テーマ:『 名古屋のニッチトップ企業 』
日 時: 7月18日(火) 12時00分〜14時00分
場 所: 名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者: 17名 |
スピーカー:
岩田 憲明(いわた のりあき)氏
愛知学院大学 経営学部教授 |
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不景気な時に、名古屋にもこんな元気のある企業がある。皆で頑張ろうと企業を紹介していた。最近は、名古屋が見直されて、「名古屋は元気」と持ち上げられて、油断をしすぎのようにも思う。再び、本の執筆の話があるが、しっかり腰を落ち着けて経営をしている会社があるというニュアンスで書きたいと思う。
昔は、本を読むのが好きで学校に行き、経営学を学んでいたが、ある時、本を読んでいるのではなく、地元の中小企業で素晴らしい技術を持っている会社を探して紹介したいと思った。そのチャンスを与えてもらったのが、名古屋商工会議所の那古野塾だった。そこで、講演の内容のエッセンスを書いて本を出した。名古屋市工業研究所の異業種交流会でもアドバイザーとして参加し、毎月1回企業視察をしている。海外にも毎年視察し、昨年はウラジオストック、今年はウクライナ、ベラルーシへ行く予定だ。皆が行っていないようなところだ。情報源のもう一つの名古屋経営研究会は、なにもしない顧問で参加し、社長さんの話を聞いている。
この地域には、限られた分野で、日本トップという企業が大変多いことにビックリする。今度の本で取り上げたいとも思っている。経営はほとんど裏話で、自分なりの分析で紹介するつもりだが、名古屋のニッチトップにしたいと思う。ニッチは壁のくぼみという意味で、そういったスペース・市場においてナンバー1の企業がニッチトップだ。
― 安価なものを扱い、消費量が多くもない食品や日用雑貨という分野では次のような企業がある。
■真誠 関ヶ原インターのすぐ傍に、ゴマの博物館を有する。元々、創業者の社長(現会長)が商社にいてゴマを扱っていた。商社にとってはゴマはゴミと言うぐらい安くて商売にならないため取扱いをやめようとしていたところ、その効能を確信した社長が独立して起業。ゴマの皮は物理的にすり合わせてむいているところに技術がある。パンにぬるゴマペーストなど、用途開発を手がける。社員教育もユニークで、社長の考えを本にまとめ、社員に配って勉強している。
■伊那食品工業 寒天でトップ。伊那インターのすぐ近くに大量生産工場有り。和菓子屋と一緒に共同開発をするためのラボがある。コミュニケーションが重要だと共同開発の相手には、名古屋に泊まってもらって、日帰りでは帰さないというユニークな方針がある。
■天狗缶詰 鶉の卵でトップ。三河は鶉卵の産地で、小さな鶉の卵の皮をむく技術がある。元々、はごろも缶詰の下請け。おでんの缶詰が成功。最初はカゴメと共同開発して販売したが売れず、消防署や自衛隊の非常食として販売。インターネットで紹介していたところ、ベンディングマシン企業からアプローチがあり、全国的に広がった。
■貝印 使い捨て剃刀トップ。岐阜の奥で内職で組み立てられていたものを、ひとつの工場にまとめて、刃、取っ手のプラスチック、パッケージまで全てオートメーション化した。
■タニサケ ゴキブリ殺虫剤トップ。殺虫剤の開発、製法もオープンにしている。生産工程で月間200件の改善。売上高経常利益率30%。コストダウンを徹底し、知恵工場という。従業員に何をやったら儲かるのかを考えさせる経営の徹底。
― 生産財の分野でも日本一がある。
■フジミインコーポレーテッド シリコンウエハの研磨材トップ。細かい粒子をそろえる技術がユニークで門外不出。ここが止まると、シリコンウエハが生産できないと言われている。
■本多プラス 小型プラスチックビントップ。化粧品の材料が変化するのに合わせてプラスチックビンの素材も開発。本多電子の親戚。新城に本社。豊橋地区は筆の産地で、元々筆のキャップを作っていたのが出発点。修正液のビン、化粧品のビンへと繋がった。
■成田製作所 鉄道車両用の連結幌トップ。99%がこの会社のもので独占状態。
■森松工業 ビルの屋上にある水タンク・ステンレスタンクトップ。パネル工法を開発。上海の浦東空港近郊に工場を有し、インターネットを活用して工場経営を行う。社長は日本にいて、工場内のカメラをリモコンで操作し工場内の状況を把握。
■兼房 工業用刃物・製材所での木材加工用刃物トップ。いつまでも切れ味を保ち、へたらない。伊勢湾台風の時に工作機械メーカーの多い大口町へ移転。
■スギヤス 自動車整備用のリフタートップ。ビシャモンブランドで圧倒。
