愛知製鋼株式会社 取締役会長の柴田雄次でございます。
このたび、産業懇談会木曜グループに参加させていただくことになりました。
よろしくお願いいたします。
私どもの会社は、1940年に、創業者である豊田喜一郎氏(トヨタ自動車の創業者でもある)の「良きクルマは、良きハガネから」との高い志のもとに、自動車用の特殊鋼製造を目的として誕生したいわゆる「鉄づくり」の会社です。そこで、ご挨拶とともに、「鉄づくりを通した地球環境への貢献」と題し、「鉄」にまつわるお話をさせていただきます。
【身近な金属:鉄】
鉄といえば、皆さんはどんな印象を持たれるでしょうか。私達は、日常生活の中で、直接・間接に鉄でできた様々な機械や器具を使い、その恩恵を受けていますが、普段は、「鉄」ということを意識したことはほとんどありません。例えば、自動車には、普通乗用車クラスで1台あたり数百キログラムの鉄が使われ、快適な走りと安全性を保証してくれているのですが、そんなことを意識して運転している人はまずいないでしょう。 このようなことから、私は、常々、鉄は「水や空気」のような存在として我々の生活の中に溶け込んでいる身近な金属であると考えております。
【鉄の起源】
鉄の起源は、約137億年前のビッグバンによる宇宙の誕生にまで遡ります。誕生初期の宇宙では、
基本的元素である水素とヘリウムの核融合が盛んに行われ、様々な元素が次々に生成・消滅を繰り返していきますが、やがてこの反応は、もっとも原子構造的に安定な「鉄元素」の生成によって終息します。そのようなことから、鉄は宇宙に豊富に存在し、宇宙が創造した「もっとも幸福な元素」とも言われております。従って、約46億年前に誕生したこの地球にも全質量の約36%を占めるほど豊富に存在する金属で、地球に住む生命体を育むと共に、我々人間社会の発展に様々な形で貢献し続けてきました。
【世界をリードする日本の鉄鋼技術】
世界の粗鋼生産量は、現在、約12.4億トン(2006年実績)ですが、今後もBRICs諸国を中心に増加し、2010年頃には15億トンレベルになると予想されております。日本の粗鋼生産量は約1.2億トンで量的には世界の約10%ですが、実は、世界一の高い品質と技術力を誇り、日本の自動車産業をはじめとした諸産業の競争力向上に大きく貢献してきているのです。
私どもが製造している特殊鋼は、主に鍛造品として自動車のエンジンや足回り部品に使われ、クルマの基本性能である「走る・曲がる・止まる」を保証する重要な役割を担っております。日本の自動車メーカが海外現地生産を拡大するなか、日本の特殊鋼のような高品質な特殊鋼が、現地ではなかなか手に入らず、引続き日本から輸出しているのが実情です。現在のところ、海外材とは相当の開きがありますが、海外の鉄鋼メーカも、着々と力をつけつつありますので、私共も現状に留まることなく、さらに研究開発を進め、技術力・商品力で優位性を保っていかねばなりません。私は、そのキーワードは、「地球環境貢献」にあると考えております。
以下に、この点について、現在の取り組みの一端をご紹介させて頂きます。
【地球環境への貢献】
20世紀は、目覚しい科学技術の進歩と技術革新により、大きな経済的発展を遂げてきましたが、その代償として、地球規模での環境破壊や、二酸化炭素の増加による温暖化など、大きな負の遺産を背負うこととなりました。21世紀は、この難問を一刻も早く克服し、持続可能な社会を再構築していくことが、我々人類の大命題となっていることはご存知の通りです。
当社は、良きクルマを造るために生まれた会社であり、クルマの環境対策には、「鉄づくり」を通して培った技術力で大いに貢献せねばならないと考えております。主要事業の特殊鋼分野では、鋼材〜鍛造品一貫生産の特長を活かし、高強度鋼開発によるエンジン、足回り部品の小型・軽量化や、自動車の動力機構変革に対する材料ソリューションの提供を進めております。また、新規事業においては、当社のオンリーワン商品のひとつである異方性ボンド磁石が、その優れた磁気特性から、自動車用小型モータの大幅な軽量化(従来比40%減)を実現し、今後さらに用途拡大が期待されています。
そしてもうひとつ、鉄づくりの工程での思わぬ大発見がきっかけとなり、鉄づくりの会社が、なんと生物学や植物学の世界に入り込むことになった新商品があります。実は、鉄のリサイクル工程の研究過程で、通常600℃以上の高温でないと安定して存在しないはずの酸化第一鉄(Fe0)が、ある条件のもとで常温で存在していることを発見したのです。私どもは、この酸化第一鉄が水に溶けやすいことを利用し、植物の光合成に不可欠な鉄イオンを供給する「植物活性材」として実用化することに成功しました。現在は、家庭菜園用や一部の専業農家の皆様にお使い頂いて好評を得ていますが、さらに研究を重ねるうちに、砂漠の緑化や、地球規模で拡大しているアルカリ土壌の改質にも役立ちそうだということがわかってきました。 土壌改良による植物再生や、バイオ燃料用穀物増産など、将来展望に大きな夢を描きながら取組んでいるところあります。
【おわりに】
6月はじめにドイツで開催されたサミット(先進国首脳会議)では、2050年までに温室効果ガスを半減するという方向性の合意がなされました。大変喜ばしいことです。次回議長国となる日本は、是非この取り組みのイニシアティブを取り、環境技術先進国としての存在価値を高めて頂きたいと願っております。
私どもも、「鉄づくり」においては勿論のこと、そこで培った様々な技術、新商品が、地球環境改善のお役に立てるよう、一層努力して参りたいと考えておりますので、どうか、今後ともご理解とご支援のほど、よろしくお願い致します。
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