【6年2月度 産業懇談会(木曜G)模様】

テーマ: 『 エネルギーと安全保障 』

  • 日  時:令和6年2月1日(火) 12時00分~14時00分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 3階 桂の間
  • 参加者:27名
スピーカー:
片岡 昇(かたおか のぼる)
双日株式会社
中部地区管掌兼名古屋支店長
写真:片岡 昇氏

自己紹介

 大学・大学院では物理・原子核工学を専門として、X線を研究していた。日商岩井株式会社(現双日株式会社)に入社してからは、アメリカ留学や駐在を経験、MBAも取得した。また、新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)国際部に出向してアジアを担当し、GXなど日本の技術の海外普及を目指す多くのプロジェクトマネジメントに携わった。このように40年間一貫してエネルギーに関係する仕事をしてきた。
 現在は、大学の理工学部で非常勤講師も務めており、技術開発が国際社会に与える影響について大学3年生に伝えている。また、教鞭をとる傍ら博士課程に在籍しており、勉強している。

SDGsの復習と世界の実態

 私はエネルギー問題をライフワークとして考えているがために思い入れも強い。本日は個人的な思いを含めてお話しすることをご了承いただきたい。
 エネルギーを語る時にSDGs、気候変動、地球温暖化は避けて通れない。今やSDGsは中学生でも習うほどの広がりをみせている。SDGsの17のゴールの下には、169の定量的な目標、いわゆるターゲットが設定されている。1つ1つ単独では素晴らしい事ばかりであるが、これらの目標を鳥瞰すると両立できないものがある。例えば、夜勉強するための照明用の電気が欲しい子供が、再生可能エネルギーの電気か否かを気にするだろうか。また日本で更に太陽光発電施設を敷設するには山林を削ることになり環境破壊になる。この視点でSDGsの目標を再び眺めると、全てを解決する事は非常に困難である。国連が継続的に行うアンケート調査MY WORLD 2030ではSDGs17の目標のなかで、最も重要と考える6つを聞く質問がある。これまでに日本から参加した約1,000人の回答では、「2.健康と福祉」の次に「13.気候変動」が重要と言われている。一方、世界を見ると「8.働きがい、経済成長」が最も多く選ばれている。このように国の事情によって全く優先度が違うのだ。世界中がカーボンニュートラルを最重要とは考えているわけではない。こうした事実をマスコミは全く伝えていない。

気候変動・地球温暖化

 日本では世界中が脱炭素やカーボンニュートラルに向かっていると言われるが全くそんなことはない。世界で2050年までにカーボンニュートラルを達成しようと言っているのは一部の先進国だけである。2060年・2070年までに目標を達成しようと言っている中国やインド等は、前述の先進国の様子見をしている状態と言えるだろう。こうした国々の人口は約33億人もいる。すなわち、世界人口約80億人のうち、4割の人がカーボンニュートラルにどれほど真剣に取り組むのかは未知数ということになる。
 CO2と気温を相関関係と因果関係でみると、1900年頃から平均気温も大気中のCO2濃度も上昇している。ところが1940年から1980年までの40年間でCO2は急激に増えているが、平均気温は下がっている。この原因は不明であり、相関関係はあるように見えるが、因果関係は解らない。ある研究者の調査では、気温が上がった後にCO2濃度が上がっていることが示されている。気温が上がり、海水の温度が上がったため、CO2が大気中に放出されたという逆の因果関係の考え方もある。また、地球の気温には太陽光が大きく影響する。宇宙物理の視点では太陽との距離や地軸の傾き、自転軸の歳差運動が気温上昇に起因したとも考えられる。それ以外にも、太陽活動や火山噴火、長期的な海流の変化など様々な要因があるが、国連の地球温暖化の議論には入っておらず、話が単純化されすぎているように思う。
 地球温暖化と温室効果ガスの人為的輩出との因果関係には肯定・懐疑・否定、様々な見解がある。私は人為的CO2排出だけが温暖化の原因という考え方に懐疑的であるが、世の中では肯定する意見が主流となっている。その大元となっているのがIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の「地球温暖化の原因が人間の温室効果ガス排出によるもの」という報告だ。これまでは「可能性が極めて高い」としていたが、近年の報告では「疑う余地がない」と断定した。マスコミ等によってIPCCは絶大な信頼を寄せられており、多くの科学者がその報告に追随して論文を発表している。しかし、IPCCは自らが研究するのではなく、世界中の気候に関する科学論文を集めてきて分析する機関であるということを忘れてはならない。

COP議論の変遷

 COPは1992年に世界197ケ国が「気候変動枠組条約」に合意した事から始まる。「共通だが差異のある責任」がキーワードであり、これまでに排出されたCO2は主に先進国に責任があるということを意味する。京都議定書(COP3)では参加する先進国のみが削減義務の対象となっていたが、パリ協定(COP21)では先進国と途上国の区別はなくなった。また、トップダウンの地球全体の温度目標とボトムアップのNDC 設定が並立する状態となり、そのバランスは変容を続けている。
 日本は1.5℃目標達成に必要なCO2排出削減は2030年で45%、2035年で63%、2050年にはネットゼロとしている(2019年比)。この達成には、経済が停滞したコロナ禍における5.5%を大きく上回る削減が必要となり、よほどの技術革新が起こらない限りコロナ禍以上の経済損失を伴うことになる。温室効果ガス削減には各国の多様な思惑があり、多額のコストも生じる。

