テーマ:『 新会社法とM&Aを活用した事業承継対策のご紹介 』
日 時: 7月12日(水) 12時00分〜14時00分
場 所: 名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者: 31名 |
スピーカー:日興コーディアル証券株式会社
名古屋支店長 藤堂 聡太郎(とうどう そうたろう)氏
第二ソリューション企画部部長
窪田 清之(くぼた きよゆき)氏
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もともと第二ソリューション企画部は、未公開企業のオーナーの皆様のさまざまな経営課題に対して、その解決策を提案することが本来の業務である。証券会社は株式の売買や投資信託販売という運用面の相談相手というイメージが強く、マーケットが良いと経営者の方々との話をする機会が増えるが、逆にマーケットが悪いと話す機会がめっきり減ってしまうという傾向にある。したがって、マーケットが良かれ、悪しかれ経営者の方々に相談いただける窓口を目指していて、運用面だけでなく総合的なコンサルティング能力が不可欠と考えている。
本日は、今、なぜ中小企業の事業承継が重要な課題となっているのかという背景、対応策、本年5月1日施行の新会社法における手法、東海地方特有の傾向の要因、後継者がいない場合の対策を幾つかご紹介し、ひとつでも参考になればと思う。
企業にはさまざまな問題点があるが、とりわけ中小企業には、相続、事業承継の相談案件が多い。経営面でも、信用面でも、技術面でもオーナーに依存している場合が多く、後継者へのバトンタッチがうまくいくか、さらに、業績が良く、財務体質のよい企業は株式の評価が高くなる傾向がある。贈与税は、1,000万円を超えると最高税率が50%という負担の大きい税制で、簡単には後継者に譲ることが出来ない。また、未公開企業の場合、換金性のない株式だ。金庫株は平成16年の税制改正で相続税の申告期限から3年間に限り、みなし配当ではなく、譲渡益課税として税率20%でよいので、いざとなれば会社に株を買い取ってもらえば良いが、会社に買い取られるということは後継者としての経営権はそれだけ弱くなるので、実質的には売れない資産である。
M&Aは、バブル崩壊後10年間は大企業の企業再編の動きの中から案件が多いということがあったが、昨今は、後継者難から上場企業へ身売りする案件が多い。中小企業にも優れた技術や、地方で圧倒的なシェアを持つところもあり、さらに、M&Aが経営手法の一つとして企業の売却にネガティブなイメージを持たなくなったこともある。
資本調達は、残念ながら日興コーディアルには融資の機能がないが、増資、ストックオプション、売掛債権の証券化、種類株式などの融資以外のさまざまな選択肢の中から、もっともお客様のニーズに合うのはどれかとアドバイスさせていただいている。
資産管理では、運用目的を考えた上で、ゼロ金利解除に伴う、金利負担をどう回避するかなど最適なプランを検討する。
IPOは、中小企業でも、経営者に明確な意志があって、投資家に説得力のある成長シナリオがあれば小さい会社でも上場できるようになった。最大のポイントは適切かつタイムリーなディスクロージャーができるかどうかである。そのため、内部管理体制の整備のお手伝いをしている。
なぜ、事業承継の相談が多いのか。その理由の一つは、資本金10億円以上の社長の平均年齢は20年ほとんど変わらないが、全社長の平均年齢は52.5才から58.5才と6才も高くなっていることから推定されるように、高度経済成長時代に創業した社長の多くが代替わりをする時代を迎えたこと。二つ目は、後継者難ということがある。子息がいるが医者になったり、大企業の管理職になったりして継いでくれない。子供が女性で継ぎ手がいない。また、社長は傍目には良いが、会社の借入金の個人債務や自宅を担保に入れていて、なにかあれば全てを失うし、おおきなリスクを負う職業で、精神的にも負担が大きいのが実情で、苦労を知っている人はそういう負担を息子や娘にさせたくない方もいる。あるアンケートによれば、20年以上前は子息が会社を継ぐ割合が80%。親族を含めると94%にもなったが、最近は子息が40%。親族が20%で、合計しても60%程度。残り40%は親族以外の後継者となっている。
社長は息子が継ぎ、自分は会長になったが、株は全部自分が持っているというような場合は、後継者が頑張れば頑張るほど相続税が大きくなり、それに気づいた途端、後継者がやる気を失うことになる。したがって、実は事業承継に関わる相談は、後継者からのものが多い。
どうして事業承継が未解決のままになっているのか。第一には、オーナー社長が事業拡大に専念されていて、仕事が生きがいとなり、相続税は払えば良い。沢山稼げば、半分は税金に持っていかれても半分は残る。あとのことはあまり考えたくないというケースがある。