■本多電子 超音波機器トップ。癌などの検査機器・超音波顕微鏡を手がける。工場を有せず、研究開発のみ。
■フルタ電機 工場内ファントップ。ビニールハウスのファンへ展開。海苔の乾燥機、茶畑の防霜ファンを手がける。茶摘ロボット開発。家庭用から離れて農業・漁業向けに活路。
■樹研工業 100万分の1グラムの歯車などの超小型プラスチック部品トップ。
■江南特殊産業 電鋳金型トップ。自動車の皮シートの模様転写技術。メッキ技術の応用。本田自動車から全ての自動車メーカーへ展開。愛知ブランド受賞企業。
■立松モールド インパネ金型トップ。30t大型金型の製造技術。
■ISOWA 段ボール製造ラインのトップ。段ボールの内側のなみなみを作る技術、印刷しカットする技術を有する。キャノンとの共同開発プリンターで、マイ段ボール、マイボックスを開発。
■生方製作所 バイメタルスイッチトップ。名工大の先生が起業。地震時にガスを止める感震器開発。パソコン落下時の無重力を感知してデータ保護する装置開発。
■ファースト 組立式メニュースタンドを開発。元々看板屋で、メニュースタンドを標準化してパーツに分けることに成功し、看板メーカーに納めている。
■八幡ねじ ねじをジャストインタイムで、ホームセンターに配達。作るノウハウではなく、届けるノウハウで成功。富士通のSEが第二創業。
― 多品種少量で作ることが面倒なところを手がけているところもある。
■天龍工業 一人用、二人用、大きさが異なるバスシートメーカのトップ。
■パブリック 飲食店用の椅子机トップ。店舗に合わせて多品種少量で生産、ジャストインタイムが特徴。
■南谷製作所 自動車エンジンのクランクシャフト検査冶具製作。シリンダーブロックの検査冶具。穴の大きさ、向きにあわせて検査できる治具に特徴。
■コメ兵 いくらで売れるかということを前提として、買取のノウハウを活用。
― 顧客層を限定してしまうというものもある。
■ヴィレッジヴァンガード マニアックな若者向けの本と雑貨の店。変人・奇人しか相手にしない。普通の人が行っても欲しいものはなにもないという特色がある。
■松永製作所 車椅子を量産化してコストダウンを図った。
■二デック 興和の技術者が独立して起業。眼鏡店の検査機器でスタート。
― 成熟市場を狙った企業もある。
■あいや 抹茶を扱い、抹茶アイスなどの用途開発。
■美濃坂 焼肉のさかいの関連会社。関の刃物を販売。槍を製作し、浅草で販売したところ外国人バイヤーの目に留まって大ヒット。十手、熊手も手がける。
■東海機器 畳ロボットの開発成功。
■TBR 組み紐でトップ。
名古屋の経営者のマインドを分析すると、親戚、兄弟が周りにいて、倒産、夜逃げが出来ない。存続そのものが重視される環境にある。ここではずっと続いていることが重要。
御園は、そもそも伊勢神宮に納める野菜を作ったところと言われる。そのことからもわかるように、この地域は農業が豊かで、商業がさらに発展した。
消費者の行動は、バーゲンセールになると駐車場に入れないというくらいで、それまで品定めにずっと考えていて、いざとなったらすばやく行動する。見る目が厳しい。
レストランは食べられれば良いという店がなく、店と家庭との戦いの場となっている。
トヨタでいじめられた部品メーカが世界一になっている例もある。
関東・関西からの脅威に晒され激戦区。激戦区だから鍛えられる。本業を重視して、差別化に努力している。ホームランではなく、ヒットの積み重ねを狙う。小さな市場で、特殊な市場ではあるが、1千万人の市場でもある。
オーナー企業が長期投資をし、内部留保に努めたり、伝統的モデルは非公開企業で大企業。安定、ゆっくり成長を狙うのがこの地域の特色だが、ヒルズ族に代表される上場、急成長を目指すシリコンバレーモデルの対極にある。私立大学だけでも年間1万人が創出され、空港、港、東海環状道などの万博後のインフラも残っていることが強みだ。さらに銀行は名古屋金利といって厳しい貸出競争に晒されているが、ここを勝ち抜く三河の信金などは全国的見ても財務体質が優良だ。
― 最近は、名古屋から関東へ進出し、本社を東京に移す新名古屋モデルも出てきている。
■プラザクリエイト 写真現像。
■モック 結婚式の二次会サービスのエージェント。
■世界の山ちゃん 社長が元自衛官。手羽先から揚げで成功。
― 他府県出身者で名古屋で成功していく例として
■ヴィレッジヴァンガード
― 再起型として
■引越社 旦那がリストラされたのを、奥さんが社長として頑張って成功。
■セリア 友人の借金の保証人となって失敗した社長が100円ショップを展開して成功。
新名古屋モデルは存続志向から成長志向へと変わりつつあり、その原動力は若者であり、よそ者であり、再出発だ。新たなトップ企業が生まれて来ることを期待したい。 |