人類とエネルギー・経済成長

 産業革命以降、人の1日当たりに消費するエネルギー量は増加し、20万kcalになった。原始時代は食事のカロリー数と等しい2,000kcal程度だった。木材に始まり、天然ガス、ウランに至るように人類の歴史はエネルギー密度の高い燃料を追求してきた。
 一人当たりのGDPが高い先進国ほどエネルギー消費が大きい。途上国も先進国の方向を目指している。人間はエネルギーを追いかけてきた。

覇権の近代化・シェールガス

 エネルギーは世界の覇権争いと全く同じ構図である。中世は石炭を巡って欧州で戦争が、近代は英国・米国が石油を戦略物資とし、第二次世界大戦の際、日本が東南アジアに領土を広げたのも、米国の対日石油禁輸により東南アジアに石油を求めたことが大きい。ロシア・ウクライナ戦争も天然ガスが鍵となっている。近年は技術革新によるシェールガス革命により、米国が世界最大の天然ガス生産国となり、天然ガスの価格は日欧に比べ、大きく下がっている。これがアメリカの強さだ。

日本のエネルギー危機

 資源エネルギー庁によると2030年でさえも日本は化石燃料に7~8割依存している。日本政府はエネルギー供給において一番重要なことを3E+S、すなわち安全性を最優先としたうえで、安定供給・経済性・環境を維持していくこととしている。しかし現在、日本のエネルギーは危機的状況にあると感じている。再生可能エネルギーの急増により、火力発電に投資ができなくなり、効率が低下する。これを補完すべき原子力発電所の稼働が遅れている。東日本大震災から10年以上経過しているのに、36基中10基しか稼働しておらず、これまでに何度も電力不足の危機に陥っている。政府が打ち出した電力買取制度や電力小売の自由化もうまくいかなかった。電力事業は公益事業であり、人命に関わる。

まとめ

 持続的な経済安定・成長の基盤であるエネルギー問題は、歴史を大きく動かし続け、現在の地政学とも不可分である。また、地球温暖化問題とエネルギーについて世界の国々はそれぞれまったく異なる情勢にあるが、日本のマスコミの多くは一つの側面あるいは極めて偏った内容を報道する傾向にある。環境保護を御旗に掲げる欧米の政策に日本が唯々諾々と従うのは安全保障の観点からも非常に危険だ。過剰な脱炭素優先主義は、世界中の格差や分断を助長する可能性が高い。自前のクリーンエネルギー生産について圧倒的に不利な日本は、世界のリアリティを見据え、クリーンエネルギー生産のための政策と技術開発によって世界に貢献すべきである。経済発展とCO2削減を両立するため、東南アジアや東アジアと連携した取り組みは既に始まっている。こうした取り組みがCO2削減に向けた現実的な努力であると確信している。

目次へ

【6年2月度 産業懇談会(水曜第2G)模様】

テーマ: 『 採用市場動向と早期離職を防ぐためには 』

  • 日  時:令和6年2月14日(水) 12時00分~14時00分
  • 場  所:若宮の杜 迎賓館 1階 橘の間
  • 参加者:33名

スピーカー:

写真:鈴木 博之氏
鈴木 博之(すずき ひろゆき)
パーソルテンプスタッフ株式会社
執行役員 広域事業本部長
写真:小林 祐児氏
小林 祐児(こばやし ゆうじ) [リモート参加]
株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部
上席主任研究員

<鈴木博之氏>

自己紹介

 1974年に千葉県に生まれ、1998年に当社に入社した。関東、関西のエリア担当を経て2021年4月より、中部地域に赴任した。趣味はトライアスロン、御朱印集めで、名古屋グルメも大変好きである。

採用市場の動向

 2023年9月時点で全国の転職求人倍率は2.39倍だ。増加する転職希望者数を上回るかたちで転職求人倍率も上昇している。特にカーボンニュートラル関連や技術者の需要が増えており、最近ではインバウンドに関係する職種の需要も増えている。中部エリアでは同月の転職求人倍率は2.27倍である。傾向は全国と同様であり、 特にIT業界の求人倍率が6倍を超え、競争が激化している。また、若手の確保のため、第2新卒の採用ニーズが高まっている。採用に工数がかけられない企業も多く採用代行の相談も当社に寄せられている。中部の転職希望者では、エンジニアや金融専門職が多い。リスキリング導入の影響もあり、未経験の職種への転職希望者も増えている。また、6割の転職者が給与アップも目的としており、企業の給与水準の底上げに影響している。企業にとって採用体制の再構築は重要である。また、採用後の定着率も重要であり、当社グループのシンクタンクであるパーソル総合研究所より、ご説明する。