二つ目は、長男は専務、次男が常務。三男が取締役でなにかの時にはなんとか上手くやってくれると思っているという場合もある。しかし、オーナー社長のにらみが利いて何事もなくても、亡くなるとお家騒動が始まるものだ。
三つ目は、事業承継は万が一なにかあったらということなので、親子間でもなかなか腹をわって話せない。まして古参の番頭役では到底話すことが出来ない。実際に健康を害されたりすると余計にアンタッチャブルとなるからだ。
事業承継には二つの側面がある。一つは経営権の移転、もう一つは自社株をいかに引き継ぐのかということで、財産権の移転をいかにスムーズに行うかという課題だ。
財産権の移転では、未公開株でも業績や、純資産次第で非常に高い評価になるので、後継者に移転することは簡単ではない。自社株の評価を行って贈与または譲渡を検討する必要がある。子息が複数の場合には、後継者には自社株を、そのほかの子供にはそれ以外の資産を渡す場合がある。万が一、相続が発生した場合には、納税資金も考えておく必要がある。
自社株を手放すことになったら本末転倒である。
アンケートでは、自社株の移転が最大の課題とした方が半数を占めた。基本的には、資産があるから相続税がかかるのだが、相続税の支払いは借り入れで賄っている姿が浮かび上がっている。相続財産は、換金しにくいという事実がある。国税庁の資料では、相続財産の7割以上は換金性の難しい資産だとされている。
未公開企業のオーナーには自社株が相続財産の一部になるので、より換金しにくいということになってしまう。
単純な計算で、5億円の相続財産があったとすると、相続税は1億になる。この時、標準的な割合では、1.25億円の換金性のある資産があるので相続税の支払いはなんとか出来る。
しかし、6.5億円の相続財産があると、換金性資産と税の金額がほぼ拮抗し、10億円になるとキャッシュショートが生じ、借り入れに頼らざるを得ない。
未公開企業のオーナーの場合、その未公開企業の株価が大変高くなるところが問題である。株式の評価方法には国税庁方式の相続税評価、DCF法、収益法、類似会社基準方式などさまざまな算定法があるが、ここでは国税庁方式をご紹介する。
例として、資本金7,500万円。売上76億円。経常利益7.6億円。当期利益4億円、従業員が95人の会社がある。株式の旧額面価格は500円。
まず、株価の算出は、類似業種比準価格と純資産価格を算出することになる。
類似業種比準価格は、同業種の平均株価に一株あたりの各々配当、利益、純資産価格を割り出し、類似業種との割合比較を算出する。この方式は、最も利益を反映するような計算式をとっている。
1株あたりの純資産価格は土地であれば路線価、有価証券は市場価格で洗いがえをする。結局、この算出方法は、会社が清算されたらどれだけ残るかという見方である。
それぞれの評価額を算出した結果、低い方の17,500円/株になったと仮定し、社長が発行株式数15万株の70%を保有していたとすると、相続税評価は18.4億円にもなり、相続人は相続税の支払いに大変に苦労する。
これを避けるには、ひとつの例として、後継者が息子さんと決まっていて株式移転をしたいと思っている状況なら、業績が下ぶれしたタイミング、取引先が倒産して売掛金が焦げ付いた、バブル時代に購入した土地を処分した、社長が退任して退職慰労金を支払うと利益水準が下がるタイミングなどに類似業種比準価格が適用できる会社なら、本業が下ぶれした時に株価が下ぶれするので、その時に一気に移すことを考えるべき方法である。
相続時精算課税制度は、事業承継には欠かせない制度で、65才以上の親から20才以上の子へ相続する制度で、一気に資産を贈与できる。2,500万円の控除があって、それを超えた分は20%課税となっている。相続時には贈与額と相続額の合計から計算された相続税から、すでに納めている贈与税を控除できる。
この制度の最大のポイントは、相続が発生した時の評価は、贈与時点の価格であることで、この制度を使って贈与した後、どれだけ評価が上がっても関係なくなってしまうことだ。
したがって、今後も株価が上昇することが予見されるなら、この制度は大変効果的である。
さて、この地域の特色として、株式を細かく分散している会社が結構ある。従業員、取引先、持株会など、いろいろに分散している。しかし、たとえば社長が10%しか株式を有していないとすると、会社は社長のものではなくなっている。分散している場合の問題点は、後継者争いのもとになるということである。
また、多くのグループ会社で複雑に株式を持っている場合もある。この場合は、グループとしての企業価値拡大の観点から、どのような企業ストラクチャーが良いのかという基本に立ち返って再編を検討する必要がある。合併、税制適格企業再編要件にも注意しながらする必要がある。最近は純粋持株会社が主流だ。
