テーマ:『 エネルギーと環境 』
日 時: 4月11日(水)12時30分〜14時00分
場 所: 名古屋観光ホテル 18階 伊吹の間
参加者: 18名 |
スピーカー:
山本 豊 (やまもと ゆたか)氏
株式会社テクノ中部 取締役社長
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テクノ中部は、主として火力関係の燃料設備の運転保守、燃料の輸送荷役、原子力関係で放射線の管理、廃棄物の取り扱い、環境アセスメント・調査をはじめとした環境コンサルティング、環境物質の測定を行っている。
本日は、私が中部電力で長く火力関係の建設と運営に携わってきた経験を踏まえ、日本のエネルギー事情、電気事業の環境への取り組み、新エネルギー、テクノ中部の取り組みをご紹介したい。
さて、主要国のエネルギー消費であるが、日本は世界で4番目に高い国だ。石油の依存度が5割ある。一次エネルギーに占める電力の割合は4割。電力への依存は年々高まっている。原子力を除いては96%のエネルギーを海外から輸入している。フランスは殆ど資源をもたないが、原子力発電を積極的にすすめて、輸入依存度は49%に留まっている。中国は、かつてはエネルギーの輸出国だったが、最近はエネルギー・油の利権獲得に躍起だ。
日本のGDPあたりのエネルギー消費量は、主要国の中で最も低い。エネルギーを効率よく使っている。日本は石油危機で、エネルギー政策は安定供給の確保が第一となった。そして、石油に頼らないエネルギーの多様化を目指してきた。最近は、環境保全への取り組み、さらに効率化を目指して規制緩和・自由化が進められてきている。
電力は、経済成長に伴って、今後も伸び続けると予想される。発電方式は水力から石油、石油危機以降は原子力、石炭、LNGが増加してきている。
一番最初の環境問題は、二酸化硫黄SOxの問題である。昭和30年代後半に四日市の公害が出て、同42年公害対策基本法、同43年大気汚染防止法が制定され、硫黄酸化物の規制が進んだ。同49年に総量規制が実施された。これに対応するため、火力発電では、排煙脱硫装置を設置し、同45年頃にLNGを導入、同50年頃には油の低硫黄化が進んだ。
こうした取り組みによって、発電電力あたりのSOxとNOxの排出量は、他の先進国に比べて非常に低い。中国は、2004年のNOxの排出量が日本の27.7倍。SOxは68.7倍であり、日本の技術協力でなんとか中国での排出量を削減したい。
私がかつて携わった碧南発電所は、石炭火力発電所として世界第二位の規模だが、世界トップレベルのクリーンな発電所で、施設の面積規模として、環境対策設備の方が大きい。また、発電所の建設コストは9,600億円だが、その内20%以上が緑化も含めた環境対策設備費である。脱硫装置では、排ガスに石灰石を混ぜたものを入れ、硫黄を取ってクリーン化し、副産物を石膏の形でとって利用している。脱硝装置は、アンモニアを注入して触媒を通ることで、窒素と水に分解してクリーンにしている。
次にCO2の取り組みだが、総量としてのCO2排出量は20年前の1.2倍。米国、中国、ロシア、日本、インドの順。米国は京都議定書を批准していないし、中国、インドは対象外。今後の大きな課題だ。京都議定書において、日本は1990年レベルに対して△6%にしなくてはいけないが、2002年にはすでに8%増となっている。私見だが、京都議定書は、もともと省エネが最も進んでいた日本にとって、大変厳しい取り決めだったと思う。他国への投資した分を日本の削減分としてもらうCDM(クリーン開発メカニズム)を利用しないと不可能な目標だ。英・独はほとんど目標を達成したが、それは効率の悪い石炭火力があって、LNGの導入で容易に達成したものだ。米国は経済成長を阻害せず、数値目標を達成するのは到底不可能であり、結果として離脱している。
中部電力の地球温暖化対策としては、使用電力量あたりのCO2排出量を2010年に1990年の20%削減する目標を定めて、原子力発電の推進、火力発電所の熱効率向上、送配電損失率の低減、新エネルギー導入などに取り組んでいる。また、電力の効率利用を支援し、お客様に省エネをPR。新エネルギーからの電力購入もしている。
CO2の排出量は電力使用量のわりには増えていない。これは原子力発電によるところが大きい。日本の火力発電の熱効率は世界のトップレベルで、電源別のCO2排出量は石炭火力を100とすると石油が70。LNGが50〜60。太陽光、風力、原子力は運転に伴う排出量はない。発電コストでは石炭5.7円/kwhで、原子力は同じぐらい、LGNはやや高い程度だ。しかし、太陽光、風力はその数倍以上かかる。結局バランスの良い組み合わせが必要。
