テーマ:『金融市場あれこれ』
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日 時: 5月13日(水) 12時30分〜14時00分
場 所: 名古屋観光ホテル 2階 曙・西の間
参加者: 16名 |
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1 はじめに
農林中央金庫は、農林水産業の協同組合等を会員とする、協同組織の全国金融機関です。似たような機関として、国内では信金中央金庫、海外ではフランスのクレディアグリコール、オランダのラボバンク等があります。
総資産は60兆円。貸出金が17兆円弱、有価証券投資が約30兆円となっています。都市銀行さんに比べると、有価証券のウエイトが高く、わが国金融市場においては主要な機関投資家でもあるわけです。
私も通算すると8年ほど金融市場部門におりました。前半は国内債券投資部門、後半は債券ディーリング部門・証券業務部門です。今回は、私のマーケット時代の経験から、債券市場を中心に、金融市場の話をしてみたいと思います。
2 債券市場について
債券市場(中心は長期国債の売買市場です)は、株式市場や為替市場に比べ、マスコミ等で報道されることも少なく、一般的には馴染みの薄い金融市場だろうと思います。ただしその市場規模は大きく、長期金利を左右するマーケットですから、市場経済全体への影響は極めて大きいものがあります。
昨年の夏は下がりすぎた長期金利があっという間に上昇しました。国債の単価の変動で見ると債券先物(6%クーポンの10年債)で145円から135円まで、下がったわけです。100億円長期国債を保有してれば、ピークから10億円評価が下がったということになります。そういう意味では結構、変動が大きい市場ということができると思います。
債券のマーケットは少しずつ値段が上がっていって、ある日突然急落する、というパターンがわりに多いのです。昨年の夏はこの典型のようなものです。急落の場面では、不安心理が増大し、売りが売りを呼ぶ展開になります。マーケット参加者はいつも不安でいっぱいなのです。
3 債券ディーラーの一日
マーケット担当者は朝早く出勤します。前日の海外市場の分析や当日のスケジュール確認などをこなすためです。業者間市場が開いて、続いて先物市場がスタートします。私が担当した頃は先物市場が中心でした。
まず、午前中の日銀の金融調節の時間の前後に市場は動きます。現在は超緩和ですが、当時は日銀のオペレーションにビビッドに反応しました。日銀の金融調節といえば、プラザ合意の後の高目誘導(短期金利を高めに誘導して円高を実現)は強烈でした。そのおかげで市場創設直後の債券先物はストップ安が続きました。
国債の入札もマーケットを動かす要因です。発行条件・発行量が好感されたり嫌気されたり・・。入札結果でもいろんな思惑が交錯します。不調な入札では、業者が投げ売ってくるだろう、との連想で売り込まれるわけです。湾岸戦争の時代、金利が上がって、5年の金融債が8%をつけた時期に、10年長期国債の条件を7.9%に設定して発行されました。大蔵省が市場実勢を尊重した発行条件としたのです。市場はこれを好感し、その後は金利低下に向かいました。
私が担当していた頃の10年国債の発行は月に1兆円前後でした。それでも、タイミングによっては市場に荷もたれ感が生じたりしました。が、現在は10年債で月に1兆9000億、その他に20年債などもバンバン発行されています。よく消化できてるなあ、と感心しますね。
4 今後わが国金融市場の注目点
足下の金融市場を概観しますと、わが国株式市場は景気回復を織り込んで順調に上昇した後、米国金利の上昇による米国株式市場の調整を受けて、現在調整局面を迎えています。長期金利については、昨年の夏に急上昇した後、福井総裁がこの名古屋で「安定的に消費者物価がプラス基調を継続するまで政策変更しない」と講演された以降、落ち着いている状況です。
ただ、物価を見ますと、企業物価は上がってます。原油価格も湾岸戦争時の高値(WTIで40ドル)に乗せてきました。消費者物価は0近辺ですが、いずれプラスになるでしょう。いつ、今のゼロ金利政策・量的緩和が解除されるのか、ということがやはり気になってきます。長期金利は昨年の夏に一旦上がってますが、さらに上昇するのかどうか、が注目点でしょう。
株式市場の調整のきっかけが、米国金利の上昇であるならば、わが国株式市場の調整は一時的なものかもしれないと思います。大体の論調は大きく動いた方向での論調になりがちですが、大方の意見がそろった時にはマーケットはその逆に行くケースも多々あります。
金融市場は参加者たちがいろんな材料・予測を織り込んで価格形成しています。そういう意味では、予測したこと・織り込んだ材料と現実が違ってきた時におおきく市場は動きます。市場のコンセンサスと異なる実体が現れるリスク・・そんな場面もあるように思われますがどうでしょう。
マーケット経験といっても一昔前のもので、ホットなお話にはならなかったと思いますが、なんらかの参考になれば幸いです。