や殆どが国際型である。また世界的にも、この5〜10年の間で金融市場の様相は相当変化している。例えばバブルの頃は、ニューヨーク証券取引所よりも東京証券取引所の時価総額の方が大きかったが、今はニューヨーク証券取引所の時価総額1,800兆円に対して東京は600兆円と大きな差をつけられている。またアジアの台頭も著しく、上海や香港の証券取引所の時価総額を合計すると東京証券取引所と殆ど変わらないくらいまで成長してきた。
今、証券業界にはCHIQ革命の波が押し寄せてきている。このCHIQ革命というのは実は私がつくった造語であるが、頭文字のCHはCheap革命を意味する。近年、証券業界では、手数料率が急速に下がっており、米国などではノーロードと呼ばれる販売手数料が無料の投資信託も増えつつある。従って、こうした状況に証券会社がどう対応していくかが大きな課題である。
CHIQ革命のIはIT革命を指す。これも相当な勢いで証券業界にも押し寄せている。例えば、決済制度もDVP(Delivery Versus Payment)の導入やT+1(翌日決済)への移行が進んでいるし、株券などのペーパーレス化も近い将来実現するだろう。その他にも経営の細部にわたって様々なシステム対応が求められており、こうしたシステム導入のために膨大な投資が必要となってきている。
CHIQ革命の最後に挙げられるのが、Quality革命である。日本でも近年、コーポレートガバナンスが盛んに叫ばれており、証券会社としてもこれを避けては通れなくなってきている。また、コンプライアンスの面だけでなく、商品、サービスの質の向上も図る必要がある。最近では、多種多様の商品が次々と世に出ており、サービスの面においても従来のように株や投資信託に直接関係する営業を行うだけではなかなかお客様を惹きつけることができないようになってきた。
このような状況を踏まえると、今、証券会社が克服すべき課題は、経営や収益の安定化で、そのためには相当高いレベルを目指した成長戦略を打つ必要があると考えている。今の時代、他社と同じことをやっていても絶対に大手には敵わない。当社も経営3ヵ年計画の中に、6大証券の一角を占めることを掲げているが、この実現のためにも他社との差別化を図っていくことが必要不可欠と考えている。
平成19年3月期の当社の営業収益、経常利益、純利益はいずれも前年同期に比べダウンしたが、前年はマーケットが異常に活況を呈した歴史的な年だったため、こうした状況から判断すればまずまずの結果だったと判断している。また、ROE10.2%、配当性向44.1%、配当利回り2.5%は、いずれも証券業界の中では高水準といえるだろう。
当社は、株券から上がる収入が全体の約50%を占めるが、受益証券や投資信託から得られる収益が急速に伸びており、以前と比べると株券からの収入シェアは低くなっている。当社では投資信託についても様々な商品を取り揃えて販売しており、今後も株式や投資信託、債券などをバランス良く構成した営業体制にしたいと考えている。
次に当社の顧客構成を見ると、1億円以上の預かり資産がある顧客層(ハイ・ウェルス)は、口座数では全体の0.7%に過ぎないが、この層の預かり資産は全体の19%、手数料は14%とそれぞれ高いシェアを占める。また、3,000万円以上1億円未満の預かり資産がある顧客(ウェルズ)は、口座シェアでは5.2%ながら、預かり資産及び手数料は共に全体の約30%を占める。従って、これらの富裕層をどう開拓していくかが今後、大きな鍵を握るといえるだろう。
当社では、昨年より「コーポレートガバナンス/コーポレートカルチャーの改革」、「ビジネスポートフォリオ/ビジネスモデルの改革」、「ネットワークの改革」、「商品・サービスの改革」、「社員の役割及び生産性の改革」の5つの改革を柱とする経営3ヵ年計画「Innovation Jump up 5」を策定し実行に移している。具体的には、商品・サービスの改革として、情報発信の大幅な増大をめざす「セミナーの渦」、社員の役割・生産性の改革として、教育・研修体制の充実をはかるための「資格マイレージ」(ファイナンシャルプランナーの資格取得を昇格の条件とするなど)、「わくわくギネス」(仕事以外で社員がそれぞれ目標を設定し自ら記録を目指す)、また、ネットワークの改革として、銀行、信託、不動産、カード、ローンなど各種金融機関との提携ネットワークの構築に取り組み、多様化・高度化する顧客のニーズへの対応をはかるなど、その他さまざまな施策に取り組んでいる。
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