新エネルギーは、技術的に実用化段階に達しつつあるが、経済的な面で制約があって十分に普及していないものである。石油代替エネルギーの促進等に特に寄与するものとして、自然エネルギーの太陽光、風力、およびリサイクルエネルギーとして廃棄物などがある。再生可能エネルギーとしてバイオマスがある。メリットとして、太陽光、風力は、枯渇する心配がない。発電時にCO2を排出しないなどがあげられる一方で、エネルギー密度が低く、不安定性、設備に関わるコストが高くなるなどの経済性に問題がある。廃棄物発電はダイオキシンの排出対策等の問題がある。最近話題の燃料電池にはSOx、NOxの問題はないが、耐久性と経済性に問題がある。原子力を止めて新エネルギーで対応すべきという話があるが、100万kwをつくろうとすると、たとえば風力では名古屋の面積の75%が必要であり、その稼働率は20%程度。したがって原子力や火力には到底敵わない。あくまでも補完的なエネルギーと考えるべきだ。
2004年度の風力発電の導入実績は92.6万kwで924基が稼動。世界的には、欧米での導入の実績が高い。ただ、ドイツのようなところでは、地形として平地で、風が一定の方向から吹くので、導入しやすいということがある。日本では、風の良い場所は国立公園が圧倒的に多く、景観の問題等があって、ここに導入するのは難しい。沿岸では漁業権、日本海側では冬の高浪など、建設費が高くなるなど普及への支障がある。
バイオマスエネルギーは生物が作り出す、有機物を使う再生可能なエネルギーで、例えば間伐材をガス化して発電、食品の廃棄物をメタン発酵させて燃料電池で発電するものがある。しかし、間伐材や廃棄物を発電する場所へ運搬するのに多額の費用がかかる。経済性の確保というのが、大きな課題である。ただ、発電だけではなく熱を利用するなど、もう少し、大きな観点からの利用法を考える必要がある。
燃料電池は、大きくわけて作動温度が80℃〜200℃という低温型のものと650℃〜1000℃までの高温型のものがある。高温型のものに溶融炭酸塩形(MCFC)と、電解質にセラミックを使った固体酸化物形がある。一方、低温型は自動車や家庭用で話題になっている固体高分子形とリン酸形の二つがある。万博では、MCFCという燃料電池を使い、一日4.8tの生ゴミから発電、排熱は空調に利用した。家庭用は、実用化のために耐久性が問題だ。当面の目標として、4万時間が必要だが、現在は1.3万時間の実績となっている。さらにコストは10分の1になる必要がある。自動車は、家庭用よりも厳しく、現状のコストの100分の1以下にする必要がある。燃料電池は、コストの問題が大きいが、電極を安いものにするというような技術的なブレークスルーが望まれる。
エコキュートは電気の力で、空気から熱をくみ上げ、使用する電気エネルギーの3倍以上のエネルギーを取り出すもので省エネ機器である。これを使ったオール電化の家庭も増えている。
次に大きいのは、環境問題としての廃棄物の問題。テクノ中部が直接に関わっている。中部電力では廃棄物のリサイクルを89%しているが、廃棄物の圧倒的なウェイトは 石炭灰である。
この石炭灰には目の細かいフライアッシュと粒子の粗い多孔質のクリンカアッシュがある。フライアッシュについてはセメントと混ぜてダムに使われるフライアッシュセメントとなる。新しく開発したものとして人工ゼオライトのシーキュラス(商品名)は多孔質を利用して、ガスの吸着や土壌改良に使うようにした。クリンカアッシュはランドプラスやランドプラスZの商品名で農業用等の土壌改良剤として利用いただいている。
当社は藻場造成事業も行っている。藻場は産卵場、稚魚を育てる機能、水質浄化機能等重要だが、これが消失しつつある。中部国際空港の沿岸壁にこの技術を役立てた。
鳥類調査も実施し、従来、人の観測だけでやっていたものを機器を使って取組んでいる。これは中部国際空港の環境アセスメントにも利用していただいている。
さらにビオトープの設計もしている。碧南火力発電所のところでも使っていただいた。
皆さんには、見学施設もあるので、是非一度お出かけいただきたい。
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