<小林祐児氏>

自己紹介

 大学では社会学を専攻し、NHK放送文化研究所に勤務した後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年に当社に入社した。労働・組織・雇用に関する多様なテーマの調査・研究を行っており、多数の著書も出版している。

今なぜ早期離職が問題になるのか

 早期退職が増加した背景には、ビジネス環境の変化が速くなったため、未経験からじっくり育てるという伝統的な企業内育成が限界を迎えた事にある。就職者にも我慢せずに転職するという意識が高まってきた。戦後から微増してきた転職希望者は近年大幅に増えてきた。また、転職へのポジティブなイメージも向上し、長く働いて社内昇進することを希望する人が減ってきている。つまり、組織からの遠心力が強くなっているのである。戦略的に組織への求心力を高めるために、パーパス経営や対話などの組織開発といった手法はあるが、新人に対し効果が期待できるオンボーディングについて説明したい。まず、新人の職場に対する期待と受け入れ職場の新人に対する期待に大きな隔たりのある場合が散見される。この課題をオンボーディングの活用により解決していかなければならない。

オンボーディング基礎編

 入社歓迎会や研修とは異なり、オンボーディング施策とは新人のスムーズな定着と活躍のための組織的な仕掛けであり、職場での支援である。職場での支援には、プライベートも含めた安心・安全を提供するセーフティーネット支援、仕事や振る舞いへの振り返りの機会や気づきを提供するフィードバック支援、業務に関する助言や指導を行うメンタリング支援、人脈や知識の媒介である人とのつながりを提供するネットワーク支援の4つの支援が等しく重要である。業務支援と比べ、ネットワーク支援やフィードバック支援は薄くなる実態がある。この2つの支援は自然にやらなくなるため、意識づけが必要である。
 オンボーディングを考え、新人を迎え入れるときに立ちはだかるのが、「こんなはずではなかった」という「Reality Shock」である。入社時に感じたイメージのギャップはさまざまである。入社時にReality Shockが高かった社員はどんどん就業満足度が落ちる。退職者調査にあまり意味はなく、あてにはならないがReality Shockは退職の大きな原因になっている。

これからのオンボーディングのための3つの発想転換

 Reality Shockの処方箋としてよくいわれるのが、事前に伝えることだが、現実には難しい。採用時に窓口担当者は会社という主体としてふるまうが、会社の組織には多くの人がおり、その人の採用の目的等が組織で全く共有されていないことが、採用の「リアル」である。そもそも職場のリアルは社内で統一されていないのである。「なぜ入社したか」など全く情報が展開されないまま、教育係に引き渡すだけの「放り出し」型入社が現実である。ここで発想を転換し採用をした後にリアリティの統一と期待値の調整を行うことが必要なアクションとなる。入社者の入社目的や人物像を見える状態にすることは採用後にもできる。これが1つ目の発想転換である。
 入社者の組織へのマッチング発想は正しい事かどうかは見直す必要がある。マッチングの前提は、入社者の自己認識と組織の事が正確にわかっている事、そしてこの2点が変わらない事にあるため、大変難しい。マッチング発想は変化の激しい時代には不向きなのである。
 また、オンボーディングは誰のために行うかということも考える必要がある。多くは新人の定着を目的としている。ミドルシニアになるほどアンラーニング(学習棄却)できない傾向が強くなり、古いやり方に固執する。また、ベテランになるほど変化適応力が低下するのである。また、役職滞留年数の長い人やそこそこ人事評価がいい人のアンラーニングの平均値は低い。日本の人事制度はそこそこ評価のいい人を量産する制度の会社が一般的だ。よって仕事の成果とやり方を変える事の柔軟性がなくなってくるのである。この硬直化によりオンボーディングの難度は上がるのである。これらを防ぐためのキーワードが「越境学習」である。アウェイに行かせる事が必要なのである。この「越境学習」をオンボーディングに当てはめると「新人から学ぶ」ということになる。自社の正解を教えるのではなく、正解を共に見つけていく事が必要である。オンボーディングを自社と社員の学びの機会ととらえることが2つ目の発想転換であり、すでに何社かが取り組んでいる。
 最も重要なネットワーク支援は自組織に馴染ませようとするクローズド・オンボーディングに偏るが、組織を超えた交流によるオープン・オンボーディングが仕事には重要である。組織の外の人と交流がある人ほど自組織に馴染み、仕事への慣れも早い。自職場の理解や意識が他組織との接触によって形成されるのである。新人を辞めさせたくないと思ったら旅をさせる事が必要なのである。すなわち、多様なコミュニティに参加させることである。企業間で副業支援や企業横断型のキャリア形成支援(クロスカンパニーメンタリング)等が近年この手法として取り上げられるようになってきた。

