テーマ:『 独立行政法人 国立病院機構の話 』
日 時: 5月17日(水)12時00分〜14時00分
場 所: 名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者: 19名 |
スピーカー: 小野 高史(おの たかし)氏 東海旅客鉄道株式会社 執行役員 |
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私は、1973年に銀行に入り、10年して名古屋支店に勤務した。その時の建物は、今取り壊し中で、時の経つのを早く感じる。87年4月に国鉄の分割民営化が実施された。その年度の終わりごろ、88年1月にJR東海に出向した。その後、一旦、銀行に戻り、98年に改めてJR東海に入社した。2004年に、独立行政法人国立病院機構が発足し、役員に民間人を入れるという話があり、非常勤監事に任命されて、現在、2期目である。
さて、独立行政法人とは何か。橋本内閣時代、平成10年の中央省庁等改革基本法で、独立行政法人の制度設計がされてできたもので、その主旨は、国が有する企画立案機能と実施機能を分離し、企画立案は霞ヶ関、実施は責任を持った組織体が機動的に行って、効率化を図るというものだ。また、中期計画を定め、その計画の中で自主的な経営をし、経営成績・業績について一定の評価をして、経営形態の良し悪し、役員について見直しをすることになっている。現在、造幣局や国立美術館、博物館などの104法人があり、11法人が依然として国家公務員の身分である。この独立行政法人における常勤職員は69,000人、中でも国立病院機構は47,000人の職員を抱え、日本最大である。
国立病院機構は、平成16年4月に設立。平成4年時点で、国立病院の特別会計に対し、一般会計からの繰り入れが四分の一の2,400億円ほどに達し、統廃合による経営改善計画が策定されていた。そのため、240ほどの病院が、150ほどになってスタートした。尚、国立がんセンターや、国立国際医療センターなどの高度医療機関は独立行政法人には移行していない。この国立病院機構の経営理念は、なにより国民に安全、安心、質の高い医療を提供することであり、僻地医療などの地域の偏在をカバーし、難病などの民間では取り組みにくい政策医療もを行う。また、臨床、治験の中から新しい治療法、薬の開発や、医療人材の教育や、国内外の災害にも医療人材を派遣している。
東京に本部を置き、全国を6つのブロックに分けた。施設として旧病院と旧療養所とがあり、旧療養所は、もともと環境を考えたロケーションにあるため、経営的には厳しく、三分の一は赤字である。役員は、医師である理事長を含み15名で、民間からも登用されている。名古屋エリアは、東海北陸ブロックにあたり、同ブロックは19病院を有している。
独立行政法人となって、何が変わり、あるいは変わらなければいけないかという点について、まず、企業会計原則を導入し、透明性を確保、財務規律を向上させたことが大きい。国の時代は、予算主義で現金会計。即ち、予算がとれただけの仕事をするという姿勢であった。また、今のところ、非課税法人であり、自らの努力で利益が出たら、自らの再投資に使える仕組みになっている。投資採算性の確保ということでは、全ての病院で毎月決算をしていて、病院のどこに問題があり、医師は何をすべきか、ナースはどうか、事務はどうかという課題、役割を明確にして改善していくことを行っている。これが全体としての病院の評価にもなる。また、1ベッドあたり投資はいくらという基準を決め、過大な投資にならないよう尺度を設けた。ただ、病院の安全のための投資は、命を預けることへの投資であり、そのことを踏まえた投資を実施するつもりだ。さらに、7,000億円という収入があるので、その規模を生かした共同購入、競争入札を導入し、経費削減の工夫をしている。病院機構の職員は、国家公務員の身分ではあるものの、給与や勤務時間などは公務員法の適用除外だ。一方で、労働三法が適用され、労働三権のうち争議権はなく、団結権、団体交渉権がある。
これからも国立病院機構では、中期計画の中で謳っているように質の高い医療を提供するつもりだ。患者の満足度を向上できるようアンケートを活用し、最近話題のセカンドオピニオンは当機構のどの病院でも実施している。医療事故が起きないような事前の対策に取り組み、さらに今までの治療結果を踏まえた医療標準の作成等によって市中の診療所との連携を図る。効率的な業務運営においては、初年度から経常黒字を実現した。そのため借入金は約80億円を減らすことが出来た。尚、現在の税金の投入は約510億円あるが、その内、国時代の退職手当の補填が430億円ほどで、残り80億円が政策医療によるものだ。
これからは、老人医療と生活習慣病が医療費を増加させる。政府試算よれば医療給付は2006年度が28兆円。なにも改革しないと、2025年には56兆円にのぼる。この抑制のために、政府として高齢者の負担の見直しや、高額医療費の自己負担分の引き上げなどをした。一方、病院では、先進各国との比較において問題化されている在院日数の多さを削減するため、典型的な病気に関しては、入院後の処置計画案を作り、これを現場で実践し始めた。これによって、現実に在院日数を削減することが出来つつある。
生活習慣病や有病者はもちろんだが、予備軍が増大していることが問題だ。この対策には「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後に薬」しかない。
ところで、JR東海総合病院は、名古屋セントラル病院として、新たに7月オープンする。
最先端医療機器を利用した、高度先進医療を中心とした医療に取り組む。当院の病院長は、国立病院機構名古屋医療センターの院長であった斎藤先生が就任する。その斎藤先生からいただいた言葉で締めくくりたい。「日頃からかかりつけの医師をもつことが大事であり、その医師が専門病院へ紹介ルートを持っていると良い。人間はほとんど自然治癒できるが、そうでない時に医療が必要になる。しかし、なによりも予防することが一番大事だ。」
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