テーマ:『 メンタル不全と企業リスク−メンタルヘルス対策の意義と実際の方法』
日 時:19年2月21日(水) 12時00分〜14時00分
場 所:名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者:21名 |
スピーカー:
宮下 研一(みやした けんいち)氏
ウェルリンク株式会社 代表取締役社長 |
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私事だが、35年にわたってお付き合いをいただいた学生時代の恩師が亡くなられて、調子が悪くなってしまった。自分自身は、今の仕事に携わっていることもあって、自信があったつもりだったが、意外にもろいものだ。誰でも何かの原因で、心の問題が生じる。しかし、心の問題は、目に見えず、傍目に分かり難いし、勝ち組みの方々にとっては、気合が足りないと映ってしまう。
厚生労働省の統計では、平成9年ごろから、仕事や職業生活に関してストレスや悩みを感じるという会社員が6割を超えてきた。ちょうど、この頃は、山一證券が倒産し、長銀、拓銀も消えていく時代だった。さらに平成14年ごろには、それまでになかった雇用の安定性や、将来性といった問題がストレスを生む強い要因になった。大きな会社に入れば、安定しているということが、この頃から大きく変わってきた。
以前は、いつもニコニコしていて、肩をポンと叩く。昼ごろに仕事を終え、雑談をしていたと思うと夕方になってどこかに行ってしまうニコポン部長という人がいたが、企業には、そういう「のりしろ」がなくなってしまった。上司や、先輩が一杯誘っては、後輩の不満を聞き、一方で説得したりする機会も減った。今や新入社員は1年で3分の1が辞めてしまうし、職場を見渡すと正社員だけでなく、派遣の人達が増えている。この派遣の人達は有期契約ということもあって、何を言ってもどうせ辞めると責任者が大変なストレスを感じている。
もともと学校、子ども達、先生のメンタルの問題が非常に大きくなってきて、彼らのために何が出来るかということから取り組み始めたが、平成12年ごろからビジネスになるほど、環境が変わってきた。今、自殺者は交通事故の5倍くらいで、年間3万人をはるかに越しているが、その実体は10万人くらいに上るのではないかというのが関係者の話だ。また、精神障害の労災補償は平成16年で500件に上っている。メンタルと非常に関係のある、脳疾患、心臓疾患もここ数年大幅に上昇している。厚生労働省は、平成12年にメンタルヘルス指針として、労働者自身によるセルフケア、監督者によるラインのケア、産業医等によるケア、専門家のサービスによるケアなどの心の健康づくりの基本的な考え方を打ち出していたが、昨年労働安全衛生法が改正され、月100時間を超える残業をした労働者から申し出があった場合、企業は医師の面接指導を受けさせ、疲労の蓄積があれば休暇をとらせるなどの措置をとらなくてはいけないことになった。
さて、ストレスには実は強い人と弱い人がある。それぞれの特徴は、強い人が鈍感で無神経、責任感ややる気が無い、自由奔放、楽天家という面を持っている。一方で、弱い人は繊細で気配りが出来る、責任感にあふれて努力する、自分より周囲を大切にする、リスクに敏感で堅実だという面がある。問題は、会社で働くとなるとストレスに強い人達ばかりでは、とても機能しなくなり、弱い人が実に重要だということだ。
また、うつになりやすい性格としては、真面目で、几帳面、堅実で綿密な仕事熱心な人、誠実で、律儀で、凝り性で勤勉という責任感が強い人、優しく、親切で善良な人付き合いの良い、家族思い、良く気を使う、物静かで繊細という人達があげられる。ストレスを受けると自律神経や内分泌系、免疫系に影響があり、交感神経は常に戦う状態を継続してしまいストレス性疾患といわれる胃潰瘍や、円形脱毛症などになる。
うつ病は、誰でもなりうる病気で心が弱いわけではない。むしろ先に挙げた性格を有する人がなる。うつ病になると、朝気持ちが沈むとか、興味を失ったり、仕事に取り掛かれなかったり、根気を失ったり、判断がつかなかったり、人と話すのがおっくうになったりする。体の自覚症状としては早く目が覚めたり、頭が痛かったり、食欲が落ちたりということがあったり、見た目で服装や身だしなみが乱れたり、笑顔がなく暗い表情になったりする。
うつ病の治療には、なにより休養が第一で医者に通わせる必要がある。薬がかなり効くようになったので、早く医師にかかると直ることも多い。うつ病のサインに気づいたら、傾聴することが大事だ。うつ病の人には「頑張れ」と言ってはいけない。というのは、その人は精一杯やっているからだ。その上で頑張れと言われるときれてしまう。一方で、抑うつ性神経症の人には「頑張れ」と励ますことも必要だ。
ストレスは、悪いものだと思われているが、ストレスそれ自体に良い悪いは無く、また、生きている上は、ストレスが必ずある。適度なストレスは重要で、やりがいのある、夢のある課題は良いストレスでもあるし、生産性の最大化を目指すことができる。
当社では、個人も、会社全体の健康度も測る調査が出来るし、新たなCSRの国際規格になるISO26000では、コンプライアンスの問題としてメンタルヘルスが入ってくるので、皆さんの役に立つことができるのではと考える。ねずみを使った動物実験でも、逃げ場を失ったねずみは早く死んでしまう。逃げ場も実は非常に大事だ。
電話相談などを実施している企業もあるが、抑うつ神経症なら相談してくる。しかし、うつの人は相談してこないので、問題が残る。したがって、当社のようなところを利用してもらうと良いのではないかと思う。 |