まとめとメッセージ

 オンボーディングは管理職だけが知っていればいいことではなく、関わる全ての人が知っておくべきことである。オンボーディングへの課題を上司と新人やメンバーが共有し、コミュニケーションの共通前提をつくり、同じ土俵に乗せるアプローチが重要である。
 多忙な管理職のためのオンボーディングは、入社者とともに実施するものであり、3つ目の発想転換である。

目次へ

【6年2月度 産業懇談会(火曜G)模様】

テーマ: 『 メンタルケアの重要性―企業メンタルケア リーダーのメンタルケアの必要性』

  • 日  時:令和6年2月20日(火) 12時00分~14時00分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 3階 桂の間
  • 参加者:39名
スピーカー:
中村 琴姫(なかむら ことひ)
株式会社GUTS PLUS 代表取締役
心理相談室こころの保健室 メンタルケア心理士
写真:中村 琴姫氏

精神疾患の早期発見の重要性

 調子が悪い社員は出勤しても、健康問題によりその人本来のパフォーマンスが発揮できていない。これは日本の労働生産性が低下するひとつの原因で、問題視されている。調子の悪い方は、身体の不調またはメンタルの不調を抱えていて、メンタルヘルスの不調は、不眠に表れることが多く、認知力や記憶力の低下など能率が下り、企業の損失となる。いち早く体調不良の方を見つけることが重要。
 職場のストレスは、仕事の質、仕事の量、職場の人間関係に凝縮されており、これをストレス三大要因という。精神疾患は、まず身体と精神(脳)の疲労が蓄積し、集中力の低下や眠気、さらには焦燥感や不眠が現れ、限界を超えると「うつ」に至る。うつ病は脳の疾患であり、再発の可能性が高いという点で非常に厄介であり企業にも対策が求められている。うつ病は初期の段階でしっかり治療をすれば、再発率は低くなるため、厚生労働省によるメンタルヘルスの対策として「セルフケア」「ラインケア」「事業場内の産業医などによるケア」「心療内科などの事業場外の外部資源によるケア」の4つが提唱されている。その中で上司が部下を把握するという「ラインケア」が企業のリーダーの課題となる。事業場内のケアについては、厚生労働省のガイドラインにストレスチェックと産業医によるケアが求められているが、ストレスチェックが実施されるだけでは対策に繋がらない。そういった面からもラインケアの重要性は高く、リーダーの負担は大きくなっている。時代は従来の管理体制の健康管理から従業員を重要な資源ととらえる健康経営にシフトしている。調子の悪い従業員になるべく早く気づき、早い段階での対策をとることが重要となる。しかし対応するリーダーも悩みにどこまで踏み込むのか、悩みを聞く心理的な負担、そのタイミングがわからないなど、多くの悩みがあることも現実である。対応しきれない問題は、自分で何とかしようとせず素早く心理士や精神科医に繋いでほしい。こうした環境の中でまずはリーダー自信がメンタルを整え安定する事が最重要である。

リーダーのメンタルケア

 リーダーはどのようにメンタルケア、セルフコントロールをすればいいのだろうか。セルフコントロールのためには、「ストレスの同定」「認知のモニタリング」「マインドフルネス」「認知の再構成」の4つを推奨。これらは認知行動療法モデルというエビデンスのある手法でもある。
 さらに定期的にこころの棚卸を行い自分の心を見つめ直す時間を作ることで、心に余裕が生まれパフォーマンスが向上する。こうしたメンタルの自己管理をするためには日常的に心理カウンセラーなどに話を聞いてもらうことが重要である。

こころの保健室とは

 こころの保健室が行う企業のメンタルケアはアメリカで行われている従業員支援プログラム(EAP)に位置付けられ、社員のメンタルケアを目的とし、様々なメンタルの問題を社内外から客観的に企業や個人を尊重した取り組みを行っている。企業には、管理負担の軽減、離職率の改善、問題解決に向けたコンサルテーション、企業ブランドの向上等様々なメリットがある。また、社員も煩わしい手続きをせずに、専門家に相談ができ、医療機関への橋渡しのサポートを受けられるメリットがある。メンタル疾患による休職者への復職のサポート、研修なども行っている。企業内でこころを大切にする重要性が高まるなか、こころの保健室が会員企業の力になることができればと思っている。

目次へ

【6年2月度 産業懇談会(水曜第1G)模様】

テーマ: 『 コーヒーの基礎知識と美味しい淹れ方』

  • 日  時:令和6年2月21日(水) 12時00分~14時00分
  • 場  所:名古屋観光ホテル 3階 桂の間
  • 参加者:22名
スピーカー:
矢野 貴士(やの たかし)
UCCコーヒープロフェッショナル株式会社
名古屋支店 支店長
写真:矢野 貴士氏