解決が困難になっているケースも出てきている。取引先から株式を購入していて、その価値が大きくなってしまった会社で、株式保有特定会社になってしまった場合である。
これに該当した場合、純資産価格でしか評価されない問題が生じる。
また、円高が進んだために、大手企業が海外に進出。とりわけ、東アジアに進出し、成功している企業も多い。中国、韓国の国々では再投資への優遇政策を行っていたこともあって、海外子会社の資産がおおきく膨れ上がった。このケースは他地域よりも多い。
ところで、5月1日に施行された会社法では、事業承継にあたって次のことができるのではないかと思われるが、税理士、弁護士に相談する必要がある。
例えば、甲氏に子供が3人いて、長男Aに会社を承継させ、B、Cには株以外の資産を分けてやりたいというケースである。甲社長の資産は株式がほとんどであったとすると、どう対応することが出来るか。
第一は相続株式の売渡請求である。まず、株主総会の特別決議で相続株式の売渡請求を可能にしておく。相続時には3人に株式が相続されるが会社で、B、Cからの自社株売渡請求を決定し、総会で売渡請求の議案を付議、可決する。B、Cは特別利害関係人のため、議決権の行使が出来ないので、決議に基づいて売渡請求を行う。そこで会社は株式を買い取って現金を渡し、長男は議決権比率が高まって安定する。
第二は議決権制限株式の活用である。まず、定款を変更し、議決権制限株式を発行可能にしておく。次に株式の無償割当等によって、甲に議決権制限株式を発行する。甲は遺言でAに普通株式を、B、Cには議決権制限株式を相続させることで、Aが実質的な経営権を握る。
第三は議決権について株主ごとの異なる取扱いの方法である。これは株主総会の特殊決議で、定款を変更し、Aだけに議決権を与え、B、Cの議決権を制限してしまう方法である。
第四は、配当についても株主ごとに取扱いを変えることが出来る制度を利用する。後継者Aに幾ばくかの株式を移転し、特殊決議によって、定款を変更し、株式数に関係なく甲、Aへの配当を均等に分配するように規定する。これによって、甲の相続財産の増加を抑えつつ、後継者Aの自社株移転資金の増加を図る。
第五は、株式無償割当と種類株式を使う方法である。甲から、Aに株式を少し移転する。次に取得条項付株式の発行ができるよう特別決議で定款を変更し、株式無償割当で株主に取得条項付株式を割り当てる。甲も、Aも株式数が大幅に増加、大半が取得条項付株式となる。取得条項付とは会社が買取ることができるオプションということだ。そのため、相続が発生したら甲社長がもっていた取得条項付株式を会社が取得し、相続人に金銭を交付する。Aは普通株式、取得条件付株式と金銭を、B、Cは金銭と若干の普通株式を取得することになる。
非上場に関わらず、株主が分散しているケースもある。オーナーとその関係の合計が50%程度で、経営に関係していない株主は換金したくても買い手がいない場合である。
この場合、新会社法によって、従来、金庫株については定時総会の特別決議が必要だったが、臨時株主総会の普通決議で良くなったので、擬似TOBを実施して、すなわち、総会で金庫株の決議を経て、取締役会で決議の後、株主に通知し会社が株式を買取るものである。これによって、株式の分散が抑制され、経営層の議決権比率が増加する。
事業の承継には、後継者が一人の場合、いかに株式を移転していくか。会社が大きくグループ企業が沢山ある場合は持株会社という選択がある。子会社の経営は任せて持株会社を運営する。後継者が複数あれば、分割してそれぞれを社長とする。
後継者がない場合、社長を誰かに継がせる。M&A、清算という方法もある。
しかし、会社を社員に継がせるのは、うまくいかないケースがある。というのは株式の評価が高くて、後継の社員に資金がない。あるいは、個人の債務の引継ぎをいやがるということがあるからだ。また、社員として有能なことと社長としてやれることは全く異なる。
人望もあって、技術者として、あるいは営業として優秀な場合は、社員を引き連れて独立してしまうこともある。
清算や廃業は方法としてはあるが、その手続き等を考えると、圧倒的に売却の方が有利だ。
会社を売却しても現金に変わるだけではないか、あるいは株式交換しただけではないかと思われるかもしれないが、ある仕組を使って、一旦現金になったものの評価を劇的に下げることが出来る。
それが相続税法24条の適用だ。これは年金受給権の評価減の規定であるが、たとえば、10億円の現金があって相続が生じ、銀行に預けた状態では、評価10億円は変わらない。
しかし、これを年間3.4千万円ごとの30年間にわたって支給される年金受給権とすると相続税の評価額が3億円となる。すなわち、7億円の資産圧縮である。相続税率が30%以上になる人にとっては年金受給権の評価減は圧倒的なメリットが生じる。これも検討すべき方法だ。
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