コーヒーの基礎知識

 日本人のコーヒーの飲用杯数は現在日本茶を上回っている。コーヒーを飲みすぎても体に悪いことはなく、現在さまざまな効能が研究されている。コロナ禍でもコーヒーの生産量、輸入量は伸びており、赤道を挟んだ南北25度のコーヒーベルト地帯の70か国で商業用コーヒーは栽培されている。1位はブラジルで世界の30%以上が収穫されている。現在はベトナムがコロンビアを抜き2位となっている。ベトナムのコーヒーが病気に強いことも急成長の一因となっている。当社もベトナムに現地法人を設置している。コーヒーはアカネ科の植物からとれる果実であり農産物である。ジャスミンの香りがする花がコーヒーチェリーとなり手摘みで収穫されるが、これは食べられない。このチェリーの中に2つの果実が入っており、これを取り出し「精製」という加工工程で「生豆(なままめ)」となる。日本向けの生豆は厳しい審査を通過し、ファーストクラスレベルのものである。一方で「生豆」は農産物なので規格外のものも多くでき、これは現地の方が召し上がっている。1本の木から2kgのコーヒーチェリーが採れ、その果肉を除去して焙煎するため、焙煎豆は400gしか採れない。大変手間のかかる貴重なものであり、創業者である上島忠雄氏からは1粒1粒の豆を大切にと言われ、今も引き継がれている。
 コーヒー発祥の地はエチオピアである。コーヒーの発見は諸説あり、キリスト教徒には「ヤギ飼いカルディーの伝説」、イスラム教徒には「シェーク・オマールの伝説」といったものが伝承されている。日本のコーヒーの歴史は、オランダ商人が持ち込んだ長崎から始まった。大田蜀山人がオランダの船で飲んだと記録されている。その後、上流階級の社交場として東京の湯島に日本初の喫茶店が開業した。
 生豆は生産地で麻袋に入れられ、横浜や神戸に運ばれる。その後「焙煎」と呼ばれる工程で加熱加工することで、私たちがよく知っているコーヒー豆となる。焙煎は「浅煎り」「中煎り」「深入り」の8段階があり、浅煎りは酸味が強く、深入りは苦みが強い。コーヒーポリフェノールは浅煎りに多く含まれるが、カフェインの量は変わらない。なお、名古屋では齋藤コーヒー株式会社が、精選、焙煎、粉砕、出荷を行っている。
 コロナ禍で、飲食店の休業や廃業が続き、客足も遠のいたため、コーヒー市場は大きく減少したが、自宅でおいしいコーヒーを飲みたいという消費者ニーズがあり、家庭用の需要は増加した。この傾向が続き、家庭でいいモノを楽しむ傾向が強くなり、プレミアムな品揃えが必要になっている。
 SDGsへの取り組みはコーヒーも同様である、有機栽培やレインフォレストアライアンスなどのサステナブルな取り組みが重視されている。フェアトレードも重視されており、フェアトレードプレミアムの認証が影響する。なかでも、有機農法は認証のハードルが高く、レインフォレストアライアンスは産地の原生林の状況や生産者の子供の出生記録や通学の証明なども必要になる。この2つの認証を受けたものが本日お配りした一般には販売されていないダブル認証のコーヒーである。

おいしいコーヒーの淹れ方(ペーパードリップ)

 おいしいコーヒーを淹れる基本は、(1)新鮮な豆を使うこと(2)器具にあった挽き方をすること(3)コーヒーの粉は適切な分量を使うこと(4)適切な水を使うこと(浄水でなくても軟水でよい)(5)適切な温度で清潔な器具を使うこと(6)抽出時間を守ること、の6つである。
 豆を粉にするグラインドについては、5段階に分けられるが、中細挽きか中挽きが家庭用のドリップには適切である。ペーパードリップのおいしさは90%以上が「蒸らし」で決まる。蒸らしは20秒で、お湯は注ぐというよりも乗せるような気持ちで入れて欲しい。蒸らしの目的はお湯の通り道を作り、抽出効果を高め、雑味を入れないことにある。お湯をペーパーに沿っていれると紙の臭いが入るので、中央部からゆっくりと円を書くようにお湯を乗せる。その後はお湯との角度が90度になるようにゆっくりと丁寧に丁寧に中心から「の」の字に注ぐ。ゆっくり注ぐためにポットは細口のものを使う。一杯分のコーヒー140ccは、中細引きの粉を12g、160ccのお湯で、蒸らしに20cc、続いて80cc、40cc、20ccと3巡で抽出する。注ぐスピードは一定にする。お湯の温度は95度前後が望ましい。沸騰したお湯を細口のポットに入れ替えることでこの温度となる。まずは蒸らし20秒をしっかり行ってほしい。

最後に

 UCCでは、イベント等でおいしいコーヒー以外にも、フードペアリングの提案なども行っている。機会があればぜひ参加していただきたい。

講話後には、矢野氏と営業課長の岡本嘉弘氏からおいしいコーヒーの淹れ方のレクチャーを受け、参加者全員で実習を行った。

写真:コーヒーの美味しい淹れ方実演
写真:実習風景1
写真:実習風景2

目次へ

【4月度産業懇談会のご案内】

 4月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 定員は引き続き、先着40名を目安に運営します。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

4月9日(火)
12:00~14:00

『朝日遺跡と清須城~発掘調査で探る弥生と戦国時代の巨大遺跡~』
山眞産業株式会社花びら舎 代表取締役 平出眞氏のご紹介
あいち朝日遺跡ミュージアム
学芸員 梅本 博志 氏

若宮の杜
迎賓館
1階 橘の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

4月17日(水)
12:00~14:00

『りそな再生の歩み~りそなショックから変革への挑戦~』
株式会社りそな銀行
名古屋営業本部長兼名古屋支店長 小松 美仁 氏

若宮の杜
迎賓館
1階 橘の間

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

4月10日(水)
12:00~14:00

『余病が会社にもたらす影響』(仮)
株式会社マイ・ポジション
取締役社長 渡辺 大 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

4月4日(木)
12:00~14:00

『NTTドコモの災害等への取り組み』
株式会社NTTドコモ
東海支社長 田畑 智也 氏

名古屋観光
ホテル
2階 曙西の間

目次へ

【5月度産業懇談会のご案内】

 5月度産業懇談会は、下記のとおり開催いたします。
 定員は引き続き、先着40名を目安に運営します。
 何卒、ご理解・ご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。

グループ名 世話人 開催日時 テーマ・スピーカー 集合場所
火曜グループ

富田 茂
広井幹康
深田正雄

5月14日(火)
12:00~14:00

『食×ワイン×観光~官民連携による地方創生~』(仮)
長瀬電気工業株式会社 代表取締役 屬ゆみ子氏のご紹介
北海道中富良野町長 小松田 清 氏
※昼食時に北海道ワインをお楽しみいただきます。

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第1グループ

淺井博司
足立 誠
落合 肇

5月15日(水)
12:00~14:00

『人口減少社会における人財戦略~ご出席者の皆様同士の意見交換も交えながら~』(仮)
株式会社ジェイエイシーリクルートメント
東海拠点統括部長兼名古屋支店長 大森 真一 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

水曜第2グループ

大倉偉作
香川裕子
高見祐次

5月8日(水)
12:00~14:00

『東海東京証券の取組み』(仮)
東海東京証券株式会社
取締役会長 佐藤 昌孝 氏

東海東京証券
オルクドール・サロン
ホール

木曜グループ

河村嘉男
中林直子
吉田憲三

5月16日(木)
12:00~14:00

『リーダーに必要な相手の心を開くすごい話し方』
丸菱工業株式会社 取締役会長 河村嘉男氏のご紹介
フリーアナウンサー/話し方・コミュニケーションコンサルタント
株式会社インスパイア
代表取締役 生田 サリー 氏

名古屋観光
ホテル
3階 桂の間

目次へ

【コラム】

コラム1 【さっかの散歩道】 No.69

長瀬電気工業株式会社
代表取締役 屬 ゆみ子

『 シンガポールの旅 その1 』

中部経済同友会海外視察の集合写真

 2月末、同友会で初めて海外視察に参加した。
 行先はシンガポール、昔トランジットで素通りしただけで、私にとっては全く未開の地だ。そもそも来年で建国60年という生まれて間もない国だが、金融ハブ、流通ハブとしての振興は力強く、アジア圏のみならず世界経済にも影響力があることは言うまでもない。そんな元気な国の視察を楽しみに~と荷造りしつつ「あ、右足捻挫してた」が頭をよぎる。ま、全行程バス旅行だからきっと大丈夫!とたかを括り、さすがにハイヒールはつらいので踵のない革靴を購入し、それで出発することにした―これが間違いの始まりだった。

 到着後すぐに、現地三菱商事の支店長宅にてシンガポール大使と支店長のお話を伺うということで、ちゃんとした格好で来なさいとのお達しがあったが、「いやいや、飛行機6時間のうちに、洋服が皺だらけになるほうが失礼だろう」と思い、機内で着替えるつもりで(大体シンガポールは気温30度越えで、こちらとは25度も気温差があるし)意外にカジュアルな格好で空港に向かったのだが、皆さんちゃんとネクタイしてたりして、初参加としてはかなり不安な気持ちになってしまった。
 旅の服装選びは何かと悩ましい。単なる観光旅行ならまだしも、公式訪問の場合、行く場所、会う相手、時間、会の趣旨にあわせて全ポーズ持参が基本となる。とくに女性は洋服だけでなく靴のプロトコールもあるので、2泊4日とはいえディナー用ワンピースドレス(2着)を含め、靴は新調した1足で事足りるよう最小限のパッキングをした。若かりし頃、ヨーロッパでやらかした苦い経験もあるのでその辺は抜かりなく~と思っていたのだが、どうやらそれは今回の旅にあまり必要なかったようで、ワンピースドレスに至っては、着替える機会もなく…でも、せっかく持って行ったので、ホテルのバーで反省会?男気じゃんけん会の時に1着だけ着用した。

 大使、支店長のお話は、委員会報告で正しくお知らせがあると思うので、私のウル覚えでいい加減なことは書かないようにするが、記憶に残ったのはスタートアップに対する国のエコシステムの充実と安全保障に対する中立性、人口減少の対応など。コンパクトな国家だからこその施策がちゃんと行き届いているのだなという印象だった。
 お話の後、和食のケイタリングを用意してくださったのだが、それよりなにより、私の眼にとまったのはバーコーナーに鎮座するワインセラー♡。そしてバーカウンターにはワインクーラー♡。行きの飛行機でもシャンパンを数杯(あえて数は言うまい)平らげたけれど、やはりね、懇親はワインとともに深まるのだよ、とほくそ笑んだ。聞けば支店長もワインがお好きで、ニュージーランドの「クラウディ・ベイ」がお気に入りなのだとか。ルイ・ヴィトングループ、現在のモエ・ヘネシーがニュージーランドで作っているシャルドネとピノノアールが並ぶ。事務局の菱川さんが、気を使っていろいろお食事をとお声がけいただいたのだが、いえいえワインがあれば御馳走なので、と、そんな話で支店長と盛りあがっていたら、「春には本社に戻るのですよ」とのこと。

写真:月

「え?じゃセラーのワインは??」「あ、大したものないけど好きなのあったら開けてもいいですよ」(^。^)))わーい!!大好物なご提案!!(誤解のないように言っておきますけど別におねだりしたわけではないですよ、同友会の名誉のためにも)で、セラーを拝見すると、いま日本では品薄になっているシャンパーニュ、LPがうんと沢山入っているではないですか!!「支店長!シャンパンなんか開けてもよいですか?」「大したもんじゃないでしょ?」「いえいえLPは大好物です」スタッフの方が抜栓するのをワクワクしながら見つめ、ご相伴に預かった。お陰で朝からの、洋服から始まった不安は、グラスの中の泡とともに一気に消えた。そう、今宵は満月、スノームーン。地球から最も遠い満月で、星読み的には新たな1年の始まりだといわれている。きっと明日もよい日になるだろう、と帰り道見上げた月をフレームに収めた。

 翌日。前夜ホテルのバーで盛り上がった男気じゃんけん飲み会のアルコールもすっかり抜けて、バスに乗り込み、朝一のマーケットに向かう。暑いことは分かっていたけれど、クーラーがかかった室内との温度差は結構つらいと聞いていたので、外はカジュアルなカットソー、室内用のジャケットとストールを持ってお出かけする。

写真:地元市場での食事風景

 地元の市場やスーパーマーケットは、夜の屋台と同じくパブリックな文化がぎゅっと詰まっているのでとても興味深い。各自マーケットを一周りすると、やはり気になる市場飯。地元の皆さんが列をなして朝ごはんを調達中だ。ん~興味はあるけどお腹大丈夫かなと二の足を踏んでいると果敢なチャレンジャーが登場!富田隊員(敢えてそう呼ぼう!)がカレープレートを購入、試食する。毒見役を見つめる外野。「以外にうまいぜ!!食べてみてよ」で、みな恐る恐る手を伸ばす。そのお味は、インドのカレーともタイのスパイスとも違う、さらっとした野菜の風味と出汁がきいたカレーで、結構日本人好みな味わいだ。と、2日目のスタートは上々の滑り出しだったのだが、次第に右足が疼き始める。バス移動とはいえ、街中でバスの乗降場所が限られていて、結構歩く。歩きながら寺院散策もあり、また昼食前のセミナー会場、昼食場所と予想外の徒歩移動(この日の歩数は1万歩弱)。「足痛いよー」なんて新参者が子供の駄々っ子みたいなこと言えないし、こんなことなら履き替えようにスニーカー持ってくればよかったと、だんだん無口になってゆく。(どこかでサンダルとか買うタイミングあるかな)と思いつつ、知ってる町ならまだしも、初めての場所で一人集団離脱はリスクが大きいしなどと悶々としながら、これはいよいよ明日が心配。一応痛み止めは持ってきているけど、誤魔化せるところまで誤魔化してみようと腹をくくる。昼食をはさんでのセミナー、研修も何とか終えて、一度ホテルに戻るなら速攻隣のショッピングモールにサンダル買いに行こう!のひそかな目論見も外れ、そのまま夕食会場に行くことになった。
 あ、文字数オーバーしそうなので、続きは次回、さっかのわがまま炸裂編で!!

目次へ

コラム2 【師、曰く】 No.34

妹尾 鷹幸(ペンネーム)
(株式会社構造計画研究所 名古屋支社長 妹尾(せのお) 義之)

ペンネームは、恩師、田坂広志先生の多重人格マネジメント、作家人格の名。心に鳴り響く言葉を今回も一筆。

『 直観 』

 私の住む蒲郡に、美しい虹が架かりました。顔を濡らす雨粒さえ忘れ、無邪気に直観しました。「私も、架け橋になれる。」

 リーダーやマネージャー、経営者への田坂講義は、『直観』について語られることが多い。『直観は過たない。過つのは判断である。』この言葉を、幾度も耳にした。直観ではNOと感じているのだが、データや情報、意見を集め分析検討し、GOという判断を下す。しかし、右肩上がりではない、「複雑系」の色濃い現代は、客観的データで予測した未来であっても、バタフライエフェクトで簡単に変わる。GOの判断を過つ。ましてや、エゴの入った意見で下された判断なら、尚更だ。危機的状況での決断には、客観的な分析検討は無論必要だが、日常の何気ない小さな偶然を通じ、聴こえてくる「天の声」ともいうべき『シンクロニシティを感じる力』や、『直観力』が非常に大切となる。では、如何にすれば、その力が身につけられるのか?

 以前の私は、承認欲求も強く、一番に拘り、エゴが強かった。だから、数多くの失敗や敗北、挫折や喪失を体験してきた。若かりし頃は、なぜ自分ばかりに苦難が降り注ぐのかと、天に唾したこともあった。自分しか見えていない時期は、本当に苦しい日々だった。しかし、田坂講義から学んだことは、それは「幸運」であったということ。「人生起こること、すべてに深い意味がある」という、「絶対肯定」の想念の世界。「幸運」は「不運」の姿をしてやってくる。「天に導かれる」ということの意味は、順境や幸運ばかりをいうのではない。むしろ、その逆なのだと。逆境は、天が自分を「成長」させようとしている導きなのだと。田坂先生は、順境も逆境もないと信じられている。すべてを天に委ね、自分は為すべきを為せば良い。いつしか、そう信じれた。

 今年1月から不思議と「シンクロニシティ」に導かれるように、諸々の行動を実践してきた。ある日、美しい虹を見て、「無邪気」に“架け橋になれる”と「直観」した。別のテーマとなる「運を引き寄せる」為には、潜在意識から「絶対肯定」のポジティブさが必要だが、その一例が「無邪気」さだ。その後も、不思議な数々の偶然の出逢いに恵まれ、かつての人脈とも繋がり、些細な行動を積み重ね実践し、有難いシンクロニシティも絡み合い、ささやかな架け橋が実現しようとしている。では、如何にすれば、『直観』や『シンクロニシティ』を感じる力を身につけることができるのか?

 師、曰く『それは、「祈る」ことです。「導きたまえ」と祈る。ただ、大いなるものにすべてを任せる 「全託の祈り」です。願望や要求(エゴ)の祈りではありません。』私も数年来、「ありがとうございます。導きたまえ」の修行を続け、蒲郡に住んで一年半以上、日々その修行を愚直に繰り返している。架け橋は第一歩。さあ、これから何処へ導かれるのか、何を与えられるように成長できるのか、ワクワクしています。修行は続くよ、どこまでも。最後までお読み頂き、ありがとうございました。

写真:虹
(蒲郡の町に架かる虹)

目次へ

コラム3 【げんき通信】 No.7

学校法人佑愛学園
愛知医療学院短期大学
リハビリテーション学科作業療法専攻
講師 渡邊 豊明

『 香りが一瞬で脳を元気にする 』

 感染症や花粉症の予防などからマスク生活を強いられている人がいるかと思います。これによって強く失われてしまうものがあります。それは、匂いを嗅ぐことです。日常的にある光景、例えば、焼き鳥屋の前、庭先の金木犀(きんもくせい)、植物園のゆりやバラなど、ふと良い香りがした時、つい足を止めて嗅いでいましたが、これらを失いかけていないでしょうか。
 匂い(香り)は嗅覚とも言い、五感の一つです。嗅覚は五感のなかでも太古から存在する原始的な感覚とされています。嗅覚の情報は視覚情報と違い、大脳新皮質を経由せず、本能的な行動や感情、直感に関わる大脳辺縁系にダイレクトに届くのが特徴です。そのため、何の香りかを判断する前に感情が動きます。さらに香りの情報は、脳の視床下部に伝わり、人間の生理的な活動をコントロールする自律神経系・ホルモン系・免疫系に影響をあたえ、心身のバランスを整えています。香りは一瞬にして脳を活性化し、感情をリセットするのに有効な手段なのです。
 身近な香りは、どのような効果があるのでしょうか。少し例を挙げたいと思います。春を代表する沈丁花(ジンチョウゲ)は、リラックス効果や精神的な疲れを和らげます。すずらんは、集中力を高める(作業ミスの軽減)、疲労感の軽減、ヒノキは、抗菌作用、消臭効果、リラックス効果、リフレッシュ効果、コーヒーは、リラックス効果、集中力を高めると言われています。また、認知症にも香りが関係しています。記憶の障害よりも先に、嗅覚の障害が現れます。認知症の検査に香りを判別する検査も用いられ始めました。あなたの嗅覚は大丈夫ですか。
 さいごに、日常の中で意識的に足を一歩止めて、周囲の匂いを嗅ぐこと、新しい言葉にするならば、「嗅覚生活」を始めてみませんか。

-学校法人佑愛学園は2024(令和6)年4月、愛知医療学院大学を開学いたします。-

イラスト:花
すずらん
(花言葉:純粋、希望、幸せの再来、など)

目次へ